まずは21世紀冒頭を振り返ってみよう
[http://www.jagat.or.jp/story_memo_view.asp?StoryID=5062]。
2001年10月24日、東京の発明会館ホールに100名を超える中堅印刷企業のトップが一堂に会し、経営シンポジウム2001「今問われる、印刷業のマーケット戦略」が開催された。 シンポジウムは基調講演として、(株)電通の前常務で農学博士の塚本芳和氏より「マーケティングの進化(過去・現在・未来)」についてユーモアあふれるスピーチが行われた。
引き続き、JAGAT会員企業4社からの「報告とパネル・ディスカッション」が行われ、パネリストとして(株)石田大成社 阿部乙彦常務、(株)大鹿印刷所 大鹿洪司社長、川口印刷工業(株) 吉田幸一社長、渕上印刷(株) 柳正保社長の各氏が、更に当JAGAT 山内亮一常務理事(現、専務理事)も参加、小笠原理事(現、常務理事)の司会で『マーケット戦略』の現状報告と熱心なディスカッションが持たれた。
各社ともに、創業後半世紀から1世紀を超える実績を誇る優良な中堅印刷企業である。現状報告を筆者なりに要約すると、『自社の外に向っては第一に営業努力、そして内に向っては、製品管理・コスト管理・品質の確保と向上が重要』、ということでパネリスト全員の意見がほぼ一致した。
すなわち、『マーケット戦略』とは『営業戦略』のことであり、現代マーケティングに相当する上位概念が含まれていない、と筆者には感じられた。これは、特定顧客筋からの受注を基本とする伝統的な印刷企業にあっては、当然の意識(慣習)なのだろう。
なぜならば、わが国におけるかつてのマーケティング(古典的マーケティング)が、一般消費者を対象とした市場調査・分析、そのデータに基づく製品開発・生産・販売計画、広告・宣伝・メディア企画・実施・効果把握などを意味していて、消費財生産企業や広告代理店にとって必要な機能と認識されてきたからである。
しかし、古典的マーケティングのパラダイムは、米国などで80年代以降大きくシフトして、今や、業種を問わず企業が『顧客の創造と維持』を実現し、『企業の持続的成長』を可能とするための中軸機能として現代マーケティングを位置付けるようになっている。更に現在では、公的な領域や非営利活動領域においてもマーケティング理論や発想が活用されるようになってきている。
企業部門も、公的部門も、生活者部門も、すべての部門において環境が加速度的に変化を続けている。経営シンポジウム当日、踏み込んでのディスカッションはなかったが、各パネラーからも発言があったように、例えば、産業のグローバル化により顧客が海外に拠点を移す。印刷分野でも中国企業など新しい競争相手の出現が予想される。取り引き先の業態変化。自らの生存競争激化、川上の業務分野へ進出、IT化、クロスメディア化、人事政策、自然環境問題への対応など、印刷企業の経営環境も様変わりしつつある。
自律と自己責任、そして自由な競争。ここで言う現代マーケティングとは、『企業内外のすべての歯車を噛み合わせ、うまく回転させること』であり、最終的には企業トップが責任を負うべきものである。
現代マーケティングに詳しい慶応大学大学院経営管理研究科の嶋口充輝教授は、事業運営基本モデル(事業の本質)の中でのマーケティングの位置付けについて次のように述べている。
Fig2:事業運営の基本
事業は生命体であり、その本質は、未来に向って堂々と営み続ける『永続性』にあることは自明である。嶋口氏は、このことをFig.2において基本命題と表記している。次に、事業の唯一の目的は、『顧客を創造しそれを維持すること』である。そして、顧客の創造と維持によって永続性を全うしようとするなら、そのための事業を運営する哲学、つまり事業理念は、『顧客満足』にほかならない。 顧客の創造と維持を具体化するための事業機能は、アメリカのピーター・ドラッカーが言ったように、「マーケティング」と「イノベーション」の二つの機能に分割できる。この場合マーケティングの本質的な役割は、顧客満足を価値観に据え顧客を創造・維持する仕組みをつくることである。そして、イノベーションとは時代の流れにそって出てくる新しい技術、アイデア、発想(総称して「新機軸」)を事業の中に取込むことである。
今日では、この二つの機能を統合したものを広義のマーケティングと、とらえている。従って、『マーケティング機能のみが企業成長を司る機能であり、他の経営諸機能は、すべてそのためのコストにすぎない』、と言って過言ではない。
JAGAT自身、口幅ったいことを人様に言える立場ではない。21世紀のITC革命のグローバルな変化が急速に進む中にあって、三つの使命を掲げる非営利の社団法人JAGATのマーケティング戦略=コミュニケーション戦略はどうあるべきなのか?
黒船的ITC革命の真っ只中で、業界の将来を展望しその方向を示唆することは、JAGATの会員自身に変革を求め、それに成功してもらう難しい作業なのだ。かつての高度成長期のような全員に耳触りの良い話ではない。
今回は、このような立場のJAGATのマーケティングについて、経験豊富なその道のプロである(株)博報堂広報室の池田諸苗氏においでいただき基礎的な問題からFig.3を中心にしっかりご指導願った。
Fig3:JAGATのマーケティングを考える
コミュニケーションとマーケティング問題は、今後部内で検討を重ね更にご指導をお願いする予定である。その結果については改めて報告する。
2007/05/07 00:00:00