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欧米の広告費 〜TV、ネットとDMの動向(1)〜

Coen-MacCannEricsonによれば、2006年の米国の広告費は2851億ドルとなった。この内、TV/ケーブルが23.5%(671億ドル)、DMが21%(599億ドル)、新聞が16.7%、ラジオ:6.9%、雑誌:4.7%、その他:27.1%となっている。ちなみにインターネット広告は93億ドルである。1990年台からの推移をみると、DM、新聞、TV/ケーブルは2000年初頭に伸び悩んだものの、新聞を除いて再度成長している。特にDMの伸びが大きく、数年後にはTV/ケーブルを追い越す勢いである。一方、雑誌、ラジオは2000年に入って低迷が続いている。インターネット広告は2005〜2006年に18%伸びた。

一方、DMAのマーケット調査によると、欧州については、DM400億ユーロ、新聞が330億ユーロ、TV320億ユーロ、定期物が170億ユーロ、オンライン80億ユーロとDMが既にTVを超えている。TV、DMが大きな比率を占めている状況は米国と同じである。

従来、TVは不特定多数を対象とした「マス広告」の代表格であり、DMは「特定個人」を対象とするダイレクトマーケティングツールの代表格として考えられていた。しかし、前記米国のように両者が成長している事はどう解釈すれば良いであろうか?マス広告が効果を失っているとはいえ、従来の延長でTV広告を行っている面もあると思われるが、技術進歩と関連付けてこの点を考えてみたい。

  日本では未だ普及が遅々として進んでいないが、欧米ではセットトップボックス(STB)等の普及により、TVを通して双方向のコミュニケーションが可能になっている。従って、誰が視聴しているのか、が一部把握できる事になり、TV/ケーブルはもはや不特定多数を対象とした媒体ではなく、ある程度属性が絞り込まれた媒体として利用され始めている。視聴者の家族構成やライフスタイル等に応じて車のCMを「視聴者(世帯)毎に変え」配信する事等が既に行われている。TV/ケーブルは不特定多数を対象とした媒体ではなくなりつつある事も、TV/ケーブル広告費が順調に伸びている要因のひとつであろう。ある保険会社ではケーブルTVを用いてこのような試みを日本国内でも今年度実施する予定である。

一方、TV広告の新しい利用方法として、ウォルマートで実施されている店内TV広告がある。小売の売り場でTV広告を実施するのである。生活必需品や日常の嗜好品の購買の意思決定は店頭販促物、チラシや店員情報に負う点が大きい。売り場で販売されている商品をその場で広告する事で効果を上げるのである。これは投資負担があるため全ての小売店で実施できる訳ではないが、2008年には小売業がメーカから獲得する広告収入が3億ドル強に上るとの推定もなされている。ウォルマート以外の大規模小売チェーンでも店内TV広告を増やしてゆく事を検討している。以上のように技術の進歩により、従来と異なった利用がされつつある事もTV/ケーブル広告費が伸びている他の要因になっているといえよう。

他方、広告主側の意思に反し、消費者は広告が「きらい」である。自分の意思に反したDMの送付や電話は個人にとって迷惑である。通販ではコールセンターの設置が必須であるが、通販大国の米国でも「DO NOT CALL」登録比率が非常に高い。e-メールにおいてもスパムメールが多く、至極迷惑というのが実態である。一方、良く言われる事であるが、購買に当たっては友人・知人の紹介が大きい。また購買後にも友人・知人の情報が役立つという結果がある。口コミやネット等のコミュニティ情報が購買行動を決定する上で重要な要因になりつつある。自分のコミュニティで、自分で情報を収集し逆に情報を提供する事が可能になった事を考慮する必要が出てきている。既に宝飾、医療(医者)、趣味等の分野でこのようなコミュニテイができあがっており、保険会社がバイクに関するサイトを立ち上げる等、企業自身がコミュニテイ作りに着手する例も出て来ている。但し、広告の匂いを感じさせないという点が重要のようである。また日本でも昨年「ビリーのブートキャンプ」がブームとなったが、これははコミュニティとの連携が非常にうまく行った実例である。Web2.0の時代になった今、ネットに関してこのような新しい動向が今後とも無視できないであろう。いずれにせよ、技術の進歩により、従来の媒体の機能が変化すること、また購買行動と併せて活用方法を考慮する事で新しい展開が起きる事が前記の数字に表れているのではないだろうか?

(2008年4月 文責 松縄正彦)


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