本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

残された色再現のフロンティア

オフセット印刷をしている人の画像品質目標は、製版時代には「カラーフィルムに近づける」ことに限られていた。一方デジタルカメラやインクジェットプリンタはオフセット印刷の品質を追いかけていたのではなく、写真を超えるものを追いかけた結果、オフセット印刷以上の色域や精密さを獲得した。目標が高ければ到達レベルも高く、目標が低ければ到達レベルも低い。技術革新の予測に合わせて自分の目標を設定することが重要である。これからは画像に関してはアナログの写真では撮れなかったものを撮るとか再現することが目標になることは明らかである。

しかしカメラマンの中にはデジタルカメラよりもリバーサルフィルムの方が画像がよいと主張する人もいる。従来から印刷会社には印刷できる画像しか依頼されなかったので、こういった主張に納得するかもしれない。印刷会社にとっては写真で撮れないものとは何かピンとこないこともあろうが、印刷再現の難しいものはいくつか想定できる。産業用では壁紙とかタイルとか口紅・ファンデーションなどで紙に印刷サンプルを作れない分野がある。

従来から写真で撮れないのであきらめていた分野はいろいろある。植物学者は実際の植物の色で写真にはとれないものがあることを経験していて、自分で色鉛筆でスケッチをしてこんな色であったという記録を残している人もいた。それに対してオフセット印刷でも特色刷りとか、6色〜8色で色域を広げたり、プリンタでも薄色を重ねて調子を出すなど再現性を高めるいろいろな工夫がされてきた。

現物の色の参照色を印刷で作れないのは、色域の広さの違いとは限らず、ある場所のある人の目には同じに見えても、違う場所や違う人が見ると異なって見えることがあるからで、これはそもそも複数の色を混ぜて一つの色を表すという「混色」の限界でもある。つまり混ぜてできた色からは、元の色が何と何であったかが特定できず、いいかえると元の色の組み合わせは無限に考えられ、元の色へ照明や見る人の視細胞の特性が変われば、混ぜられた色は異なってしまうという「メタメリズム」を、3原色程度では克服できないことも関係している。カラー写真はCMYフィルタを使い、デジタルカメラがRGBと、いずれにしても画像を取り込む最初の段階であるの3原色であることの制約は逃れられない。

2003年にソニーはRGBに加えて、赤の再現しにくい領域の補色であるE(エメラルド)のフィルタを加えた4色のCCDを搭載したデジタルカメラを発売し、赤の階調表現を改善したことがあった。色域拡大や色再現の忠実性について「あの色をもっと何とか、この色を‥」という個別要求に応え続けていくことは不可能だから、もっと科学的な汎用の方法論として分光的なアプローチが取り組まれつつある。

テキスト&グラフィックス研究会 会報 Text&Graphics 2007年1月号より

2007/03/26 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会