2007年の印刷業界を振り返る
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印刷産業出荷額は2006年まで9年連続縮小
印刷産業出荷額の約40%を占める上場印刷会社28社の2007年上半期売上高前年比は+3.4%、営業利益前年比は△31.6%であった。売上高は近年に類を見ない高い伸びになった反面、営業利益は近年に類を見ない大幅減益になっている。
大手2社の営業利益は前年比△44.0%の大幅減益だ。営業損失の印刷会社が28社中の7社にものぼっており、印刷セクターとしては一種の危機的状況とも受け取れる。28社中の16社が売上高増の営業利益減という増収減益状態に陥った。
中小印刷業の売上前年比はおおむねプラスマイナスゼロ近辺で推移したと見られる。執筆現段階では2007年の利益面に関する調査結果はないが、中小中堅印刷会社の声や上場印刷会社の2007年上半期業績から類推すると、近年になく厳しい業績であることが予想される。
用紙価格の値上げは2006年春から断続的に続いてきたが、顧客への価格転嫁が遅れているために、原価上昇に売価スライドできなかった差額が印刷会社の収益を大きく圧迫した形だ。若干でも顧客の理解を得られた分については売上高に貢献しているもようだが、限定的であって前述のように減益を補完するにはほど遠い。
「厳しい」年だった2007年の印刷業界
JAGATが毎年12月初旬に行うアンケートの調査結果によると、回答40数社中の10社以上が2007年を「厳しい」と表現していた。中には「最悪」あるいは「最低」という表現もあった。諸資材の値上げが相次ぎ、多くの印刷会社にとって収益が圧迫され、価格転嫁が課題になった。
一方で、数は多くないものの数年ぶりの好業績になったとする印刷会社もあり、「光が見えてきた」、「底打ち感が出た」というような印刷会社もあって、景況観は強弱入り乱れている。社内インフラの整備に着手、あるいは目処をつけたとする会社も多かった。
大手2社の中間決算短信を見ても、大日本印刷は「原材料価格の上昇や競争激化による受注単価の下落」といった「厳しい経営環境」があったとしている。凸版印刷でも「材料費が高騰するなかで、価格競争が激化するなど厳しい状況」が続いているとしている。
「厳しい」というのが印刷会社各社の2007年の経営環境に対する基本的な共通認識だったと言ってよいのではないか。
書籍は底打ち、雑誌は続落の出版市場
出版市場の状況を見ると、書籍・雑誌販売金額前年比は△3.1%である。書籍は△3.2%、雑誌が△3.0%である。ただし販売部数ベースでは書籍が+0.3%、雑誌は△3.0%だ。書籍については底打ち傾向にあり、少なくとも販売部数ベースの指標は好転した。
雑誌に関しては底が見えてこない。このような長期低落はメディア多様化のようなマクロ要因による構造変化の影響と思われるので、現在の構造変化を打ち消すぐらいの構造変化材料が出てこない限りは減少トレンドが続くだろう。
従来と傾向の変わり始めた広告媒体
2007年の広告市場はほぼゼロ成長といった基調で、1月〜10月までの前年同期比は0.5%増程度である。内訳を見ていくと、従来、広告市場を牽引してきたマス4媒体のマイナス成長が続いている。
中間決算短信を見ると、大手総合印刷3社がフリーペーパー・フリーマガジンを好調と位置付けている。また、インターネット広告は20%近い伸びのようだ。しかし調査開始が2007年からであり、額が大きくないこともあって、継続性と信頼性にやや疑問はあるが、それでも急成長基調に間違いはない。
日本の印刷市場の中で大きな比重を占める折込チラシは、1.2%減とわずかに前年を上回るレベルで推移した。折込チラシの中でも大きなシェアを占める小売業が△1.2%、サービス業が△1.8%と減少している。
サービス業の中ではパチンコを中心とした遊戯・娯楽場、連合求人広告などが2ケタの落ち込みになっているようだ。金融・保険業も20%を超える大幅減少になっており、グレーゾーン金利の撤廃が消費者金融市場を縮小させ、「借りて遊ぶ」層を減少させ、娯楽・遊戯業も縮小した構図が現れている。
印刷価格の下げ幅は縮小傾向
価格低下は相変わらず続いている。日本銀行の「国内企業物価指数・企業向けサービス価格指数」における平版印刷価格の推移を見ると、2007年は前年水準に対して0.3%程度の下落と見られる。ただし、この数字に限ってみれば平版印刷価格の下落幅は、2004年(△1.8%)、2005年(△1.7%)、2006年(△0.4%)と、年を追うごとに下げ幅を縮小してきた。
印刷価格は、基本的には供給力過剰に起因して下落してきた。近年の主な価格変化要因は需給バランスにあったわけだが、2006年からは資材料・燃料価格要因が加わったと思われる。需給バランス要因は価格を低下させる方向に働き、資材料・燃料価格要因は上昇させる方向に働いていると思われる。需給要因については、オフ輪印刷、とりわけB系サイズの価格低下が著しいと言われる。
資材料・燃料価格要因については、2006年春から断続的に続く用紙価格値上げの影響を受けているが、顧客への価格転嫁に難航している会社が多く、印刷価格への反映は充分でない状況にある。
経営への影響を強める資材料価格変動
全印工連の「印刷産業経営動向実態調査」を見ると、印刷会社における最大製造コストは過去20年以上に渡って外注加工費だった。しかし、バブル経済の破綻以降は内製化の動きが強まり、外注加工費が低下し、材料費が上昇する傾向が続いてきた。近い将来において、原材料費が印刷会社の最大製造コストにとって代わることが予想されている。
中小の印刷会社においては売上高の約23%が原材料費であり、原材料費の約80%が用紙代である。このような損益構造は平均的な印刷会社のモデルであるが、このモデルにおいては用紙代が10%上昇したときに仮に価格転嫁しないとすると、利益が約30%低下してしまう。
内製化の推進によって資材料費が高まって経営への影響を強めたところに値上がりが直撃した形だ。印刷会社の多くは資材料価格値上げと価格転嫁とのタイムラグによって収益性を大きく低下させていると見られる。
少子化、そして業態変革、M&A
印刷業界におけるM&Aが徐々に浸透してきたようだ。中小中堅印刷会社の経営者層から「M&Aを検討している」と聞くことも珍しくなくなった。我が国は人口が2050年には8,000万人台まで減少すると言われる未曾有の人口減少社会に直面している。
福田首相は10月の所信表明演説で「子育てを支える社会の実現」を打ち出すなど、政府も生産人口の減少対策を急務としているが、対策には何年、何十年もの時間を要する。
現在は景気後退局面ではないが、マクロ的には人口減少社会を迎え、産業としての印刷は成熟段階を迎えており、従来通りのビジネスモデルでは売上高の右肩上がりは望めない。資材料価格の高騰によってコストが増加しているため、売上高減少にスライドする形でコスト削減して利益確保するような従来型縮小均衡策が通用しにくくなってきた。
縮小する社会、縮小する業界で成長性を確保するという二律背反を実現する戦略の必要性が高まった。その戦略選択肢には、業際を自社工程に取り込んでいくワンストップサービスへの取り組み、M&Aによる競争環境整理などが必然的に加わらざるを得ない。
印刷会社の情報管理
2007年は非常に残念なことに、大手印刷会社において個人情報に関する大型の流出事故があり、ディスクロージャー系印刷会社からはインサイダー情報の流出発覚が相次いだ。
情報管理に関しては、どんなに厳格な管理体制を用意したとしても、人間が管理する以上、悪意を持った人間による不法行為には対応しきれない面はあるだろう。そうだとしても、世間の受け止め方は「やっぱりか」であり、一事は万事に拡大解釈されてもやむをえない。
対策として、最重要情報の「見えない化」を挙げた会社がある。印刷業が情報加工産業である以上、絶えず情報に接しているわけだが、システム的に「大幅な制限を加え、ごく少数の情報取扱者以外は最重要情報が取り扱えない」ようにすることで、「関与者数を大幅に抑制」するという。
一方で、凸版印刷が環境・社会・ガバナンスの取り組みに優れた会社として国内で始めて「Global100(世界で最も持続可能性のある企業100社)」に選出された。同社のCSR(社会的責任)への取り組みは国際的にも高い評価を受けている。
情報管理という枠だけに留まらず、大きくCSRの一環と捉えて対応していく必要があるだろう。内部統制、法令順守、リスクマネジメントとも密接不可分であるし、有事の際の影響は自社だけでなく、広く多様なステークホルダー全般へも波及しかねないからである。
印刷会社の環境活動
環境活動もまた、CSRの一環と捉えて取り組む必要が高まっている。企業を取り巻く環境は変化した。社会の成員としての印刷会社であることを踏まえ、持続的発展が可能な企業づくりを目指す一環として環境対応に当らなければならないからだ。
最近は資源バブルの観点から資源問題が語られることが多いし、地球環境問題は連日のようにマスコミに取り上げられているが、資源と環境は表裏一体であろう。印刷製品生産には資源消費と廃版、インキ缶、紙ごみやVOC、廃液などの排出が伴う。
企業の持続的発展とは経済的側面だけでなく、社会的側面、環境的側面の観点も含めたトリプルボトムラインの考え方から成り立つ考え方が主流になりつつある。印刷会社にとっては経済的発展すらも大きな課題だが―――、トリプルボトムラインの追求こそが、企業に持続的発展をもたらす時代を迎えている。
2007/12/30 00:00:00
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