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BeatlesのないiTuneなんて?

知的財産権問題は、放送の世界のルールと通信の世界のルールが異なるとか、音の世界と映像の世界で違いがあるなど、クロスメディアの時代には難しいことがいろいろ出て、議論も多くなっている。2007年はライブハウスに集金にくるJASRACとか、学園祭の劇に警告がくるなど、デジタル・ネットによる問題だけでなく、素人とプロの世界でも軋轢が生じている。ライブハウスによっては演奏者と観客のために場所を提供しているだけの、ほぼ貸スタジオ同等の場合もあり、すべてのライブハウスから取りたてるのは無理だろう。

このようなヒステリックな状態を生み出したのは、デジタル化でコンテンツの複製・流通が容易になって既存のコンテンツホルダーやその代理業務をしているところが危機感を高めてきているからだろう。このような背景でDRM(デジタル権利管理)やコピー防止技術、利用者管理技術が発達するのだが、それは利用者のニーズではないとみてか、Steve JobsはDRM不要論を言い出した。実際にコンテンツの価格を安くしようとするとDRM費はバカにならない。日本の地上波デジタルのコピーワンスでも管理技術に何百億円も払わなければ試算のようで、コンテンツがデジタルになって流通経費が激減しても安くならない、便利にならないという傾向もある。

しかしネットワークの時代では、コンテンツを流通経路や再生装置の束縛から解放し、コンテンツがよりフレキシブルに創造・生成されるであろうという希望がある。日本のコミックが草の根から育ったように、「コンテンツ立国日本」を標榜するならネット・デジタル環境は草の根のクリエータにとって望ましいものにするべきであろう。過去から現在までの売上げに貢献している既存の権利者の意見を第一にすると若いクリエータに不利になるのなら、未来の権利者のための権利処理問題は別に考えるべきかもしれない。

アメリカのようにJASRAC的組織が複数で競争原理が働くようにするのもいいかもしれないし、ネットのコンテンツには馴染みのでてきたクリエイティブコモンズなどコンテンツ流通を容易にする仕組みが重要になる。実際には時代を超えて必要とされるコンテンツの量はそれほど多くはなく、殆どのコンテンツは新陳代謝していくものだと考えると、権利管理も最初は流動的で束縛の少ないところから始めて、ビジネスの金額が大きくなるに従って厳密な管理をするようなモデルがよいのではないだろうか。

P2PやYouTube、その他コンテンツの投稿サイトが盛んになればなるほどネットはクリエータの登竜門になる。そのような例は年々増え続けていて、数年もするとネット出身の有名人も輩出され、こういう人の活躍とともに知的財産権の新しいルールや管理方法が定着していくことになるだろう。というような時代的な変化を想定してビジネスモデルや技術の取組みをしたところがコンテンツ流通の勝組になる。冒頭のSteve JobsのDRM不要論もそんな目論見が感じられるが、その背後にはデジタルメディアに何らかのビジョンを持っていないと取り組めない。

AppleのiPodを使ったiTuneが既存の音楽業界の配信と異なるのは、その楽曲の豊富さとは別に、権利者と話のつかないものは置いておいて、前に進められるところをどんどん進めたことだろう。例えば超大物であるBeatlesの曲は配信のOKが出ないのはそのままにされている。しかし「BeatlesのないiTuneなんて」ということでiTuneが利用されなかったということはない。よくわきまえておくべきは、新しい世代が新しいルールを作るのだということだ。これは別に知的財産権に限ったことではなく、商習慣のいろいろな面で共通していえる。このことは単なる流行の話とは違い、音楽ビジネスが盤からネットへとうつりつつあるように、あるべき未来に向けて進む陣営に組しないとどんな努力を続けても報われないことになる。

PAGE2008では、今まだアナログ時代のタテ割の世界でビジネスをしているメディア制作関連業務が、タテ割の中では支えきれなくなるので、ヨコの連携でクライアントにソリューションを提供するように変わらなければならないことを訴えている。ネットの音楽ビジネスもまだ始まったばかりで新たなビジネスモデルは見えないが、もうレコード会社・レコード店に活況が戻ることはないだろう。他のメディアも新しい関係をヨコに築けないと、孤立して衰退するだろう。

2007.12.27

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