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「人材」に対する基本思想の転換を――人材をめぐる戦略的課題2

■会社と社員の関係


「社会の急激な変化に対応して、人材に対する基本思想も転換しなければならない。そのヒントとなるのが「ヒューマンキャピタル」というコンセプト」。これは、世界的な人材戦略コンサルティング会社・、ワトソンワイアット日本法人の代表・淡輪敬三氏の著書『ビジネスマン・プロ化宣言』(かんき出版)に書かれている文章である。この淡輪氏の著書をベースに、「人材をめぐる戦略的課題」について改めて考えてみたい。


日本の企業における会社と社員の関係の変遷は、これまで「レーバー(労働力)の時代」→「ヒューマンリソース(人的資源)の時代」を辿ってきた。
レーバーの時代とは、社員が自分の労働力を会社に提供し、会社は、社員が労働力を提供しているかぎりにおいて生活を保証するという考え方に基づく。
それがヒューマンリソースの時代となり、社員を経営資源のひとつとして捉え、人材をコストとする考え方となった。そこでは、社員は会社に変わらぬ忠誠を誓い、それに対して企業は社員の生涯の雇用を約束する。すなわち、終身雇用・年功序列を特徴とするいわゆる「日本型人材マネジメント」である。そしてこのマネジメント手法は、それが先進資本主義社会で最も優れた経営モデルのように思われ、一時期はグローバルスタンダードとなってもいた。
しかしこのヒューマンリソースの発想は、現行のビジネスモデルが変わらないことを前提にできあがっているため、現在のような急速で激しい変化の時代には対応できない、と淡輪氏は述べる。
そこで冒頭の、ヒューマンキャピタル(人的資本)というコンセプトに基づく「ヒューマンキャピタル(人的資本)の時代」に移行することが必要となる。これは従来のように人材をコストとして考えるのではなく、資本として捉える考え方である。


人材をコストとして、すなわち設備・機械と同様の固定費として捉える考え方の中で、企業は終身雇用する代わりに「その会社」に従属する存在として、人材を育成し組織しマネジメントしてきた。それは、決まった業務を効率的に回すことが目的とされたもので、ある意味つぶしのきかない人材を生み出すこととなった。
しかし経営を取り巻く環境の変化は、機動性・応用力・アイデアを持ちリーダーシップを発揮できる「自律した人材」を強く求め始めている。そのためには、人材に対する基本思想の転換が必要なのだということである。

■ヒューマンキャピタルの思想と課題


淡輪氏はヒューマンキャピタルのコンセプトについて、「ここでは契約の本質はエンプロイヤビリティ(市場で雇用されうる能力)」を高める「場」と「環境」の提供を保証することにあります。どこで働くにしても、一定以上の成果を生み出すことのできる能力をつけ、磨きをかけるチャンスを会社が社員に対して用意する、ということです。そして社員は、成果に対してのコミットメントを会社に向けて約束します。「成果を出すために全力を尽くす」ことを約束するわけです。」「こうなれば、企業と社員個人の関係も変わらざるをえません。社員は会社の所有物ではなく、両者は対等のパートナーとなります」と述べている。
ちなみにコミットメントとは、「約束」「誓約」「関与」などと訳されるが、意味合いとしてはもっと重く、「責任をもって関わること(それを明言すること)」となる。
さらに、「また、この段階では、企業の競争力と収益力の源泉は、知的資本に移っています。それを担う人材こそが資本と位置づけられるのです。報酬についての考え方が変わって、「リターン(収益配分)」「リウォード(報酬)」といった形が中心となるでしょう」。「このように、人材に対する基本思想を転換することこそが、ひいては日本企業再生へのカギとなる、そのように私は考えています」。「本来、人間の持っている可能性は無限大です。この、人材のもつ可能性に対する信頼をベースにして、企業のあるべき存在価値というものを問い直す必要があるのです」と結んでいる。


そして課題として、淡輪氏の二つの観点をご紹介する。 一つは「年功序列」についてで、「「今後は若手にまかせていく時代」であるとか、「50歳以上は消えたほうがよい」という議論が、なぜか比較的高齢なトップから聞かれます。これは論理的におかしな議論です。75歳まで人間の脳の機能は低下しないという研究報告からみれば、「定年」という概念さえも再考されなければなりません」。「もともと「若手」や「中高年」という概念は、終身雇用を前提とした「年功序列」が社会のルールであった時代の遺物です。つまり、いまの日本は30代であろうが、40代、50代であろうが、年齢にかかわらず新たな価値創出の枠組みを生み出す力をもった人材を必要としているのです」とし、その上で「人材の目利き」の必要性を述べている。
すなわち「日本の企業は人材を見るための「目」を開発してきませんでした。これからは、組織として人材をきちんと「目利き」する必要があります。組織が必要としている人材を見出し、新しいリーダーたちが現れる確率を高めることが、いまの日本の企業にとっては急務です」。


会社のライフサイクルには、創業期→発展・成長期→安定・修正期→衰退期という流れがある。印刷会社の大半は、これまでの安定期を衰退期に移行させないための「修正期」にある。
そこでは変革が必須であり、人材の基本思想の転換と、マネジメント手法の見直しが求められるのである。


11月30日(木)開催のJAGAT「経営シンポジウム2006」では、本文で触れたワトソンワイアット株式会社・代表取締役社長・淡輪敬三氏に「人材を経営資源としてではなく資本として考えるマネジメント」に関して基調講演いただきます。
その後のディスカッションでは、会員企業、株式会社プロネート・代表取締役社長・狩野征次氏、大東印刷工業株式会社・代表取締役社長・佐竹一郎氏にご参加いただき、基調講演の提言を印刷会社に取り入れるための方法をめぐる議論をしていきたいと考えております。

2006/11/23 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会