JAGAT会員企業を対象とした経営力アンケート調査によれば、2006年の印刷・同関連企業の業績は、売上高が2年連続のプラス成長となり経常利益率は4.0%と改善、増収増益となった。個別企業の分布で見ると業績優良グループの収益性指標が他のグループを大きく引き離して、営業利益率は9.6%と、平均(3.1%)の3倍の高さにある。しかし、業績最優良企業グループの属性を見ると特別な傾向を見出すことはできなかった。出版印刷、事務用印刷、製本業もあれば、サービス業もある。規模別に見ても、規模が小さいから優良な業績を出せないことはない。地域別に見ても、最優良企業グループ内と回答企業全体の地域分布は同じである。
いずれにしても、業種、規模、所在地域といった企業属性は、優良企業であるための条件ではない。個々の優良企業に見られる一つの傾向は、会社の方向性について非常に明確なビジョンをもち、その浸透、共有化を強いリーダーシップの下で進めている経営者の存在である。
今は、需要の成熟化に技術の進歩が加わり、経営に対する環境面での不安定さはさらに増している。5、6年間は好調でもあっという間に業績悪化ということも起こる。一方、よき企業文化・伝統の継承が、企業の永続的な発展に必要と言われる。
そこで、創業年(創業年判明企業は107社)を見ると、安定した企業には、ある一定年数を経た企業が多い。逆に、創業30年未満の企業で安定した収益を得ている企業は非常に少ない。戦後30年間の高度成長期に印刷産業の企業数は4倍に膨れ上がった。その中から安定業績を上げる企業にまで成長した企業はわずか50社に過ぎない。
規模が安定業績の基盤になるといったが、企業の成長の原点は事業家としての志であろう。企業は、さまざまな岐路に立たされるが、それぞれの岐路における決断の差が次の差になり、その積み重ねが大きな差になる。そして、その差の原点が志である。
ある地方都市で、同じ顧客を抱えていた20名ほどの2つの印刷会社の例がある。時代は日本経済の高度成長期だが、その顧客から業容の拡大に協力してくれと相談を持ちかけられたとき、1社は設備投資をして対応したが、もう1社はそうしなかった。結果として、前者は5倍の規模に成長したが、後者は数十年後も変わらなかった。戦後創業で、10名程度の規模から300名近くの企業にまで成長させたある経営者は、かなり大きな工場用地取得ができたことが飛躍の転機だったと語った。紙媒体主体から特殊印刷分野に大転換して大きな成功を収めた企業、デジタルデータ処理を含むデジタル印刷分野への転換で成功した企業など、いずれも大きな転換であり、大きな決断だったはずである。いま、大手と言われる企業はいずれも創業100年を超えるが、幾多の飛躍の時機を成長に結び付ける決断の連続だったに違いない。
それぞれの決断はその時々の経営陣が行うのは当然であり、業績最優良企業の経営者を思い浮かべると、経営者のリーダーシップが非常に大きな役割を果たすことを改めて認識させられる。しかし、もし、その時々の経営者の個性・能力だけが成功の要因だとすると、企業の存続はサイコロを振った結果のようなものにならないだろうか?
印刷産業は、日本の近代化に貢献をしつつ自らも発展してきた。そして、現在のほとんどの業績安定企業は長年大きな業態変革をせずに成長してきた。近代工業としての印刷業が始まった時代から世の中は大きく変わってきたが、印刷物の位置付けが大きく揺らぐことはなかったことがその大きな理由であろう。
しかし、今起こりつつある変化はメディアの大変革であり、まさにその基盤に関わる変化である。そのような中で、各企業の永続的発展の肝になるのは、社長の個性・能力なのか、印刷業としての機軸を維持することなのか、それともそれら以外に時間軸を貫いて継続する何かなのだろうか?
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→詳細はこちら JAGAT大会2007 6月29日(金) 椿山荘(東京・目白)
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経営情報配信サービス『Techno Focus(テクノフォーカス)』No.#1496-2007/6/4号より要約。
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2007/06/06 00:00:00