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ネットで情報共有するライセンス・システム

クリエイティブ・コモンズ・ジャパン事務局 弁護士 石新 智規 氏

クリエイティブ・コモンズの始まり

クリエイティブ・コモンズの発端は米国であった。1998年に米国は著作権保護期間を延長したが、その延長法は米連邦憲法に違反すると、スタンフォード大学の憲法学者ローレンス・レッシグが訴えを起こした。結局、レッシグは連邦最高裁で敗れて、著作権保護期間延長法は合憲との結論になったが、しかし、著作権をがちがちに強調しすぎることは文化の発展を阻害するという認識のもと、できるだけ著作権を開放することも考えたいという形で展開されたのが、この運動の始まりというふうに理解してもらいたい。
ローレンスのもとで学び、日本の弁護士資格を有している野口祐子が、現在クリエイティブ・コモンズ・ジャパン(CCJP)の事務局長として活動している。

CCジャパンの立場

CCJPの立場は、現在ある著作権制度を尊重して、その制度の上に立って、より柔軟かつ多様な著作権に関する選択肢を権利者・利用者双方に提供することを目指している。
誕生の経緯から、現在の著作権制度を否定するものと誤解している人が結構多く、説明に苦慮することが多々あるが、我々の活動は決して現在ある著作権法の否定、改正に直結させるものではない。

現在の著作権法は尊重したうえで、より柔軟に、即ち、権利に縛られずにそれを開放する。まず第1にいちいち許諾を要求しないで、ある部分においては自由に使ってもらうということを、著作権者自身が表明する。そうすることが文化の発展に寄与する面が強いのではないかという提唱である。
2つ目に、Web上で何かコンテンツを見つけて使いたいと思っても、今の状態では、複製するには著作権法によって著作権者の許諾が要るというのが原則になってしまい、使い勝手が非常に悪い。Web上にある様々なコンテンツを、できるだけ多くの人が利用して、別の形に作り替えたり、複製して知らない人に紹介したりという形で、ユーザー・フレンドリーな環境を作ることが非常に重要ではないか。そういうことに少しでも貢献できればと思って我々は活動している。
3つ目は、まだ課題の部分も多いが、権利者・利用者双方にとって利便性のあるツールを開発・提供することで、権利内容をマーク表示することを提唱している。なお、クリエイティブ・コモンズが設定しているライセンスを使っているコンテンツについては、Google等で検索できる。検索との連動を強化して、できるだけユーザーに使ってもらいたいと思っているし、権利者にはコンテンツをできるだけ広く提供してもらうような環境作りに貢献できればと考えている。

非専門家も権利流通のプロセスに

著作権法の解釈やライセンス契約は、映像にせよ音楽にせよ、実務上は弁護士がレビューした契約書に基づいてライセンス交渉された結果、ライセンス契約が締結されて、合法な利用ができるという過程を経ていることが多い。そうした状況によって、コンテンツの流通は時間的に遅くなるし、弁護士費用の問題等、コンテンツ流通に対してマイナスに働く部分が大きい。したがって、できるだけ非専門家、著作権にあまり精通していない人にも権利流通のプロセスに入ってきてもらいたい。

ネット上ではどの作品がライセンスを付与されているか、自動的にわからない。例えばブログに、何かの法律を私の視点から解説するような文章を載せたとする。それを第三者が利用したいとき、引用とか著作権法上許される利用形態である場合は別として、まるまるコピーして出版するようなことは、著作権法上は基本的には許諾が必要だという解釈になる。
利用規約を設けている場合には、その中に知的財産権の処理の条項が入っていて、そこを細かく見れば、どういう形で利用許諾を得て利用すればいいのか、どこまで無断で利用していいのかが判断できるが、容易にはわからない。

判読できるライセンス

こうした状況の解決案として、クリエイティブ・コモンズは以下の3点が重要だと考えている。

1つ目の「machine readable=コンピュータ可読性」とは、Google等で検索が容易になり、情報を収集しやすいという環境に適合させるようなものにすることだ。次の「human readable」とは、一般人、非専門家など、法律にあまり精通していない人にもわかるもの。
3つ目の「lawyers readable」、つまり法律家にも読めるという点は、クリエイティブ・コモンズはあくまでも著作権法を尊重する立場なので、日本の著作権法に違反するようなことを推奨するつもりはまったくない。1、2を尊重しながらも、法律家の目から見ても許容される利用形態の提供をする。この3つをすべて覆ったライセンス形態が必要だということである。

著作者の意思の尊重

著作権法の尊重とは、結局、著作者の意思の尊重だ。複製・頒布・展示・実演を制限するかしないかはあくまでも著作者の意思にかかっている。いかなる場合も許諾を求めてほしいというなら、著作権法上認められている権利制限がかかる場合以外については、原則として許諾を得なくてはならない。
原則はその通りだが、ある場合は許諾を求めなくても複製しても構わない、という人もいる。例えば、自分が講演した後に聴衆と議論があり、その結果を踏まえて、クリエイティブ・コモンズについてWeb上で何か書いたとする。
商業活動でなければ、これをコピーして知り合いに配ってもらうことは、クリエイティブ・コモンズを知ってもらう上でも有益であり、著作者としては、「どうぞお願いします」と思う場面である。 先に挙げた3つの点、一般の人にもわかってもらう、検索ソフトの利用の便に供することができる、それから法律家の目から見てもきちんとした内容になっている。そうしたものをクリエイティブ・コモンズの正式な説明として3層構造と呼んでいる。この3点に耐えうるライセンス形態を提供したいと考えている。

ライセンス付与の工夫

クリエイティブ・コモンズのライセンスを付けたいとき、普通の人が1回1回プログラムから構築しなくてはいけないというのでは、とても流通を促進させることはできない。CCJPのWebサイト上では、「これを貼り付けてください」という形でHTMLを用意して、容易に実現できるような手順も提供する。
次のヒューマンリーダブルというのが一番重要である。3種類のマークがあって、それらを使い分けることにより、著作者がどういう意思でそのコンテンツを提供しているかが表示できるようにしている。

コモンズ章利用のメリット

著作者の意思がマークによって表示されることによる利用効果を、クリエイター側とユーザー側という2方向から考えてみた。クリエイター側から見ると、すぐにお金儲けができることよりも、自分が作った音楽なり何なりを多くの人に共有してもらいたい。また、自分とは違う観点からクリエイティブなものを付け加えて別な形になったものを見るのは、刺激になり、自分の活動にとってプラスになるという人も多い。
自由な流通を促進することで、作品を多くの人に見てもらい、企業がそういうコンテンツに着眼して、クリエイターを発見する場になったりもする。
Web上にある、クリエイティブなコンテンツの自由な利用・複製を実現することで、教育目的に資する部分も大きいだろう。
ユーザー側は、マーク表示されているのが著作者の意思になるので、著作者の意思さえ遵守すれば自由に使ってかまわない。Web上にあるマークを使わない場合は、著作権法の原則に戻るので、交渉したり、契約書を作成したり、時間もかかればコストもかかる。
コモンズ章を利用すれば著作者の意思を尊重しながらユーザー側も許諾コストを削減でき、自由にコンテンツが利用できる。両者にとってプラスな面が、このマークを使うと生まれるのではないかと考えている。
Googleなどは米国でクリエイティブ・コモンズと協力関係にあり、CCライセンスを付けた作品のみを検索する形がもうでき上がっている。検索エンジンによるアクセスの機会も保証されるので、この効果はかなり大きいものがあるのではないかと考えている。

クロスメディア研究会会報213号より一部抜粋

2007/04/08 00:00:00


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