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ハードとともに進化するカメラマン向け画像編集ソフト

プロカメラマンは、デジタルカメラで撮影した画像のパソコンへの取り込み、整理、選択、RAW現像、補正、印刷、Webサイトへの公開など作業が多岐にわたる。撮影画像の選択はもちろん、各種ツールを駆使して印刷に適した画像処理を施すケースも増えている。例えば、Apple Aperture、Adobe Photoshop Lightroom、Nikon Capture NXなど、カメラマンをターゲットにした新しい画像処理ソフトも登場している。これらは、より簡単に、直感的な操作が可能になるようなソフト開発とともに、ハードやOSが強化された背景なども寄与している。
デジタルカメラの新しい画像編集や管理ツールの現状について、写真家の廣瀬久起氏に研究会でお話を伺った。

夢を現実にするソフトの登場とその背景

最新ハードやOSがどのようなRAW現像ソフトおよび画像編集ソフトを実現していくのか、見ていきたい。
2002年、Mac World Tokyoで現Apple CEOの Steve Jobs氏は、「10年後には、ピンボケの写真をソフトによる補正でピントが合っているように修正できる」と述べていた。当時は夢物語のように感じたが、最近、それも夢ではなくなったと感じさせるソフトが登場してきた。

まずその背景から説明する。
Mac OS Xが搭載できるメインメモリーの理論的な最大値はどの程度かご存知だろうか?
16EB(エクサバイト)つまり約172億GB(ギガバイト)である。実際にはそこまでのメモリーを搭載するのは非現実的であるが、Mac OS 9時代は2GBが限界であったことを考えれば、Mac Proが搭載できる最大量の16GBを使えるだけでも可能性は大きく広がる。

しかもMac OS Xは、最初からマルチCPUに対応しているので、ソフトをマルチスレッド化すれば、演算ユニットの数が増えれば増えるだけ高速化できる。さらに、Mac OS Xは、近年ますます強力になったGPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)の余りある能力を3D描画ではなく画像編集のアプリケーション演算に利用する技術としてCore Image(Mac OS X バージョン10.4 Tigerで新しく装備されたグラフィックエンジン)というAPI(アプリケーション・プログラム・インターフェイス)、OSがアプリケーションに対して公開しているプログラムインターフェイスを備えている。それらを画像編集に利用して、今まで夢であった技術を実現するソフトが登場している。

カメラマンをターゲットにした画像処理ソフト

Apple Apertureは、登場した時からCore Imageによる高速RAW現像を宣伝してきたが、その説明が真価を正しく伝えているとは言えない。RAW現像の単なる高速化なら、データを端折って読み出す手法で高速化することもできる。むしろApertureの凄さは、JPEG画像を編集してデータを破綻させることなく、16bit画像に書き出せる機能にある。

JPEGはYCC(YCbCr、輝度信号Yと色差信号Cb、Crによって色を表現するカラーモデル)というL*a*b*に似た形式で圧縮され、開いた時にRGBにするという仕組みを持っているので、画像情報はたいへん豊かである。RGBを編集するのでなくYCbCrを編集すればその豊かな情報を利用できる。そのおかげでApertureは、JPEGをRAW画像のようにデータの劣化がない編集ができる。

また、Adobe Photoshop Lightroomは新しく得たパワーをどう利用しようとしてるのだろうか?LightroomのRAW現像は、Apertureと比べて特別速いわけでもなく画像品質が優れているとも言えない。
私は、Lightroomの真価は未来を見据えた新しい画像ファイル形式にあると見ている。Lightroomの初期設定では、Photoshopなど外部エディタに受け渡す画像形式がProPhoto RGBの16bit画像となっている。また、Lightroomはメーカー固有のRAW画像をDNG形式というAdobeのRAW画像に変換保存する機能を持っている。

ユーザーにRAW形式の撮影を推奨し、保存はDNGに変換させる。これがAdobeの狙いだろう。ファイル形式の標準を握ればメリットは計り知れない。ユーザーには、DNGで渡せばRAWのまま後工程に渡しても色の情報は受け継がれ、将来、新しい現像ソフトで、今より良い画質で現像ができるかもしれないというメリットもある。

また、Nikon Capture NXは、革命的な画像編集ソフトである。これまでPhotoshopユーザーの中で、どれほどの人がレイヤーやマスクを使った高度な画像編集を行ってきただろうか。レイヤーの概念は分かりにくく、マスクの作成は骨の折れる仕事である。おそらく多くのPhotoshopユーザーは、その機能の20パーセント程度しか使用していなかったのではないかと考えられる。

Capture NXは、難しく手間のかかったレイヤー編集を、マウスを一回クリックするだけで実現する。汎用画像形式であれば他社のカメラの画像も編集できるCapture NXは、「Photoshop for the rest of us」である。最初のバージョンは、実用的とは言い難い動作速度であったが、Ver 1.1からはマルチスレッド化などにより劇的に高速化し、実用的な画像編集ソフトとなっている。


(続きはJagat Info 2007年6号、詳細報告はテキスト&グラフィックス研究会会報 Text & Graphics No.258に掲載しています)

(テキスト&グラフィックス研究会)

2007/06/22 00:00:00


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