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ITとデジタル印刷による新印刷ビジネスモデル

デジタル印刷機はオフセット印刷機と併存していくこととなるだろう。ビジネス面での活用には、ハードだけではなくソフト面の強化が要求される。デジタル印刷機活用のビジネスモデルを検討した。【モデレータ・パネラーご紹介

ビジネス・フロー・オートメーションを実現するためのソフトインフラ
はじめにモデレータである(有)ゲインの杉山氏から「印刷業のためのビジネス・フロー・オートメーション」についてのオリエンテーションがあった。趣旨は、企業とは「環境適応業」であり、印刷業のみならずあらゆる業界が変革の時代にある。顧客も自社も課題を抱え、生存競争に直面していて、顧客と自社との関係も「変化」を余儀なくされている。新しい印刷ビジネスモデルを構築するには、人材を含めたソフト化への対応が重要なポイントとなってくるのだという。

印刷のプリプレス技術の流れは1970年代からデジタル化が始まり、CTS→CEPS→DTP→CTF→CTP→POD→W2P/XM→Hybrid/CIM/JDF/JMFと進化してきた。この中で、DTPとPODは顧客にも関わる技術革新であり、さらにW2PやXM(Web to Print とCross Media)は顧客に深く関わり超効率化を推進する技術革新であって、顧客を巻き込む「ソフトインフラ」の構築が必要になった。印刷会社のビジネスフローは、IT化のよって自動化が図られた「ビジネス・フロー・オートメーション(BFA)」を目指していく。

「顧客指向・マーケティング発想による差別化戦略」が目的であり、このための新印刷ビジネスモデルを可能にするのがBFAプラットフォームである。その要素は、Web入稿による商圏拡大、オンデマンド+ハイブリッドワークフローの採用、クロスメディアによるOne to One提供、B to B to C + B to Cのビジネスを回す専用ワークフローを備えた、ソフトインフラということである。オリジナルサービス(PSP)やプロジェクト業務を担当できるソフト化に対応できるビジネス担当者が必要である。

これに対する「既存インフラ」は、人・物・金・組織・意識の硬直化が存在している。要素としては、営業マンによる入稿、そのために商圏は限定され、オフセット+特殊印刷(UV)で紙メディアの大量印刷を、B to Bのビジネススタイルを汎用ワークフローで回している。ハードインフラが中心であり、印刷発注担当者による受注生産でルーチン業務を行なっている。

新印刷ビジネスモデル構築に関わる課題は次の項目になる。

顧客企業のビジネスにいかに貢献するのか?
自社収益モデルは?
 デジタル印刷vs. オフセット印刷
 従来印刷料金型vs. 成功報酬型
経営者の心構え
 チャレンジ精神vs. リスクマネージメント
いかに人材を育成・確保するか?
 提案型営業、マーケティング力、IT対応力
 内部育成vs. 外部採用
自動化(超効率化)をどのように実現するか?
 JDF/JMF対応、Hybrid Workflow
 システム開発vs. システム購入

デジタルプレス最新事情
次に富士フイルムグラフィックシステムズ(株)の柳川氏からは、はじめに印刷周辺市場の現状について解説があった。それによると、まず既存の市場に対して既存の商品・サービスを投入する市場は厳しいが、新規市場や新規サービスについては、ポジティブ要因が多いように思われる。対象とする市場における新規分野は、フリーペーパー市場は拡大を続けているし、家庭での印刷需要は好調で、業者への巻き戻しの兆しが見え始めている。また、広告モデルを組み込んだ無料写真印刷サービスなどが好調である。既存分野では、高付加価値のDM等一部の市場は単価が向上しており、POPなど、後工程を工夫した印刷業者が高い利益率を達成しているという。

全般的には既存のメディアが伸びない中、矢野経済研究所が2007年10月4日に発表した報告によると2006年度のPOD市場の規模を1765億円と推計している。3 年後の2009 年には2447億円に達するとする。2010年までは年率では10%台の伸びが続くという予測である。一方、経済産業省が公表した平成17 年工業統計表による印刷産業の出荷額は7兆1201億円だったから、印刷市場に占めるPOD サービス市場のシェアは約2.5%という推計になる。 印刷産業は8 年連続マイナス成長と縮小傾向にあるから、デジタル印刷サービス市場の印刷産業に占めるシェアは拡大の一途ということである。

ダイレクトメールの現状を見ると、過去16年で70%の伸びを示している。UPUの資料からは日本のDM市場は今後の大きな成長が見込めるという。年間に一人当たりが受け取るDMの通数は、米国DCCの調査によると米国の317通に対して日本は39通と、8倍以上の開きがあり今後の国内の伸びに期待できるという。

デジタル印刷がどこで増えているかというと、商業印刷では小ロット・短納期(Just In Time/ Web To Print)の分野、出版印刷では個人出版・パーソナル絵本や冊子見本、パッケージでは小ロットノベルティ、フォーム印刷(データプリント)では請求明細・パーソナル情報提供・RFID連携の分野である。

事例もいろいろ出てきた。名刺のWeb to Printでは校正業務を軽減、提案型営業としてお客様のイベント等に合わせた名刺デザインを提案、組版の自動化による制作業務軽量化が実現している。
請求明細書のカラー化は「トランザクション・プロモーション・・・トランスプロモ」という新技術によって、帳票在庫の削減、提携カードのコーポレートカラー印刷によるカード他社との差別化、加盟店の販促の為に1to1プロモーションを実現、マイニング分析データを取込み顧客の興味に最も近い情報を提供を行なうことができる。
さらに、パーソナル教材、ホンニナルドットコム(印刷会社 マツモトの自費出版サイト)、デジタルアルバムのオンライン型ビジネスモデル、特定市場向けの電子市場との提携などのいろいろな成功例がでてきた。 イメージバリアブルのデータをASPで提供するアルファピクチャー社とも提携している。 ハイブリッド印刷&イメージバリアブルの顧客向け広報誌を、自社の「FGひろば」133号(H19春)と
「アルファベット」135号(H20新春)で行なった。縦書き漢字を絵柄の中に可変出力している。冊子の中身(本文)はオフセット印刷しているが表紙(表1〜表4)はデジタル印刷した。表紙にはイメージバリアブル技術を使いお客様名入りで、これを中綴じ製本している。

デジタル印刷ビジネス成功のkeyは次の3つのポイントである。
(1)業務改善や販売促進等についてのクライアントのニーズを踏まえて、バリアブル印刷を含め、デジタル印刷を活用できるケースを確立
(2)小部数印刷による新たなアプリケーションを数多く発掘(開発)
(3)Web2Printの早期確立と活用

欧米事例
JAGAT相馬からは、日印産連が平成18年に発表した2010年・2015年市場規模予測によると、大きな伸びはが期待できる印刷品目は商業印刷とソフト・サービスに集約されること。ソフト・サービスは言い換えると、提案型営業の推進と印刷付帯サービスの充実であり、有版印刷にはできない無版印刷ならではの付加価値の創出である。そして可変データ出力によるダイレクトマーケティングの提供や、Web to printの拡張による顧客の中から印刷生産までの自動化による小ロットビジネスの収益ビジネス化、フルフィルメントの提供など付帯サービスの拡充であり、デジタル印刷機の活用が重要なキーになる。

イギリスの普通の印刷会社におけるデジタル印刷への取り組みのポイントは、単純な印刷ではなく「印刷物」作りであること、徹底したデジタル・IT化やロングテールを拾う web to printの仕組み運用、さらに身の丈にあったしかも徹底した自社のプロモーションという顧客への提案が行なわれていた。印刷会社の新しい変革モデルである。
米国のアグレッシブな印刷会社における各社のITビジネスのポイントは、データ・ドリブン・プリント(Data driven Print)であるり、Webなどから情報が入稿される度にプログラムで自動的に仕事が回る継続的な仕組みを構築・維持する。とにかくリードタイムが早いしくみを作り上げる。
Web to printの好例は企業グループ向けに特化したB to Bモデルを作り上げたシカゴ郊外のRT Associatesである。Web to printのシステム構築費用は顧客の親会社が負担、1000社のブランチにインストールしたWebサイトから、毎日のように「大量の小さい仕事」の印刷原稿が入稿してくる。営業レスによるおいしい仕事に育て上げた。
TBC社ではデジタル印刷の可変出力機能を活用したOne to oneDMを提供している。 米国では通常のDMのレスポンス率は2〜3%もあれば良いとされているが、その印刷会社のパーソナライズDM手法では、最大49%のレスポンス率を実現したケースがある。プロモーションでは顧客にROIを提示して費用対効果を示すが、レスポンス率。徹底したIT化・自動化がポイントである。そして業態変革中のある経営者の本音は、デジタル印刷などによる提案型営業ができる営業マンは2割しかいないので、代理店経験者などを採用している。そして従来型営業の残り8割には選手交代を要請中であるという厳しい一面もあった。

国内事例
大阪の不二印刷(株)井戸常務(現・社長)からは、企業チェーン向けのWeb to Printとデジタル印刷の活用をお話いただいた。
印刷設備はオフ輪という同社は昨年、枚葉機としての利用も考慮してオフセット印刷レベルの仕上がり品質を満たすレベルと判断したデジタル印刷機を導入した。それと同時に、Web to printによって大手学習塾チェーンが展開する新規開設の教室オーナーが、先生を募集するための印刷物をテンプレートを利用して簡単に作成できるサイトになっている。デジタル印刷の導入に先立って、デジタル印刷機の機種を選定するために米国の印刷会社を視察したところ、訪問先ではどの経営者も「Web to printによるビジネスモデルの重要性」を求められたという。
帰国してからこれを実践して作り上げたのが、このシステムである。Web to printには富士ゼロックスのFreeFlowを利用している。そして、次の展開は学習塾が制作するさまざまな印刷物の受注を、同じ仕組みから行なおうと画策している。

(PAGE2008コンファレンスMIS/JDFトラックE4「ITとデジタル印刷による新印刷ビジネスモデルの構築」より、文責:E4パネラーJAGAT相馬謙一)

2008/04/04 00:00:00


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