JAGAT常務理事 小笠原 治
JAGAT研究調査部 副参事 郡司 秀明
JAGAT主催の「PAGE」は、プリプレスのデジタル統合処理の啓蒙を目的に1988年2月、JAGAT20周年記念イベントとして開催された。DTPによるプリプレスの変革を経て、IT化による情報コミュニケーション再構築へと常に時代をリードし、既存の業界の枠組みを超えたあらゆる産業の方々から、大きな期待と関心をいただけるものに成長した。
20回目の開催となる「PAGE2007」は、例年と同じくサンシャインシティコンベンションセンターTOKYOで、2007年2月7〜9日に行われる。そこで、PAGE20周年を記念して、この20年間のプリプレス関連の変化を振り返ってみたい。
■前回の記事:「PAGE」の20年と近未来(その1)
郡司 今のスキャナは画像入力より、アーカイブ用の文字入力用だ。単に原稿どおりの製版をするなら、プロ用のスキャナよりデジカメのほうが適しているケースが多い。 スキャナを語るといろいろあるが、結局はその時のノウハウをどう今に生かせるか、何かビジネスができるかが重要だ。昔のことを誇らしげに懐かしんでいても仕方ない。しかし、当時の取り組み姿勢は、今でも生きるはずだ。
小笠原 スキャナとデジカメは、すれ違って出てきたものなのか、継承するところがあったのか。
郡司 私はすれ違いだったと思う。逆に言えば、「デジカメにそのノウハウが入れられるのではないか」と言う人もいるが、RGBとCMYKの世界はやはり違う。
小笠原 製版会社は、デジカメでRGBでレタッチしてしまうことに非常に戸惑いがあった。
郡司 加算混合RGBの世界は、やはり奥が深い。ラチチュードでは、RGBはCMYKに対して3.5倍くらいある。逆に言えば、3.5倍ラフということなので、3.5倍簡単という話にもなる。パーセントでは単純に比較できないが、CMYKで可変量というか、レタッチできる量が10%だとしたら、RGBなら35%までいける。RGBはそのくらいの可変量がある。だから、ちょっと別世界である。
小笠原 デジカメになって、どういう変化があったのか。
郡司 例えばデジカメでプロの撮った料理写真は実に素晴らしい。レタッチのしようがない。レタッチしたらその画質を壊してしまう。いかに原稿どおりに仕上げるかを考えればいい。 ところが、ここまでデジカメが行きわたってしまうと、普通のメニューの写真はその店のマスターがコンパクトデジカメで撮ることが多いが、これはひどい。徹底的にレタッチしないとまともなものには上がらない。
小笠原 それはライティングなどのせいか。
郡司 そうだ。デジカメには、風景モードやポートレートモードなど、いろいろある。ところが、プロは「風景モードが食べ物にはいい」と言う。風景モードでは、緑や青、赤をきれいにするので、これで食べ物を撮ると、野菜や肉が鮮やかに写る。これで撮ると非常にきれいだという。 ところが、素人写真は徹底的にレタッチをやらないといけない。品質はいろいろで両極端である。
小笠原 コンピュータとネットワークが今後何をもたらすだろうか。
郡司 マルチメディアの情報をネットから取り入れ出すと家の中にテラの情報がすぐたまってしまう。紙はどうかと言うと、『R25』のような簡単明瞭なほうがもてはやされている。
小笠原 『R25』は読み切るものである。紙は、置いておいてそのうち読むものから、読み切る形にだんだんなってきている。カタログなどもそうである。印刷物を作る側も、読み切ってもらってこそ情報を渡した値打ちがある。
郡司 むしろ「積ん読」はマルチメディアのほうになっている。だからどうやってその情報を使うかが重要になるだろう。DTPの課題は、マルチメディアの何テラの情報と、読み切る紙の情報をどうリンクしていくかが、肝になっていく。
小笠原 印刷物は、「そのうち読むだろう」なら百科事典のようにどかんと置いておけばよかったが、「今使ってもらえる」ことが最大のポイントになる。逆に、「読むかもしれない」は全部デジタルになる。
郡司 そう思う。私の世代から考えると逆説的だが、それが常識になるような気がする。「CEATEC JAPAN 2006」で一番それを感じた。
小笠原 一般の人が見るディスプレイ表示の色は当てにならないというのが常識である。通販では「実際の色は違うこともある」と注意書きがあるが、ネット通販やテレビ通販が一般化したことで、一般の人が使うものであっても信頼できるカラーが必要になる。
郡司 自宅のテレビがデジタルになった時はがく然とした。今まで見ていたテレビの色は何だったのかと思った。デジタルなら色が合うじゃないか。
小笠原 地デジで絵がきれいと言うが、元はちっとも変わらない。デジタルで送っているだけである。
郡司 アナログ放送の色がいいかげんだった。デジタルになって、もちろん紙の印刷から見ればいいかげんだが、今まで見ていたものとは全然レベルが違う。カラーマネジメントは、デジタルになった時点で別物である。
小笠原 局の中で作った色が、デバイスの差はあるにしろ、少なくとも信号としては1:1でここに来ている。
郡司 そのとおりである。テレビ局にはマスターモニタ、色の基準となるモニタがあって、「どうせ一般家庭で見ている色は違うんだけどね」と言いながら作っていた。ところが、デジタルだとマスターモニタの品質が見える。これは大きな差だ。
小笠原 後少しの工夫で、一般の人もカラーマネジメントしたものを見るようになるだろう。
郡司 カラーマネジメントの前に、デジタルだと別物の画像が見える。その時点で、圧倒的な差である。今までは赤がピンクになっても、そんなものかと思っていた。ところが、赤が赤になる。
小笠原 そういう時代に、印刷あるいは印刷回りにはどういうテーマがあるのだろうか。
郡司 一つは「びっくりするくらいの品質を与えるものでないと受けない」ということだろう。説明して分かるような品質の差では話にならない。そういうものを印刷業界は作らなければならない。私がヘキサクロームなどに注力していたのもそんな理由からだ。
小笠原 今まで4色カラー印刷にコンペティターはいなかった。今はプリンタからディスプレイまできれいな色になってきて、印刷のコンペティターになり得る。印刷は、さらにどんな可能性があるのかを考えなければいけない。郡司 もう一つ、私がこだわりたいのはデザインである。デザインのない印刷物は最低だと思う。デザイン性は重要である。それにITが介在する余地があるかどうかである。
小笠原 デザインをコンピュータにさせることはないだろうが、デザインされたものの解析や作業のログはITで可能で、デザインの補助ツールにはなるだろう。いずれにせよデザインはやりやすくなって、印刷の範囲はプリンタまで広がって、大判プリントなどのビジネスが増えている。プリント技術は素材と直接デジタルでイメージングすることで、広がるところはかなりある。今、産業用インクジェットプリンタの用途開発も広がって、今までは印刷とは切り離されていた世界だったが、手を出せる世界になってきている。
小笠原 また、グラフィックアーツはコモディティ化していく。これからの日本では、中高年の趣味および趣味型コンテンツを生み出していくことは、けっこうあるかなと思う。
郡司 例えば、シニア世代の趣味のクラブが雑誌や本を出すのは、オンデマンドの世界があると思っていたが、紙は必要なくWebで展開すればいいという見方もあるが。
小笠原 本が好きな人は本を作るし、Webの利用も進むだろう。本は本でどんどんマニアックになっていく。両方が進むだろう。
郡司 個人の趣味では動画も伸びていくだろう。
小笠原 動画は最初はうれしくてやるかもしれないが、手間が掛かる。動画は一続きのもののように思われるが、作業する場合は小刻みのものを組み立てることになる。画像と音を分離して、また音を編集して画像と絡めるとしたら大変なので、好きな人はのめり込むかもしれないが、今までのような回りくどいプロセスではダメだ。デジカメで素材を取り込んで画像加工するよりも、むしろCGが活用されるだろう。
郡司 画像作成もパーセンテージとして半分まではいかないが、3分の1くらいはCGになるかなと。
小笠原 これからCGは印刷用としては多くなると思う。本当に写真のようなリアルなものが出てきている。また画像の再利用の際に著作権をいちいち払っていられないこともある。(『JAGAT info』2006年11月号より)
社団法人日本印刷技術協会では、2007年2月7日(水)〜2月9日(金)に「21世紀のカラフルメディア」をテーマとして、「PAGE2007」を開催します。
21世紀は20世紀のメディアの常識を越えて、メディアの種類も表現も、よりカラフルになろうとしていることが、さまざまな兆しからわかります。PAGE2007は、紙を含めたメディアの制作がどのように変わろうとしているのか、どのような価値を高めようとしているのかを追求し、情報の送り手から受け手まで、メディアの発注者から利用者まで、メディアのバリューチェーン全体を取り上げ、多様なメディアを効率的に活用するためのノウハウを焦点に絞った唯一のコンベンションです。
※詳細につきましては、PAGEサイトをご覧ください。
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2006/11/30 00:00:00