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オンデマンド印刷考[その2]

デジタル印刷機が向く印刷物市場とは

過去10年以上、デジタル印刷機が主として対象とする市場は何かについては、ショートラン印刷とバリアブル印刷の間を何度か行きつ戻りつしてきた。Indigoの登場で盛り上がった1994年当時は、「ショートラン」印刷市場に関心が集中していた。それは、アメリカからの情報を根拠としたものであった。

情報のひとつは、Indigoのような設備の主要市場は、品質とコストの点で、ロットの大きい平版印刷機と極小ロットのコピーに向く市場の間にある「ショートラン」市場であるというものであった。ちなみに、アメリカにおける「ショートラン」は、500部以下の「Extremely Short Run」、501部から2000部までの「Very Short Run」、そして2001部〜5000部の「Short Run」とされていた。

もうひとつは、カラー印刷物の予測に関する情報である。印刷物のカラー化は部数に関わらず進むが、特に5000部以下の「ショートラン」印刷市場においてカラー印刷物のシェアが大きく伸びるというものであった。
例えば、500部以下におけるカラー印刷物のシェアは、それまでの1%が11%になり、501部〜2000部では3%から16%になり、2001部〜5000部においても、カラー印刷物のシェアは10%から2倍以上の24%になるというものである。そして、これらの市場は250億ドルという巨大な市場になるとの予測も発表された。
そして、この市場こそ、デジタル印刷機がその生産設備としてピッタリ当てはまる市場であるといわれた。

参考にならないアメリカの状況

しかし、このときにJAGATは以下のことを指摘した。
@ アメリカでいう「ショートラン」とは5000部以下の部数を指しているが、日本では2000部、3000部の印刷を特別にショートランと認識してはいない。
A アメリカのNAPLという印刷の経営者団体が公式に発表していた印刷の生産性データによれば、四裁の4色機で片面4色の印刷をするときの準備時間は54分であった。しかし、日本においては上記の半分程度の準備時間で印刷していた。アメリカの印刷工場の生産性が日本に比べてかなり低いことが明らかである。
Bしたがって、5000部以下の部数の印刷は非常に能率が悪く、顧客から見れば、納期、価格両面で不満が大きく、それが5000部以下を「ショートラン」として区分することに繋がっている。そこにDTPとデジタル印刷機によるシステムの可能性を見出した。
C具体的なコストの例として、 アメリカのある印刷会社では、2500部以下ならindigoの方が平版印刷よりも安いという報告があった。
しかし、JAGATが試算した3種のデジタル印刷機(Indigo, Xeikon, Cromapress)と四裁4色枚葉印刷機とのコストのブレークイーブン・ポイントは、150枚〜600枚と計算された。 また、四裁4色機で両面4色を200部印刷したときの日本のコストはアメリカの1/2であった。
D以上の結果、ロットによって単純にデジタル印刷機の適性市場を評価するならば、日本の場合は200部以下の市場しか対象にならない。

1994年時点におけるデジタル印刷機と平版印刷による上記のコストの状況は、現在でも大きく変化していない。GATF/PIAのベンチマークデータとして、CIP3のインキコントロールといくつかのJDF対応の自動化機能を搭載した枚葉多色機(全判4色機、あるいは8色機)の準備時間は、それまでの2時間が1時間に短縮され、ヤレ紙も1250枚から850枚にまで減少した、というアメリカの業界紙の記事がある。日本においては考えられない生産性の悪さである。
また、デジタル印刷機における1枚当たりコストの日米の差もあり、現在でも、日本の平版印刷とデジタル印刷とのブレークイーブン・ポイントは200部〜300部である。

明らかに異なる市場の特性

いずれにしても、平版印刷とのコストにおける棲み分けの境界線が200部以下ということになれば、アメリカで言われたような市場の大きさを期待できない。それとともに、以下のことも明らかであった。
@ 一点当たりの売上金額がかなり小さい。
A 各印刷会社の商圏内における市場の密度は非常に低い。

当時、盛んに紹介されたデジタル印刷に向く仕事の事例は、1点1点についての収支においてはキチッと利益が出ているものであった。しかし、上記@の点から考えれば、投資に見合う利益を得るためには、かなりの点数の仕事を集めなければならないことになる。単純な推計では、4色、100部のペラ物の仕事であれば、1日に20点以上の受注が必要と計算された。しかし、そこで問題になるのが上記Aである。

新たなビジネスモデルの必要性を指摘

以上のことからJAGATが下した結論は、「従来の仕事と同様にデジタル印刷機を工場に入れて、営業マンが回って受注、生産するような形では商売にならない。如何に仕事を効率よく集めるかが勝負になる」というものであった。つまり、「ビジネスモデル」が課題になると指摘した。
この点からも、プリントショップが注目を集めたが、少なくとも日本においては、それが上記の回答になることはなかった。

(2007年11月30日)

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