2006年の最大の話題の一つは動画投稿サイトYouTubeであろう。日本では2005年にUSENが始めたGyaO(ギャオ)が2006年6月に視聴登録者延べ1000万人を突破した。その時点でYouTubeユーザ数は2000万人以上、1日7000万ビュー、アップされる映像数は1日6万という規模になっている。GyaOはUSEN傘下にCS放送があるように民放のようなビジネスモデルだが、投稿のYouTubeではWeb2.0的な展開も始まっている。htmlで文字情報がネットに発信されるようになり、GoogleMapのように画像もネットで得られ、音楽もネットから買い、動画もネットに探しに行くことが始まっている。
動画に対して人々の関心が高いことは以前からわかっていたことであるし、動画コンテンツのデータベース化や再利用についても、テレビ放送やビデオソフトの業界は昔から検討はしていたであろうが、世の中に対してネットでどんな展開ができるかを示すことはなかった。CD業界もネット販売ではAppleの後追いでしかなかったように、既存の確立した業界では、理念とか「面白そうだ」「便利そうだ」というだけでチャレンジすることはなくなっている。
CATVは既存の業界としては珍しくインターネットの通信事業を取り込むことで浮上したビジネスであるが、ネットの側からもIPTVのように動画ビジネスの動きがある。これからは両者が動画の配信を牽引して、それを放送・ビデオ業界が追いかけるようになるのかもしれない。USENの宇野康秀社長も若いが、Googleによる買収で巨万の富を手に入れたYouTubeの設立者はChad Hurleyが29才、Steven Chenが27才、もうひとり初期に関係していたJawed Karimが27才の若さである。彼らは2005年はじめまでネット決済のサービス会社PayPalで働いていた。(PayPalは日本では馴染みがないかもしれないが、お金をネットで動きやすくするという点では多大な貢献をした会社である。)
この年齢を知って思い出したのは、1998年にドン タプスコット (Don Tapscott)が出版した「デジタル・チルドレン」という本である。Googleの創立者よりもちょい下の層は、アメリカでは第2次ベビーブーマーで、YouTubeの設立者たちが正にそうであるが、デジタルメディア・オリエンテッドになっていて、その人たちをデジタル・チルドレンと著者は呼んで、いろいろな分析をしている。本に書かれている特徴はもっともであり、YouTubeもその特徴と一致するように思える。著者は「デジタル・チルドレンは新しい資本だ」という。
要するにその本が執筆されていたころから10年経った今、かれらはもはやチルドレンではなくなり、本当にそのようなネットジェネレーションによる企業があちらこちらで起こりだしたのである。しかもそれらは既存のメディアビジネスやITビジネスの影響は受けずに、全く自由意志で独立したスタイルで進んでいる。両者はすれ違っていると言ってもいいほどだ。かつてITで勝組/負組という比較をされたことがあるが、「デジタル・チルドレンは新しい資本」だとするなら、あたかも今後は今の30才代までが勝組で、40才以上は負組であるかのように思える。
実際にそういうことはないだろうが、ここに大きな世代ギャップがあり、新たなことをするとなると組織化や雇用や借入金から始まる既存のビジネスに、アイディアを純粋培養しようとする彼らを組み込むことの困難さを感じる。20世紀のマスメディアを「木」とすると、21世紀の若竹は木の上に伸びるのではなく、自分の根でネットを土壌に育つのである。既存のビジネスの枠組みで机上のIT&メディアビジネスプランをたてても、2006年に株を上場したmixiに代表されるように、新たなメディアに関する若い野心的なエンジニアは大企業の元で働こうとはしないだろう。
21世紀はコンテンツの制作環境がデジタルになった「ボーンデジタル」だけでなく、それをビジネス化する人々もデジタルジェネレーションとして新たに産まれているのである。PAGE2007で強調したいのは、過去のアナログにデジタルを継ぐような前進ではなく、21世紀的なメディアのあり方として、著者からクリエータ、デザイナ、編集、流通、そして読者まで、すべてがデジタルでネットワークでつながっていることを大前提として、メディアのビジネスを仕切り直しすることが迫られていることだ。その先にグラフィックアーツのビジネスの発展がある。そこから逆算して今日の課題を考えるきっかけを、PAGE2007でつかんでいただきたい。
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2006/12/28 00:00:00