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Web2.0時代のコミュニケーション

JAGAT技術フォーラム座長
和久井孝太郎

21世紀に入り、インターネット・コミュニケーション環境でのWeb(ウェブ:インターネット上に置かれたコンピュータを使って公開されている文書等のファイルを簡単に見ることができるようにした仕組み)が急速に進化、メディアとして社会的に極めて大きい力を持つようになった。そのことを、ここではWeb2.0時代と呼んでいる。

20世紀のそれをWeb1.0と呼ぶならば、それは各Webサイト(ウェブがおかれた場所)とそれぞれのインターネットのユーザーが1対1で結びつくコミュニケーション様式である。すなわち、情報の送り手が1でユーザーがn(1対n)の縦型コミュニケーションであった。

これがインターネットバブル崩壊後、21世紀に入って、個人が高性能パソコンを容易に入手できるようになり、ネットが高速化・低料金化すると同時に、Web自体のプラットホーム化によって、さまざまなデータを共有する仕組みが進歩した。

すなわち、企業や組織に限らず個人レベルでも、情報の発信・受信・検索・共有の高度な機能を容易に利用できるようになって、ネットコミュニケーションはWeb2.0と呼ばれる時代へと進化した。

例えば、日本のGoogle Webサイトであるがユーザーがこれにアクセスするとキーワード検索のほかに、ニュースを読んだり、地図や画像を見たり、必要があれば自分のメールやブログ、デジタル写真の編集と共有もできる。

これらのアプリケーションの殆どが無料である。このような事例では、Web自体が通常のパソコンにインストールされているWindowsやMacなどのOSと同様いろいろなアプリケーションに対応する。すなわち、Webがプラットホーム化したのである。

Web2.0は、個人の活動の集積として価値あるコンテンツが生成されるという思想が前提になっている[http://ymatsuo.com/papers/ipsj06web.pdfまたは情報処理 47巻11号pp1229〜1236]。

より具体的にはGoogleやYahoo、MSNなどのネット検索能力が向上し、Wikipediaやソーシャルブックマークがその質・量を急速に向上させると共に、膨大なブログ・データが蓄積され続けている。

Web2.0のコミュニケーション様式は、自らもコンテンツの提供者となり得るn対nの横型コミュニケーションであり、それぞれの個人がコミュニケーション可能な多数の他者の存在を常に意識することが特徴になっている。

一つのメディアは一つのメッセージである(The Medium is the Message)」と言ったのは、メディア論の先覚者、カナダのマーシャル・マクルーハン(1911〜1980年)である。筆者が彼の流儀に従ってWeb2.0のメディア特性を抽出すれば「Web2.0はコラボレーションである」となる。Wikipediaはその典型である。

一方、個人のホームページの多くがブログに移行した。日本語のブログは、量的には英語で書かれたブログに続いて世界第2位である。個人の消費者としての属性を重要視するマーケティングの関係者は、「Web2.0はCGM(Consumer Generated Media)」である、とその特性を定義している。

20世紀のデジタル革命(IT革命)では企業の目線が重要視されたが、21世紀のデジタル&コミュニケーション革命(ITC革命)では、情報の送り手論理ではなく、個人の目線で何が必要とされているのか実態を捉えることが極めて重要である。

先に筆者が示したマルチ・メディア曼荼羅あるいは クロスメディア曼荼羅の中心に、自ら(個人)を置いて眺めれば、今日のメディア環境の変化の全体像を容易に把握することができる。

個人サイドから見れば、自らを取り巻く多様なメディアの中から必要に応じてWebや携帯電話、紙メディアなどをクロスメディアのハブとして他のメディアを統合的に利用できる時代に入ったのである。

曼荼羅の中で左下角【紙・フィルム】を情報の運び手とする新聞・雑誌・書籍・チラシ・DM・写真プリントなど、いわゆる紙メディアは、ユーザー個人がコンテンツを読み出すために電源を必要としない長所を備えている。この点が他メディアとの差別化において極めて重要であることを私たちは忘れてならない。

例えば、紙メディアの典型である大学の教科書にも大きい転機が訪れている。経済学部の教科書で日本語訳『マンキュー経済学Tミクロ編、Uマクロ編』は、その内容の良さとクロスメディア戦略で世界的ベストセラーとなった(内容については後述する)。この場合は、教科書本体がクロスメディアのハブとなっている。

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2007/05/08 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会