印刷産業は日本の産業の中で、長寿産業の一つである。実際、JAGAT会員である印刷会社850社ほどの創業年を見てみると、社歴100年を超える会社が約80社ある。1945年までの戦中・戦前創業の会社が約300社で会員の3分の1にのぼり、やはり長寿企業が多い。
今、経営学では、長寿企業の取り組みの分析を通して、そこから経営のヒントを学び取るということが、行われている。神戸大学教授の加護野忠男氏によれば日本の長寿企業では事業の多角化はあまり行われていないが、しかし時代の変化に敏感に対応しているところもまた多いという。そしてその際、自社の基軸を大切にしている企業が多いと述べている。
変えていいことと変えてはいけないことの選別と、その追求。そして変えていいことは経営環境の変化に対応してどんどん変えていく、その姿勢に重要性があるということである。
世界企業で優秀な長寿企業のモデルとなっている企業の一つにジョンソン・エンド・ジョンソンがある。115年を超える長寿企業で、その歴史の中で、驚くことに年平均約11%という安定した成長を続けているという。モデルたらしめる要素には、経営のスピード化を担保する分社化・分権化経営、企業の継続性を担保する研究開発、後継者育成の体制などがあるが、中でも経営上の最大の軸は「企業倫理の重視」と言える。
同社のこの企業姿勢を世に知らしめたのが、危機管理の模範として伝説となっている「タイレノール事件」(家庭用鎮痛剤への異物混入により7名が死亡した)である。その時、ジョンソン・エンド・ジョンソンは直ちにすべてのタイレノールを回収し、異物を混入できない構造にした。この事件報道直後から当時のバーク会長は、マスコミを通じて製品の中止を呼びかけ、全米から回収を指示したという。その後もバーク会長は積極的な情報公開を行った。この時、日本法人の代表取締役社長を務めていた新将命氏は「事件直後からの企業姿勢は米国国民に高く評価され、信頼の回復も早かった」とあるインタビューで述べている。
変えてはいけないものとして、歴史を超えて企業倫理を重視し、守り続け、全社員にその意識を共有させ、実践している同社。その根本にあるのが、1943年以来企業理念として存在している「Our Credo(我が信条)」だという。
ここには顧客、社員、マネジメントと株主、さらに後に追加された地域社会への責任という、5つの責任が経営哲学として語られている。
この「我が信条」に関して新氏は「「我が信条」は顧客に対する責任など、確かにコンプライアンスの要素を多分に含んでいます。しかし、それは一部であって始まりにすぎません。そこには、環境や資源保護、社会貢献も含めたステークホルダーへの寄与が大きく謳われているからです。言い換えるとコンプライアンスはCSRの一部であり、もっと広義で捉えると企業理念そのものだということです」と述べると同時に、日本の企業に対しては、「我々日本の経営者がやるべきことは、グローバルスタンダードではなく、自社独自の「Our Standard」を確立し企業理念に反映させることです。そこにアメリカンスタンダードの中でフィットするものは採用し、ジャパニーズスタンダードで良いものはどんどん取り入れる。自社に最も合ったスタンダードのベストミックスを作るべきなんです」とも述べている。
企業の社会的責任という認識がまだない、より早い時期にいち早く、変えてはいけないものの根本にある企業理念、経営哲学の中にそれを謳いこみ、その姿勢を継続・追求することで高業績・高い信頼を得ている同社からは、同じ長寿産業・長寿企業として、印刷も学びとる部分があるのではないだろうか。
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→詳細はこちら JAGAT大会2007 6月29日(金) 椿山荘(東京・目白)
【JAGAT大会2007・特別連載2】企業の永続的発展の要件
【JAGAT大会2007・特別連載3】未来志向の企業風土
【JAGAT大会2007・特別連載4】三つの変革期と創業期
【JAGAT大会2007・特別連載5】未来を描くための「再定義」
経営情報配信サービス『Techno Focus(テクノフォーカス)』No.#1495-2007/5/28号より要約。
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2007/05/30 00:00:00