PAGE2008基調講演B1「Webマーケティング2008――コンテンツ活用の現在〜未来」では、クロスメディア時代ということを念頭に置きつつメディアの動向をみていった。具体的にはたとえばテキスト系のWikipediaや動画系のYouTube、ニコニコ動画、またCGM(Consumer Generated Media:消費者生成メディア)などが出てくる環境で、一層プロとアマチュアの情報の生成と配信方法、また受信のしくみに差がなくなってきた。またインターネットによる情報検索や情報収集は生活にもビジネスにも必要不可欠なものになってきている。Web2.0以降のコンテンツの活用・動向についてみていった。
モデレータにはインターネット上の視聴動向調査・マーケティング情報を提供しているネットレイティングス代表取締役社長・萩原雅之氏を、そしてスピーカーとしてメディアを創造する側、メディアをウォッチする側として、作家・大村あつし氏とKandaNewsNetwork代表取締役・神田敏晶氏を招いてセッションを行った。
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萩原雅之氏は、ネットレイティングスが公開している2007年度の月例データを披露し、インターネットをはじめとするメディアの現在について語った。それによると2007年度ネット上で話題になったものとして、「3月にはYouTubeが史上最速で利用者が1000万人に到達」したことであり、「9月にはニコニコ動画のひとりあたり平均利用時間、平均訪問回数はYouTubeを大きく上回る」ことなど動画の利用拡大について説明した。
2007年は、ニコニコ動画がある意味象徴していると解説した。なぜならネット上のトレンドであるCGMとリッチコンテンツである動画の接点にあるからである。ユーザー同士のコミュニティがあり、下のほうにはアフリエイトも貼り付いていて、そこはECになっている。つまりここ2〜3年のネット上のトレンドをすべて集約したものである。
そして次世代マーケティングのキーワードとして「エンゲージメント(関与)」を挙げた。消費者が多数集まるメディアに広告を出して認知・関心を高める従来の手法から消費者の今日の関心に対して体験を深める情報をマッチングさせることが必要だという。媒体もテレビ・新聞といったマスメディアからブログやSNS、CGMなどのソーシャルメディアを使ったもので、典型的なのが、検索広告などである。企業がようやくこの状況に気づいてきて、アルファブロガーを使った広告手法をとり始めている。
またコンテンツのあり方として、新聞の事例を挙げた。新聞記事は、新聞社のサイトではなくYahoo!などのポータルサイトで読まれている。これもネットレイティングスのページビュー(PV)数の推移を見ても明らかである。つまり新聞は、ブランドではなくコンテンツ(個別記事)への関心でユーザーに選択され流通していく。
コンテンツの受容については、音楽業界で起こったようなことが、同じように起きるかもしれない。コンテンツ(楽曲)がデジタル化され、CDというパッケージから楽曲単位への流通へと変化していった。それにはiPodやiTunesといったしくみが登場したおかげであるが、コンテンツとメディアの関係は、企業ではなくその時代の技術とユーザーが流通の形を作っていくとした。
このことはおそらく新聞業界に限らず、出版や映像の業界でも起こりうるであろう。YouTubeの登場で、番組視聴でなく、ネタ視聴になっているというのもそのあわられではないだろうか。
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ビデオジャーナリストとして映像表現にこだわる神田敏晶氏は、自身の体験を踏まえ、コンテンツの創造と活用について話していった。
そしてアメリカの大統領選挙で駆使されているSNSなどについて触れ、政治におけるインターネット利用の日米の違いについても述べた。
また2005年以降のWeb2.0時代をハードディスクの容量が増え、価格も格段と安くなったことで、一気にインターネットが広がっていったことを指摘した。
Web2.0からインフラやパッケージ、メディアそのものが大きく変化していき、個人で情報を発信していけるようになった。それを「マスコラボレーション時代」であるとした。自分が今何をしているのかなど生活の断片をつらねることで、テレビの情報を見るよりもユーザーにとっては有益なことが起きている。今までマスメディアでは伝わらなかったものが当事者の「現場感覚」として、タイムリーによりリアルに伝わってくる。つまり身辺情報がマスメディアと対決することになる。
マスコラボレーション時代にあっては、消費の動向も、AIDMAからAISCEASへと変化しているが、コンテンツを絞り込んでいけば、共有(S)→検索(S)→アクション(A)→共有(S)、これだけでもよいのではないか。
そして日常の等身大の情報が、マイクロコンテンツとして創造されていき、今までマスメディアのコンテンツとしての作品や番組として情報を受動的に受信していたものが、積極的に参加していくという視聴の違いが明らかになる。
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ITライターから作家に転身した大村あつし氏は、クロスメディア時代の作家は自らもコンテンツの創造と活用をすべきだとして、「作家2.0」を標榜している。コンテンツ(作品)の配信者としての立場からユーザー(読者)との対比を考えていると言う。自身の作品では、Webから注目され、口コミで広がり徐々に部数を伸ばしていった。
そして「ケータイ小説は生き残れるか」というテーマで見解を述べた。2007年の文芸書のベストセラートップのほとんどをケータイ小説が占めている。既存の小説に対してケータイ小説は、レベルも低いが、好むと好まざるとに関わらず、表現手法は言語の進化であり、小説の中にさまざまな記号が文中に使用されるのも時間の問題である。
「ケータイ小説」は死んでも、「ケータイ小説の表現手法」は残るとし、今後は、携帯やネットである程度ふるいにかけられてからでないと小説は世に出ない。そしてその流れはビジネス書など書籍全般にもあらわれてくるだろう。
小説もトラディショナルな形態のものは残るが、もう一方では、読者参加型で作家との共同作業で作品を作り上げていくことになり、それから書籍化することになるだろうと述べた。そのことは、書籍マーケットに与える影響も大きく、本の平均単価の下落とともにベストセラーの続出もありうるかもしれない、という。
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またこのあと「プロのコンテンツ、アマのコンテンツ」「コンテンツのマルチ展開(ワンソース・マルチユース、クロスメディア)」「マイクロコンテンツのビジネス化・収益化」の3つのテーマについて、ディスカッションが行われた。
(2008年2月)
2008/02/20 00:00:00