学生時代に就職活動に備えて「何々業界」という本を読んだ人も多いだろう。高度経済成長時代は「何々業界」の内側はどこも同じようなことをしていたから、目標の業界を決めることは難しくはなかったかもしれないが、今は同じ業種の1位2位3位の会社でも、片方はつぶれかけ、片方は成長を続けるなど、全くバラバラな動きになっている。さらにIT化の波で印刷関連のメーカーもバラバラな方向に進みつつあり、世界的にみてもカラーフィルムメーカーはほんの少ししかないがそれぞれ全く別なビジネスモデルになりつつある。
かつては「何々業界」のよさとして、情報交流の必要性とか、ライバルであっても苦楽が分かり合えることのよさというのがいくつもあった。業界のマクロ統計は業者団体の一つの重要な仕事で、ミクロには競い合っていても共同ですべきことであった。仕事の交流も人の交流もやりやすいシナジーが「何々業界」の内側にはあったので、ビジネスがスムースにできたことは、「ビジネスの資源としてのシナジー 」でも述べた。振り返ると当時は印刷においてはコールドタイプ化電子化など業界単位の変革があったから、否応無しに結束ができたのであろう。
それでは企業にとって業界単位の課題よりも、自社の得意先との関係再構築や社内の変革など個別の課題が重要になり、指向がバラバラの今日においては、「皆と同じよう」ではメリットはないし、下り坂の仲間入りを意味する。では「何々業界」の内側の交流にはどんな意味があるのか? それは自分を見つめなおすための鏡のようなものである。一体自社は、自分は、どんな点で仲間に対してアドバンテージを持っているのか、いいかえると本当の自社の強みは何なのかをつかんで、強みを伸ばして個性化することで、次の展開につながっていく。
全く異業種の会社と自社を比べても自社の強みをはっきり認識することはできない。プリンタに比べてオフセット印刷がきれいであったとしても、それは印刷業界一般にそうなのだから、「自社」の強みにはならない。印刷業でも「差別化」ということがいわれてきたが、仲間なら誰でも機械さえ買えばできることは「付加価値」にはならないのである。強みの認識は今の印刷業にもっとも欠けている点かもしれない。従来の印刷ビジネスに似たことがPODやデジタルメディアなど他の手段で可能になることが多くなっているので、このことは緊急のテーマであろう。
たとえPODやデジタルメディアが幾ら伸びても、どういう点で印刷の強みがあるかを明確にできれば、伸びる分野と協調するような戦略をとることができる。Webとケータイとフリーペーパーのような関係では、お互いが食い合うようにみえるが、お互いの協調がないといずれも成立しないようなものなので、何しろ伸びる分野の協調の輪に身を投じないと先の展開はありえない。今までの「何々業界」の内輪の協調が決して「攻め」の性質ではなかったが、これからは個々の企業の「攻め」を励ましあい支えあうパートナーとしての協調が求められているのだろう。
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2007/10/04 00:00:00