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なぜサービスにイノベーションが必要なのか

サービスは今やどのような業種やビジネスにも付帯しうるものと考えられるようになり、同時に、提供するモノ、売りたい商品をサービスでくるんで送り出すことが当然のようにもなってきた。従来のような形式区分、即ち、第3次産業あるいは非ものづくり産業のみをサービス産業として考えるだけではすまされなくなってきている。
サービスの心、サービスの行動があらゆる局面で求められるようになったということである。その典型が、地方自治体、特に市町村が、そのあり方を「住民サービス」と定義し直したことや、管理部門が、従業員のよりよい働きをサポートするサービス部門として定義され直されたことの中にも見受けられる。
さらには、地縁血縁の延長で容易に相手を類推しうる社会とは異なる、多様な人たちが、さまざまなコミュニティを形成し、出入り自由な環境となってきた今の社会にあっては、サービスマインドはどのような階層でも「相互理解」のためには必要な要件となりつつあり、インターネット、ITの存在がそれを社会化させる引き金となった。
よく知られているように、サービスに従事する人たちの声を拾うと、お客様からの「ありがとう」の言葉が一番力づけられるという声が大勢を占める。このことに象徴されるように「それをください」という言葉によってではなく、「使った結果の感謝」の言葉が提供者のモチベーションとなり、それがリピートを生むというサイクルが社会的にも染み渡ってきたとも言える。

やりっ放し、売りっ放しではなく、やった、使った、そして満足した、感動したという結果までが、ビジネスプロセスなのだということに、社会が全体として気づき、向かいはじめたということである。そういうビジネスプロセスを入り口から出口まで一貫した中でどう組み立てるのか、という努力の中からサービスのイノベーションは生まれてくる。
「それがサービスである」ための条件は、無形性、同時性であると言われるが、サービスにくるんで提供する「もの」「こと」自体と合わせて考えれば、同時性にこだわることなしに、一日でも一月でも一年でも、時間の長いサイクルの中でサービスの起承転結を設計することもできるだろう。だがそれ以上に、サービスのもつ二つの側面。即ち、本来やりたくないことの代行としての「奉仕」の側面と、自我を満たす感動の提供としての「もてなし」の側面。このどちらを追求するのか、ということが自社できちんと定義されていなくてはならないだろう。
しかしこの両者ともに「使った結果の感謝」を求めることに変わりがないのであるから、自社の定義された枠組みの中で、サービスマンが「感謝」を追求することがリピートを生み、それが結果として質の高い利潤の確保に結びつくのである。だからサービスマンに「感謝」を生み出す仕組みつくりの追求をさせることは全体最適に結びつくのである。

動物園の成功事例として今や、誰もが知っている旭山動物園も、「もてなし」を追求するサービス業である。その上で自社の存在意義を「レクリエーション」「教育」「自然保護」「調査・研究」の4つと定義して、時間をかけた議論の積み重ねの中から大きな予算をかけないでも実現可能な施策を14枚の絵に落とし込み、それを毎年一つずつ実現していったという。「教育」という定義づけから、短期的な歓心を惹く施策である「曲芸」を禁じ、逆に、職員手書きによるPOPや、夜間の生態を見せる「夜の動物園」、透明化により生態をより新鮮に見られる工夫を積み上げていった。
一方で、ピザのデリバリーサービスは「奉仕」の追求に徹し、それこそ即納を謳い、それを顧客との「約束=コミットメント」として、約束に反するとペナルティを払うことを、サービス条件として明示した。それ故に価格を高く設定できた。
両者とも質は違うが、ともに「感謝」「感動」の追求をおこなったサービスイノベーションのモデルである。

さて、わが印刷会社にあっては、その受注制作という部分の弱みをサービスイノベーションによって実質的に解消するための施策を考えて欲しい。Web受注もそのひとつだが、例えば商慣習上、契約書をもらえないと嘆かざるを得ないような事柄を、その実態的効果を、サービスの枠組みの中で解消することを考えるということである。
従来の印刷業は「奉仕」の側面から主に捉えられてきた。しかし、もしこれを「もてなし」の側面まで包括するようなサービスのイノベーションを起こせたならと思わずにいられない。その知恵の絞り方の中から、わくわくするビジネスが生まれる可能性は見えはじめている。
当然、収益の考え方も変える必要があるかもしれないが、そこまで踏み込んだときに、印刷業は「刷りっ放し」であることから離陸でき、印刷の進化形も見えてくるのだろう。そしてそこでは、顧客のコスト意識は「感謝」の言葉に置き換えられているだろう。


印刷経営戦略情報配信サービス『TechnoFocus』No.#1507-2007/8/20より転載

2007/10/30 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会