21世紀のビジネスは、サービスを抜きには語れないと言われる。実際、広い意味でのサービス産業、第三次産業の国内総生産比率は1970年に50%を超え、21世紀を迎えた年には70%を超えている。しかも、どのような業種やビジネスにも付帯しうるものと考えられるようになっているサービスへの取り組みの広がりは、今後ますます拡大していくものと考えられる。
それは当然、印刷業の中にも根をおろしていくはずのものであるし、JAGATの会員印刷会社の中でも、自社の特徴に「サービスの提供」を挙げている会社は50%近くにのぼることが分かっている。しかし、印刷業にふさわしいサービスのあり方とはどんなものなのか、ということに関してはフルフィルメント、Web受発注、提案営業、ビジネスマナーの向上、あるいは短納期化、高品質化への挑戦など、いろいろと語られてはいるが、まだきちんと整理されて、経営戦略に組み込まれてはいないように思える。
それ以前に、サービスという言葉自体が、未整理のまま情緒的に使われている部分も多い。
西武文理大学・サービス経営学部教授・小山周三氏は著書『サービス経営戦略』(NTT出版)の中で、「顧客は企業を長期的に支えてくれる重要な存在である。長期にわたって企業を支えてくれる顧客を、金額ベースで捉えることができ、顧客資産としてみなすことができるとしたら、顧客維持・拡大政策に関わる経費ではなく、投資活動という新たな見方ができる」「顧客を資産とみる考え方を採用することによって、サービス企業の顧客政策は新たな段階に入っていく」と述べている。
印刷会社はもともと新規顧客の開拓以上に、継続的な取引先である既存顧客との関係を大切にしてきた。それをより自覚的に、戦略的に考えていこうということであり、顧客に向けた満足度形成のためのサービス価値提供の取り組みを、投資として経営戦略に組み込むということを考える意味が、十分にあるのではないだろうか。
サービスのもたらす価値について小山氏は、結果として感じる満足感(結果品質)と、プロセスで受け止める満足感(過程品質)があり、この両方に満足しないと、真の満足感は得られないとした上で、歯科治療を例に取り分かりやすい説明をしている。「歯の治療をしてもらう行為はサービス活動である。痛みが止まった、きれいに歯が入ったというのは結果品質である。治療中も丁寧で、特別の痛みを感じないで治療が終われば、過程品質が優れていることになる」(前掲書より)。
印刷業の拠って立つ製造業という観点から見ても、製造業の品質管理のノウハウが、サービスのマネジメントに活かせるかもしれない。逆に、まず人ありきのサービス業の、顧客満足向上のノウハウが製造業にも活かせるはずである。
入り口としての営業、販促の局面。中身としての制作・製造の局面。出口としての納品の局面。これら3つの段階で、顧客とのコミュニケーションは発生する。そして顧客の側の意識や姿勢は、この3つの段階それぞれで異なるものであり、その異なる意識・姿勢に対応する、高い満足度をそれぞれの場で提供できれば、顧客は自分たちの心強い支持者になりうるのである。
そして、製品価値とは異なる、サービスに基づく価値提供が、顧客の期待を上回る形で提供できれば、価格政策は従来とは異なる設定も可能となってくる。
しかし顧客の中には、コミュニケーションを望む顧客もいれば、コミュニケーションを望まない顧客もいる。それぞれで、満足、感動の指数が違う。そして逆のサービスを提供すれば、不満足、失望さえもたらす。コスト意識の強い顧客は、的確で迅速なリターンをこそ強く求めるだろう。価値意識の強い顧客は、コミュニケーションによる質の向上を潜在的に求めるだろう。
今後クロスメディア化を含めて、ますます多様化してくると考えられる、さまざまな顧客のさまざまな欲求に対して右往左往する前に、先手を打って、サービスを通した「価値提供」を戦略的にはかっていく、そのための投資意識と、経営戦略への組み込みが、そのためのチャレンジが今、必要に思える。
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(2007年11月)
2007/11/16 00:00:00