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InDesignのスクリプト活用と今後の可能性

PAGE2008コンファレンスD2セッションでは、DTPの効果的な利用法としてInDesignのスクリプト活用を取り上げた。

InDesignにはスクリプティングのインターフェースがあり、AppleScriptやVBScript、JavaScriptなどのスクリプト言語でコントロールすることができる。スクリプトによって、対話式におこなえる操作のほとんどを自動化することができる。

パワーユーザは、スクリプティングを書きこなし活用することで、レイアウト操作やチェック作業の自動化を実現している。また、ネット上ではスクリプティングの情報交換コミュニティもある。このような機会を通じて、スクリプトを習得していることも多いだろう。
しかし、スクリプトとは言えプログラミングの一種であり、誰でも簡単に使うことができるわけではない。また、複雑なスクリプトではバグが発生することもある。

スクリプトの習得や知識の共有も難しい側面もあるが、どのように取り組んでいけば良いのか。InDesignスクリプティングを導入した事例と、今後の展開や課題について議論をおこなった。



InDesign スクリプトによる自動処理DTP
有限会社デジタル・ワークス 取締役副社長 山崎 久美子氏

デジタル・ワークスは、DTP制作やDTP自動処理、データベースやWeb関連のシステム開発をおこなう会社である。InDesignスクリプトによる自動処理を活用し、制作業務をおこなっている。

プラグインとスクリプトの違いは、ソフトにない機能を追加するのがプラグインであり、プラグインで自動化を行う場合、大がかりで高価なシステムとなることが多い。
スクリプトは、ソフトにある機能を組合せるだけであり、シンプルなものである。

デジタル・ワークスでは、スクリプトで2つの自動化を実現している。DTPオペレーションとチェック・修正である。制作時間の大幅短縮が可能になる。また、オペレーションの習熟度に依存しないスキルレス作業も可能となり、社内メリットが大きい。
顧客のデータを活用してレイアウトをおこなう場合、スクリプトで自動化することで、ヒューマンエラーを削減することが出来るし、顧客の校正負担を軽減することができる。結果的に顧客の信頼を高めることができる。

スクリプトの開発は、元プログラマーでDTP経験が豊富でディレクションスキルやInDesign知識がある社員が担当している。DTP経験とスクリプト知識の両方を持つ人は少ないため、知識の共有は難しい。

ゲーム雑誌・攻略本の制作とスクリプト活用

株式会社THINKSNEO 代表取締役 大里 浩二氏

THINKSNEOでは、社員2名と外部スタッフ3名で年間4,000ページのゲーム雑誌の制作をおこなっている。少ない人数が短期間で作業をおこなうためにオリジナルスクリプトを利用している。
スタッフがスクリプトを書いているのではなく、出版社の編集者が書いたものを使っている。こんなスクリプトがあれば便利ということを伝え、作成してもらっている。

たとえば、フレームのサイズに対して、画像を105%に拡大して貼り込むスクリプトがある。ゲーム雑誌なので画像が大量にあるため、自動化の効果が大きい。時には120%にしたいこともあるが、スクリプト中の数値の変更であれば、専門知識はなくとも可能である。

あるゲームの攻略本ではExcelデータを読み込んで、テキストや画像を配置し、微調整をおこなうスクリプトを使用している。画像点数も数100点以上もあるが、画像ファイル名はExcelデータに書かれているため、入力ミスすることもない。この操作をスクリプトで自動化するため、作業が大幅に短縮されるだけでなく、ヒューマンエラーも防止している。

それ、スクリプトで解決できます

株式会社シンクス 市川 せうぞー氏

本格的な自動化ツールはたくさんの人が使うため、汎用性を高くして、エラー処理も必要となり、コストも高くなってしまう。
スクリプトは目の前の問題をすぐに解決するには有効である。必要なときに自分で書いて自分で実行することができる。書き捨て、使い捨て感覚で使用することができ、低コストである。
InDesignのXML機能をフルに活用するため、またInDesign Serverを活用にするためにもスクリプトは有効である。RubyでCGIを書いてInDesign Server上で利用することもできる。

スクリプトはInDesignの機能の一つであり公開された技術である。作成者がいなくとも公開されたものを読めば理解することができる。低コストでDTPのカスタマイズを実現できる。活用してほしい。



ディスカッションでは、「SEもプログラマーもいない印刷会社だが、スクリプトを習得するには、何から始めたら良いのか」という質問が寄せられた。
「ネットで検索すると、日本だけでなく海外も含めて、たくさんの情報を得ることができる。また、スクリプトは本を読むだけでは上達せず、スクリプトを読んで書いて実行を繰り返すことだけが、上達の方法である。」との回答があった。

また、「スクリプトが普及しないのはなぜか、どうしたら普及するのか。」という問いかけがあった。
「DTP業界にはプログラムの得意な人は少ない。Web業界にはプログラムをやる人も多く、デザイナと手を組んで仕事をしている。DTP業界からプログラマーに歩み寄ることや手を組むことが必要である。」
「DTP業界は体質的に単純作業を好む面や、古い環境を維持することを好む面がある。作業を楽にするにはどうすれば良いかなど、少しでも前進できるように意識することが重要」との意見があった。

会場で既にスクリプトに取り組んでいるか、利用しているかを聞いたところ、3-4割の方が挙手された。それ以外の方は、これから取り組もうとしてこのセッションに参加したことだろう。
DTPでのスクリプト活用は少数派ではあるが、一部には向上心を持って取り組もうとする方々が存在することが確認できた。

昨今では、単純なDTP作業が中国でのアウトソーシングに置き換えられるのではといった危惧が囁かれることもある。スクリプト活用によって制作作業を効率化し、より付加価値の高い制作業務を実現することができれば、そのような心配も少なくなるだろう。

(2008年2月・JAGAT 研究調査部 副参事 千葉弘幸)

2008/02/25 00:00:00


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