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「RAWデータと印刷入稿」報告

図1_セッションの様子
図1_セッションの様子

D1「RAWデータと印刷入稿」はPAGE2008グラフィックストラックのスタートを切って行われたものである。印刷業界の悪癖として本当は保守的なのに、少し騒がれるとそのフォーマットに注目してそのフォーマットを使いたがるところがある。RAWデータとは仕上がり決定前のデータであるから、「この色」「この調子」で仕上げるという指針も決まっていないデータだ。要するに生フィルムを印刷会社に入稿するようなもので、常識的に考えても「?」に考える方が普通である。

ましてや普通印刷業界が主として使用するだろうと思われるPhotoshopカメラRAWなどはつい最近まで、モアレは出るは、解像力は悪いは、色はおかしいは、とても使用に耐えるものではなかったのだ。CS3レベルになって使えるようになってきたので、変な誤解を与える前にハッキリした指針を明示させておいた方が良いということで、今回コンファレンスとして取り上げたのだ。

RAW推進派として電塾の早川塾長に、RAWデータ解説といってもメーカー系は引き受けてくれないので、「フォトの翼」の開発者である陳氏に技術的な解説をお願いした。また印刷業界に責任ある立場としてFFGSの島田氏に、そしてモデレーターとして郡司が取りまとめを行った。

●早川塾長

早川塾長の口癖である「16ビットによる多階調データはレタッチしても階調破綻が無い」等々のメリットを主張されているが、合わせて短所の解説も行ってくれた。この辺は以下の図版をご覧いただきたい。しかし早川塾長が真に推進したいものはAdobeの提唱するDNGフォーマットによる「RAWワークフロー」であり、元データを常に保存できる非破壊主義によるフローだ。単なる写真のハンドリングということでは、PhotoshopというよりLightroomをコストや使いやすさという点で薦めている。

早川塾長が本当に言いたかったポイントは「RAWワークフローは無責任なものではなく、カメラマンは自分が撮影した指示をDNGフォーマットの中に明示し、後工程はその指示を確認しながら製版的な微調整を行う」ものである。この辺はくれぐれも誤解のなきようお願いしたい。

図7_2008年はRAW普及元年
図7_2008年はRAW普及元年
図8_RAWの利点
図8_RAWの利点


図9_RAWの短所
図9_RAWの短所
図10_DNG
図10_DNG


図11_RAWフローの厳守事項
図11_RAWフローの厳守事項


●陳氏(フォトの翼開発者)(http://www.cimage.co.jp/

陳氏のノウハウ部分でもあるので詳述は避けるが、非常に分りやすくRAWデータの記述を解説していただいた。陳氏は各社のノウハウにRAWデータを任せていると、将来的に自分の持っているバージョンが最新のRAW現像ソフトで開くことが出来る保証はないと警告している。それが証拠にNIKONのD3やD300ではまったく圧縮方式が変更になってしまった例などを提示いただいた。(この辺だけ取り出して、近日中に研究会で取り上げる積りでいる)

陳氏はこの点だけに絞ってもDNG等の標準RAWフォーマットはなくてはならないものだと主張されている。私はアナログ部分のノウハウの特殊性・重要性から(私にしては珍しく)独自フォーマットの必要性も半分くらい認めているのだが、「データが開けられなくなる」ということならDNGもサポートしてもらわんとなぁ?などと頷いてしまった。

●島田氏(FFGS)

最近RGBフローを強くアピールしているFFGSとして、責任ある立場の発言をお願いしたいとの問いかけに対する答えなので、きわめて常識的な内容である。RAWに関しては是か非かというより、現実的な運用例はほとんどないし、ワークフローとするには時期尚早という姿勢である。「画像品質はRGBで確定し、そのデータを安定運用させるためにはモニターキャリブレーションやデジタルプルーフが不可欠である」ということだが、これに対して文句をいう人はいないだろう。きわめて正論だ。ただし正直な話「印刷のためにはAdobe RGBを主に入稿」位言って欲しかったがFFGSさんの立場だと「ICCプロファイルを必ず添付のこと」くらいしか言い切れないのは致し方ないことなのだろう。(新聞やアルバム等印刷にはsRGBは当たり前のことなので、もう少し言い切っても良いのではと感じた次第である)

同じように自社プロファイルをアピールされていたが、もしも私が広告宣伝担当だったら「わが社は特別な自社プロファイルを使っていますので、品質には絶対の自信を持っております」というような印刷会社には絶対に発注したくない。「Japan Colorで要求品質を満たせない会社には発注したくないんですよね。何とかできないですか?」という具合に、標準規格を常に再現できる印刷会社を優先したいと思うハズだ。もしもトラブルがあればA社からB社へ、B社からC社、A社に即変更していきたいのが普通の思考方法だと思うがいかがなものだろうか?というような嫌味もさらっと付け加えさせていただいた。(島田さん<ゴメンナサイ)

図2_富士フイルムが考えるワークフロー
図2_富士フイルムが考えるワークフロー
図3_色管理の必要性
図3_色管理の必要性


図4_印刷基準の明確化
図4_印刷基準の明確化
図5_カメラマンサイド
図5_カメラマンサイド

図6_印刷サイド
図6_印刷サイド

●郡司のまとめ

RAWデータはフレキシブルなので、クライアントのOKも得られていない色で仕事が通るというのはかなり楽天的であろう。RAWデータの場合、例えばNIKONデジカメの場合PhotoshopのカメラRAWと純正のCapture NXでは色再現がこれほど異なるのだ。これで印刷会社に任せるというのはかなり無理がある。

RAW入稿が成り立つのは最近注目のレタッチャーという業種で、カメラマンは素材提供で仕上がり品質はレタッチャーが作るという分業体制(これを分業というのかは?で、主体はレタッチャーにある)の場合は、RAWデータで入稿するのを前提としている。

早川塾長があれほどRAWワークフローは無責任なものではない。と力説していたにもかかわらず、最後に出た質問は印刷会社サイドからは「どのRAW現像ソフトの品質が良いんですか?」という感じで、「カメラマンは印刷会社にまる投げ」「印刷会社は何でも出来ますから仕事ください」が本当に現実だなぁと思い知らされた次第だ。早川塾長もこれにはかなり堪えたらしく、「真のRAWワークフロー実践のためにゼロから啓蒙活動だ」といわれていた。

図12_PHOTOSHOP
図12_PHOTOSHOP
図13_CaptureNX
図13_CaptureNX


(研究調査部長 郡司秀明 2008年2月)

2008/02/23 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会