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100年後にどんな情報が残される?

1月6日からNHKのBS放送で<奇跡の映像 よみがえる 100年前の世界>がはじまる。銀行家で大富豪だったアルベール・カーンが100年前の20世紀初頭に、当時開発されたばかりのカラー写真や映像の技術を使って、世界各地にカメラマンを派遣して集めた映像がパリに残されている。投機で莫大な財産を築いて銀行を設立し、日本の発展を信じてヨーロッパ市場向けの日本国債の発行に着手するなど日本とは縁の深い人で2度ほど来日しているし、パリ郊外のアルベール・カーン美術館は日本庭園も有名であり、日本に造詣が深い。

番組そのものは Wonderful World of Albert Kahn:Vision of the World という題でイギリスBBCが2007年12月から放映しているものである。今となっては消え去った100年前の各地の人々の暮らしや風習が残されている。BBCの放送は、使い方はよくわからないがイギリス国内向けにはダウンロードのページもあるようだ。BBCは2004年から『BBCクリエイティブ・アーカイブ』というプロジェクトがあり、一般視聴者への番組アーカイブの提供が行われてきた。イギリスでは、テレビを持っている誰もがBBCに番組受信料を払わなければならない規則で、一般の視聴者がBBCの番組をいつでも見れるようにすることが定款に含まれているという。

金を払う人の権利としてアーカイブ利用があるのだろう。またこういった音声・ビデオクリップの利用も可能なようで、クリエイティブコモンズと似た考え方の利用原則を表明している。これはCreative Archive Licenceと呼ばれる独自のライセンスで、引用すると、
1. Non-commercial(営利利用の禁止)
2. Share-Alike(同一ライセンス付与義務)
3. Crediting (Attribution、原権利者表示義務)
4. No Endorsement and No derogatory use(宣伝・広告利用の禁止。クリエイティブコモンズのサンプリングライセンス3-c項と同様。)
5. イギリス国民のみ利用可
 である。

これからはBBCに限らずメディアがアーカイブを公開するとか、また美術館・博物館自身も収蔵品の遠隔閲覧を可能にするなどの大潮流が起こってくるであろう。今の段階ではデジタルアーカイブはコスト的に厳しいと言われるが、長期的にみれば人類の過去の情報はほぼタダ同然で際限なく入手できる時代が絶対にやって来る。BBCの場合は視聴料に含まれる計算だし、それ以外でも「友の会」とかで低額で提供されるのだろう。民放のように広告付で無料というアーカイブもあるであろう。アーカイブはクリエイティブの肥やしであり、創造的な製品やサービスを経済化して暮らしているようなクリエイティブの必要性がある社会にとってはインフラの一部がアーカイブである。

では今から100年後に今日の様子を最新技術で残したものというように思われるものは何だろうか? 『ALWAYS 三丁目の夕日』は映画として存在するが、その制作過程にはCGが使われている。ある時代のある地域を情報化したものとしてはCGも重要なものではないか。例えば今はVRでお寺の内側外側をCG化して見せるものがあるが、いろんなお寺や建造物がCG化された段階を考えると、通りや区画、都市、地形という一段上の層のCG化が必要になるだろう。今のSecondLifeがそのようになるかどうかは知らないが、今までのVRが断片であったのが、それらを結びつけてそれらの間を人がバーチャルに移動できる仕組みが必要になる。それと微速度撮影のような時間の変化のコントロールも必要になるだろう。

今日でもゲームの世界は特化した限定的な世界ではあるが、CG的に町などをモデル化してその中を利用者が移動するようになっている。近年ブレイクしているThe World of GOLDEN EGGSはアニメではあるが、セル画のようにキャラクタを描いて背景を描くのではなく、先に中心的な舞台となる高校とか高校のある町をCG化したようなものがあって、それを動かしてシーンを変えてゆきながら、そこにキャラクタを当てはめている点ではゲームに近い。もっともGOLDEN EGGSがウケている理由はそのことではなく、ギャグや声優に負うところが多いが、場面が非常に多面的な展開をして飽きさせないことに、CG的な手法は貢献していると思う。

21世紀のグラフィックスの進む方向は、今までがリアルなレンダリングを求めていたのと比較して、シナリオやコンテキストといったところのデータ化に比重が移っていくだろう。当然ながらリアルなレンダリングというのは永遠の課題で、色再現や質感や立体視なども進むが、特化した限定的なコンテンツ制作に終始するのではなく、他コンテンツ・他メディアとの関連も含めてクロスした企画制作を指向するようになるだろう。その萌芽として今見られるものががゲームであり、SecondLifeであり、GOLDEN EGGSであり、VRである。

今デジタルメディアの最先端で活躍している人にとっては、過去100年の情報爆発時代をデジタルアーカイブとして築きつつ、デジタルメディアをクロスして俯瞰的統合的情報処理の新時代をも築いていくという大きなミッションがあるのではないだろうか。PAGE2008コンファレンスでは、デジタルメディア、グラフィックス、デジタルプリントに関して、先進的な取組みについての発表やディスカッションが行われます。あなたもいちど何十年〜100年後の人になったつもりで、今取り組まれようとしていることの意味をPAGE2008でじっくりと考えてみませんか。

2008/01/06 00:00:00


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