人材育成では、一人ひとりに目標と教育計画が必要である。そのためには「診断し、評価し、訓練し、生かし、処遇する」仕組みが必要である。特に現在は企業内に目指す人材モデルがなかったり、多様化した機能を分割したり、新たな事業領域などを志向するなど、企業が新しい常識を構築しなければならない時期である。かつての年功序列、終身雇用という環境の中で同質教育による人間関係の強いきずなを築いた時代とは、かなり違ってきている。
工場では、未熟練の若い従業員よりも年功者の方が物作りに関する技量も人間的な器量も高く、工業化時代の物作りに関しては、年功を重ねた経験者の方が生産性も高いと考えられ、それに見合う賃金や処遇が決定されることは不合理なことではなかった。
ところが、技術がデジタル化しワークフローの変化によってかつてのような熟練者がそれほど多くは必要とされなくなり、高い付加価値が要求される仕事ほど経験年数と生産性の関係が正比例しなくなった。
デジタル化は人材評価を変えた、と言われている。経験年数や年齢に従って知識やスキルという習熟能力が向上し続けるだろうという前提条件が崩れた。
褒賞的人事制度では変革の荒波を乗り越えられない。人材の課題としては、人口減少問題も含め優秀な若い人材確保が困難になり、また若い人材のリードができない。つまりこれからのモデルとなるものが見えない。
以前とは雇用形態も変わりつつある中、人材評価においては、
・自社なりの評価の格付けはあるが、基準があいまいで現実に合っていない
・能力と賃金の整合性が取れていない
・業績(期間・向上)評価基準があいまい
・社員の教育目標や、カリキュラムが作れない
などの問題が現実に起こっている。
そこで、各社の人材評価の拠り所となる明確な基準、教育訓練制度や人事考課、人材配置、賃金制度と連動できるトータルな制度と基準が求められている。
従業員の職務遂行能力(職能)に応じて社内独自の格付け(資格等級)を決定し、賃金などの基本的な人事処遇の根拠となるものとして、JAGATでは職能資格制度の導入を推奨している。期待する能力・人材像を評価として明示し、評価基準の拠り所とする「職能資格制度」が今、改めて重要視されている。そして人材の現在の能力と、期待する人材像を照らし合わせ、育成・活用・チャレンジの機会を与え、期待像へと近づけて行き、地位や賃金など処遇を行う、このサイクルの構築を模索する企業が増えている。
一方で、自社の職能資格基準の構築の必要性を強く感じながらも、はじめの一歩が踏み出し切れずにいる企業も多い。
「職能資格基準を提示することに社員は抵抗感を覚えないだろうか。」
「これができていない、あれができていないというマイナス評価のために使われる印象が社員には強いらしい」という声も大変よく耳にする。だが、自社の職能資格基準を明確にし、社員に示すということは、社員のキャリアマップを示すことである。
社員一人ひとりにとっては、「自分の能力が今どの位置にあるのか」「現在自分は何ができないのか」「現在自分に足りない知識は何か」を明確にできるということになる。
そして「何が出来れば」「何をすれば」次のステップへキャリアアップが出来るのかを会社側が示すことである。
「まず第一に社員のモチベーションや、人材育成のために職能資格基準を明確にすべきであるし、本来、職能資格基準を示すことは社員にとって親切なことである。」と、ある経営幹部は言う。
評価制度があってもうまくいかないことも多い。評価・目標が上司・部下の2人の閉鎖的な中で話し合われ、進捗状況がほとんど管理されないことから、決められた重点項目より日常の緊急性の高いものに終始、あるいは評価のギャップに対して詰めた話し合いが行われないこともうまくいかない理由である。また、評価が賃金評価に偏り人材育成のツールとして十分生かされないことが多い。
評価とは評価者が被評価者を一方的に評価するのではなく、コミュニケーションツールとして利用し、双方が成長することが重要である。人材育成とは会社と個人が同じ目標をもってともに成長するための会社全体の仕組み作りで、企業風土、企業理念と一体となったものである。これからの企業の発展も撤退も人材に掛かっている。その人材育成のためにはうまくツールを使うことが必要である。
関連情報:
「JAGATナビゲーションツアー2007」
(2007年8月)
2007/08/25 00:00:00