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電子雑誌は何を変える?

さまざまな電子雑誌が登場するなか、小学館では「雑誌の市場SooK(スーク)」を2007年6月にオープンした。同社のネット・メディア戦略や新しい取り組みについて、小学館マーケティング局 ネット・メディア・センター 執行役員(兼)ゼネラル・マネージャーの岩本敏氏に伺った。


新創刊のネット・マガジン利点と問題

6月に新創刊した「雑誌の市場SooK」の特徴としては、まず、権利関係の障壁が少ないことである。SooKは創刊時からネット配信、ダウンロードを想定しているので、権利関係の障壁は既存雑誌よりはるかに少ない。ネット上で配信することを前提としているので、そのために新たに了解を取る手間からは解放される。

次に、紙の雑誌の創刊に比べるとロー・リスクである。SooKは7誌同時に創刊した。今、紙の雑誌を7誌同時創刊ということになった場合、おそらく最低でも10人、20人近い専任のスタッフが必要になるが、SooKは創刊の時からごく最近まで、たった1人だった。これは紙では考えられないことだ。それが今回何となく乗り切れたのは、やはりネット版というある種の気軽さがあったし、インフラも紙の雑誌の編集部を作るよりはネット版の雑誌の編集部を作るほうが、コストの問題も含めて、多分簡単にできる。また、刷り過ぎて在庫を抱えるというような、倉庫代を心配するようなことはない。

最後に、既存雑誌のブランド力が通用しないことである。新たにSooKという雑誌をどれだけ一般的に広めていくのか、SooKという雑誌の持つブランド力をどこで構築するのかということは、紙の雑誌がないだけに、まだ模索状態である。新たなブランドを創出するには、今までにないノウハウを使わざるを得ない。まだまだ試行錯誤の最中である。

ネットをうまく利用するしかない

ただ、ここで皆様にお分かりいただきたいのは、われわれがいかに印刷されたメディアとしての雑誌を大切にしてきたか、あるいはそこに誇りをどう持ってきたかである。

例えば、コンビニエンスストアで大きな売り上げを占めているものに雑誌と弁当がある。この2つは、実によく似た商品である。価格帯は300円から千円の範囲、新鮮なものほど売れ、古くなったものが売れないのは、どちらも変わらない。

ところが、売り方は大分異なり、立ち読みをされても仕方がないような売り方をしてきたのが今までの雑誌である。一方、弁当はつまみ食いをしてお金を払わずに出ていくと、犯罪になる。

そして何よりも、弁当は、おいしければ翌日も同じ人が同じ弁当を買うかもしれない。しかし雑誌はどんなに面白くても同じ人に同じ雑誌は二度と売れない。それでもわれわれは数万、数十万という発行部数を誇る雑誌を作ってきた。それが出版社のプライドである。だとすると、そういうものの魅力をネット上でも伝え切れなければ、われわれ出版社がネットビジネスをやる理由はない。

それ故インターネット・サービス・プロバイダーや多くのIT産業がやっているのと同じようなWebマガジンしか作れないのであれば、出版社がネットビジネスをやる資格もなければビジネスとしてのチャンスもないと、私は思う。悪あがきかもしれないが、日本の出版界が100年以上にわたって培ってきた編集力やデザイン力をネット上に持ち込めなければわれわれの敗北である。

もしネット上で戦うのならば、彼らにできないことをやるしかない。それは多分印刷業界の方々が置かれている部分と同じかと思うが、出版界も同じ立場に今、立たされている。印刷が培ってきたノウハウを何とかネット上に生かせないのかというのが、大きな課題だろうと思う。

現状はネットを使わなければ損である。われわれがどれだけ使いこなせるかということが、旧来のメディアに関わる人たちが生き残る最大のポイントだと思う。 われわれはプライドだけは持ってやっていこうと思っている。

(「JAGAT info」10月号より抜粋)

2007/10/26 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会