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プロダクションプリントはどうしたら進展する?

2000年頃は大きな時代の節目であったわけで、デジタルカメラもWebもメールもケータイも普及し、世界的にみても郵便やFaxに代わって日常のビジネスコミュニケーションの主流にネットがつかわれるようになった。過去の変化との大きな違いは、コンテンツの生成はデジタルが先ということと、「世界的」という点である。2006年頃から始まったYouTubeの普及では、アクセスの急上昇がアメリカと日本で全く同じ軌跡を辿ったように、本当にネットでは世界同時進行になりつつある。

20世紀末には人々は「ネットで買い物する人がいるのだろうか」と本気でいっていた。それは1970年代には「一般の日本人が文章を作るのにキーボードを叩くなんてことがあり得るだろうか?」といわれていたのと同じで、デジタルやネットの利便性は使ってみれば明白である。ところがデジタルでもそうならなかったのが日本の「デジタル印刷」である。確かにプリンタは至るところに普及したが、オンデマンド印刷などのプロダクションプリントの分野は目論見の何分の一しか普及していない。

ITやネット関連が「良い物は広まる」原則にのって収穫逓増に向かうのに対して、日本の「デジタル印刷」は何が欠けているのだろうか。その理由としてアメリカのビジネスモデルが受け入れられないとか日本の商習慣を変えられないなど「固有の事情」がよくいわれるが、ビジネスに使うツールとしてのプリントは「文化差」の問題ではなく、合理的に判断して実利が出ていないから、繰り返し使われるようにならないのだと考えられる。

印刷会社でもデジタル印刷に設備投資して、顧客に提案して、アプリケーション開発も投資して、苦労して実現にこぎつけても後が続かないという経験をしたところは多いであろう。これは逆の考え方をしてみるべきである。クライアントの日常の業務をサポートするためのプリントサービスであるならば、一発勝負の花火のようなアプリケーションではなく、日常的に継続するもの、しかも発展の可能性のあるものでなければならない。

こういうネタが日本のクライアントの業務の中で見つかり難いのは理由があって、ERPやCRMなどのビジネスプロセスを施行するITシステムが導入されていても、これらのシステムから発生するデータの日常的活用をしようという企業が少なく、メーカーがマーケティング活動して広報宣伝しても、販社は別システムで営業活動をしているところもある。これではセールスのIT化にならず、従ってエンタープライズ規模のソリューションとしてバリアブルでターゲットを絞ったDMシステムを考えたところで提案先が定まらない。要するにクライント・発注者の社内なりグループなりが連隊を組めないことは「商習慣の違い」ではなく「立ち遅れ」である。

しかしこれは時間の問題で、先に進んだ会社が有利になって競争に勝つだろうことは予測される。負けそうなところにデジタルプリントを勧めてもモトは取れないかもしれない。実はこれは印刷サービスを行っている会社にも当てはまる似たようなことがある。つまりクライアントのERPやCRMに連動したコンテンツの加工やクロスメディア展開ができないと、クライアントのプロダクションプリンティングのパートナーになることができないからで、「立ち遅れ」た印刷会社にとってはデジタル印刷を導入しても使いこなせないという点で、マシンのベンダーにとってもモトは取れないかもしれない。

印刷の世界は一見するとDTP化によってデジタル対応が十分出来たかのように見えるが、今の印刷のワークフローはまだアナログの時代のアナロジーの段階である。一般企業がホストからオープンシステムに移行するにつれてスケーラビリティやアベイラビリティを高めていったようなところが弱く、かつての「顧客囲い込み」的な発想のオンデマンドシステムの作り込みのためにコストがかかっていたり、固定的なワークフローには対応できてもビジネスの変化に追従できない、などが苦労した割に成果に乏しい「オンデマンド印刷」になっている一因である。

何しろ21世紀はもう情報発信は「Webファースト」、コンテンツはビジネスの中で生成され、データベースは常に更新され、というのが常識なので、過去の静的な印刷物作りのワークフローに代わるものを作らなければならないし、デジタル印刷の受発注両者が、IT活用、データ活用、フレキシブルなシステム運用という点で意識も実力もシンクロして動けることが成功の要素のように思える。

2008.3.13 ALPS協議会

2008/03/14 00:00:00


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