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自動組版によって進展するオンライン・パブリッシング

Webブラウザからレイアウトを指示し、印刷データ作成と印刷発注をおこなう仕組みを総称して、オンライン・パブリッシングとしている。Web to プリント、サーバ組版、Webパブリッシングなど、さまざまな呼び方がある。
オンライン・パブリッシングを実現したシステムとして、個人向けの名刺・ハガキ・フォトアルバム・ブログ出版などは、既に普及段階にあるし、企業・法人向けのシステムもかなり進んできたようだ。

オンライン・パブリッシングのベースとなる技術には、テンプレートを利用した自動組版、サーバ組版、PDF生成などがあり、またWeb・ネットワークの普及も大前提となっている。
企業では、自社内でレイアウト指示から校正・発注を行うことで自社内のワークフローや発注履歴・コスト管理などの改善効果も大きい。

自動組版とオンライン・パブリッシングの構築を手がけてきた方々に、どのような分野でどのような仕組みが効果的か、今後どのように成長していくのかを伺った。


ネットワークと自動組版

エル・シー・エス 専務取締役 川村則夫 氏

データベースからの自動組版を、20年以上前の電算写植時代から手がけてきた。ネットワークを介して、別のPC上でDTPの自動組版を行うには、サーバ上で使用するためのライセンス許諾が必要となる。アプリケーション、フォントの使用やフォント埋め込み、PDF生成・配布など、元々は1台のマシンを想定したライセンスとなっており、ライセンス上の制約が多かった。

Adobeから、InDesign Server CS2が発表された。サーバOS専用のInDesignを使用するライセンスである。ユーザーインターフェースがなくカスタマイズする必要があるが、従来のInDesignと比較するとパフォーマンスが格段に向上している。ユーザーインターフェースを伴うインタラクティブな処理には向かないが、ネットワーク経由で自動組版を行う環境として適している。

エル・シー・エスの親会社は、ローヤル企画という印刷会社である。ローヤル企画として、2006年に角川書店のグループ会社が発行しているフリーマガジン向けに、ネットワーク自動組版システムを構築した。フリーマガジンの広告営業担当者がWebブラウザ上で組版パターンを選択し、データエントリーを行うだけで、QuarkXPressで自動組版を行い、RIPでPDF生成したものを転送する方式である。現在、このシステムのInDesign Serverの移行を計画している。

印刷会社が、サーバ環境や自動組版システムを提供することは、顧客との密接な関係、信頼関係を構築する上で重要である。結果的に入稿データの完成度も上がり、イレギュラーな対応も可能となる。データの2次利用、3次利用にも展開できるなど、メリットが大きい。


オンライン・パブリッシングとデザインリッチなバリアブル印刷

富士フイルムシンプルプロダクツ 顧問 平田憲行 氏

会社創立以来、一貫してデータベース・アウトプットソリューションに関わって来た。アウトプット環境、Web環境が大きく変化した現在、サーバサイドで稼動するオンライン・パブリッシングとデザインリッチなバリアブル印刷に注力している。

サーバサイド・パブリッシングの例として、顧客サイドでレイアウトパターン選択やデータ入力などWeb入稿を行うと、サーバ上で自動組版を行い、Web校正としてプレビューを返信する。レイアウトが済み、承認を受けると印刷発注するというシステムを構築している。名刺やハガキのオーダーシステムや、パーソナルDM・チラシの製作システムとして稼動している。

また、組版サーバとしてFormMagicを使用した生命保険会社のパーソナル約款システムも構築した。
FormMagicを利用したバリアブル印刷の例として、旅行会社が発行するパーソナル・チラシと「旅のしおり(旅行日程表)」のシステム、さらにデジタルカメラのデータを使ったパーソナル旅行アルバムもある。
フリーペーパーや新聞広告のセルフサービス自動組版システムも構築している。大手学習塾向けの成績データと連動した弱点補強教材製作システムもある。

予備校向けの模擬試験成績表は、以前はモノクロ漢字プリンタで出力されたデザイン性の乏しいものが一般的であった。それをカラー化し、過去の履歴データを反映したグラフ、志望校別確率グラフ、補強ポイントなどをバリアブル組版することにした。成績表にリッチデザインを取り入れたことで、生徒に対する先生のカウンセリング水準が向上し、受験者数の大幅増に成功した。

発注者がイージーオペレーションで原稿入力、校正、発注ができるセルフサービス型パブリッシング、発注承認や受注管理が可能なワークフローシステム、プロ用DTPレベルのリッチデザインが可能なシステムが求められている。今までなかった印刷物を作り出すことで、新しいビジネスを創出することも可能である。


オンライン・パブリッシングの方向性

ロココ SIソリューション部 部長 上田善行 氏

METAWORKSは、InDesignのプラグインとして動作する雑誌やカタログ、新聞などの制作を支援する自動組版ソフトウエアである。既に新聞社や大手出版社、印刷会社などで導入されている。

自動組版のための設定は、直感的なグラフィカルユーザーインターフェースを持っている。データマッピング方式を採用しており、データ項目と動作や判断を表すアイコンをつなぐことで高度な設定が可能である。設定が容易なので、テストや検証も容易に実行することができる。システム構築・導入も容易である。内部的にはXML技術や各種のデータベースなど標準技術を採用しているため、拡張性が高い。
テンプレートを使ったレイアウト指定から自動組版・印刷データ作成までシンプルなワークフローが実現できる。

チケット情報の「Weeklyぴあ」では、既にWebデータ入稿による自動組版システムを構築し、稼動している。日刊スポーツでも、新聞組版と連動したスポーツ結果の自動組版を行っている。

InDesign Serverにも対応する予定である。METAWORKSはサーバ内で動作し、自動組版を実行する。InDesign Serverは、Adobe Flex2によるWebアプリケーションに対応しているため、テンプレート選択やデータエントリーをおこなうためのユーザーインターフェースの開発も容易である。
オンライン・パブリッシングの最大のメリットは、ネットワーク上で誰もが容易にリソースを共有し活用できることである。



数年前まで、DTPアプリケーションの機能は年々高度化し、組版機能の充実や使いやすいユーザーインターフェースを売り物にしていることが多かった。それらの機能は、多くの場合アプリケーションを使いこなすことができるプロフェッショナルを対象にした機能であった。
サーバ上で自動組版を行う仕組みは、一般社員など専門オペレータではない者が容易に利用でき、プロフェッショナルレベルのものを制作するというシステムであり、定期的に発行される印刷物では導入効果が高い。今後も普及していくことが予想される。

2007/02/25 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会