西岸良平氏原作の「三丁目の夕日」の映画化が、話題を呼んでいる。昭和33年の東京を舞台にした秀作であるが、本編の圧巻は1作2作ともCGによる昭和33〜4年ごろの風景の再現であろう。FVXによってパソコン上での画像処理アプリケーションの開発が飛躍的に向上したと言われている。円谷プロの特撮世代にとっては驚くべき進歩である。
CGと言うと、あり得ない映像をこれでもかと見せ付けるハリウッド映画と相場が決まっていたが、「三丁目の夕日」のノスタルジーを支えているひとつがCGの最先端技術である。映画自体の良し悪しはコンテンツの質そのものであるが、映画環境として映像のデジタル化、上映システムや配給方法など大きな改革によって映画への動員、興行収益は改善した。
映画に限らずサービス業の多くが、現場では人の手を通じて行われる行為が多くコストや時間が掛かりすぎ、収支バランスが悪くなる。コストや時間が掛かり過ぎれば、利便性、快適性が損なわれる。あるホテル幹部の、「サービスは科学」といった言葉を思い出す。つまりサービスは人間の心理や行動をよく分析し、考えた上で組み立てなければならないことと利便性、快適性を保証するには最新の技術システムが背景になければならない、ということである。
リピート率ナンバーワンといわれる東京ディズニーランドは、ずば抜けたブランド力とサービス力があることは周知の通りである。それを裏で支えるのが「優れた人材」と「先端技術」である。何度訪れても飽きさせないための夢や快適さの提供には、高度な技術システムとそれを包む人の高いサービスが必要である。そこに感動がある限りリピートへとつながるのであろう。
印刷にも関連サービス業が古くから存在し、印刷に対する付帯サービスに加え電子メディア関連サービスが数年前から増え始め、期待が膨らんだが、逆に周辺の関連業やIT産業からの参入やクライアント側の取り込みが増え苦戦を強いられている。
これからの印刷ビジネスを考えると印刷関連サービスではなく、本業を情報サービス業としてその周辺に印刷、クロスメディア、Webといった関連メディア制作が存在する業態に変更しなければならない。
もう30年も前から中小企業は元来サービス業であるとJAGAT元会長の塚田益男氏は述べている。製造業であるならば、「物」としての印刷のコスト競争、価格競争に勝つ覚悟が必要である。むしろ大手印刷業の方が関連サービス化を強化している。昨今では直接印刷製造とはかけ離れた社外ベンチャーも誕生している。巨大企業から零細企業、街の商店まで「印刷」というメディアを利用しないという企業はない。どんな企業とも営業関係があるのが印刷の特徴である。
なんでもないと考えていることが実は大きな利点であることに気付く必要がある。日々通う「御用聞き営業」をなぜ最大の武器として活かせないのだろうか。御用聞き営業こそサービス業である。御用聞きは玄関ではなく台所から入ることを許され、その家庭のまさに台所事情まで知ることができる。
かつてダイエーの中内功氏は、ダイエーが立ち行かなくなり始めた頃に経済評論家のインタビューに応えて「ダイエーは大きくなり過ぎて家庭の台所事情が見えなくなってしまった」「ネット時代の新しい御用聞きになりたい」といった主旨のことを述べていた。
提案営業に対して御用聞き営業を否定的に捉える傾向があったが、提案とは自分達の勝手な提案をすることではなく、クライアントが望むことを具体的手段として提案することであって、そのためにはよく「御用をしっかり聞く(聞き出す)必要」がある。その企業、部門、発注者の計画、思い、本心、人間関係、要求レベル、リスク等々を身近なところで情報収集や確認ができる立場にいるのである。
ならばその立場とチャンスを活かさなければならない。こんな印刷営業の利点を活かせなければ業態変革は遠のいてしまうだろう。そのための能力開発と訓練が絶対に必要である。そして情報サービス業として戦う営業マンを後方支援できるシステムとコスト削減が必要であることは当然である。製造業としての「ものづくり」ではなく、サービス業としての「ものづくり」に変わることが大切である。
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印刷経営戦略情報配信サービス『TechnoFocus』No.#1518-2007/11/5より転載
2007/11/05 00:00:00