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変化する紙消費量

前稿では、広告費について報告したが、本稿では、別の見方として、紙消費量の変化 について報告する。

相変わらずオフィスでは紙があふれ、少し油断すると机の上が紙の山になってしまう が、紙の統計データを詳細に見てみると少し異なった様相が見えてくる。紙の消費が多 く、紙以外のメディアも普及している米国と日本について一人当たりの紙消費量の推移 を調べてみたい。特に、コミュニケーションという観点から、新聞用紙と印刷・情報用 紙(印刷・筆記用紙)の2種に注目する。

マクロに紙・板紙の需要を調べると、米国では1999年をピークとして需要が既に減少 傾向にある。一方、日本では1990年初頭までは単調増加傾向にあったが、これ以降は増 加傾向が鈍化している(日本については、生産量、在庫、輸出入データより算定、米国 については在庫データが無いため、生産量、輸出入で算定。なお重量ベースの分析であ る)。

米国の減少要因は主に新聞用紙の減少にある。発行部数の減少、紙面サイズの縮小や 紙の軽量化等が起こっている。米国は日本と異なり人口が過去順調に増加しているが、 1990年初頭から一人当たりの新聞用紙消費量は毎年数%程度単調減少しつつある。一方、 印刷筆記用紙は1990年半ば以前は毎年数%程度増加していたが1990年末年以降は横ばい 傾向にあり、軽々に判断できないが、人口増に見合った紙消費の増加が今後も見込める のか、微妙な所である。

一方、日本では、人口は減少に転じているが、新聞用紙の一人当たりの消費量は1% 強の緩やかな増加傾向にある。しかし紙や印刷情報用紙について調べると、消費量の増 加傾向は1990年初頭から完全に鈍化した。1990年以前は毎年数%から5%程度の成長基 調にあったが、90年初頭以降は1%程度と鈍化している。

このような日米の傾向は何を表しているのであろうか?原因を1つに特定する事は困 難であるが、他のメディアの影響がある事はまず間違いのない所であろう。特に米国で の新聞用紙の消費量低下ではWebの影響が無視できない。印刷用紙についても一人当たり 消費する紙の量が変わらない、または増加傾向が鈍化するということは、紙で伝える機 会が減少している事に他ならない。特に、一昨年まで米国の景気は堅調であった。しか し印刷筆記用紙の消費量が横ばいであった意味は大きい。日本と比較してダイレクトマ ーケティングが発達し、DM等、特定個人へのアプローチ法が洗練されているにもかか わらず一人当たりの紙の消費量が伸びていないのである。コミュニケーション手段とし ての投資効果等、総合的にメディア間の競合や使い分けが起きている事が窺える。日本 ではまだ米国ほどの状況にはないが、印刷情報用紙消費量の伸び鈍化から判断すると、 米国の状況に近ずきつつあると判断した方が良いであろう。

以上の状況で、今後、何に留意してゆく必要があろうか?考慮すべき点は以下のよう な'伝える力'を一層強化する事ではないだろうか?

イ)データではなく情報として受け取ってもらえる力
ロ)適正な価格で発信できる力

非常に大事な点として、受取った人間に、単なるデータや紙ではなく「情報」を受け とったと認識される事が重要である。価値を決めるのは情報の受け取り側であり、受信 者が「価値」や「意味」を見出す必要がある。従ってデザインやレイアウト等の他に「 言葉」に今一度留意する必要があるのではないだろうか? 単なる告知ではなく、「レ スポンス」を高めるための「コピー」、適切な言葉の使い方についても、再度確認する 必要があると思われる。

また、情報となるには、発信者の思いが受信者に届く必要がある。相手の事を理解し た、FACE to FACE に近いコミュニケーションを行える環境を作る事がまず必要となる。 情報の発信者の顔が見れる事がその要件であろう。印刷会社は地域に密着した経済活動 をおこなっている。この活動を通して地域情報等を把握する事は「届ける力」の強化に もつながるはずである。また、単に紙メディアのみで効果を上げるということではなく、 他メディアと組み合わせながら、効果を上げる「キャンペーン管理」についても眼を向 ける必要があろう。広告代理店に任すのだけではなく、自ら、または協力して総合的に 効果を上げてゆく力がこれから重要性を増してくると思われる。

最後に、「適正な価格で発信できる力」、がある。これは単に印刷費用の問題ではな い。一部自治体では、民間の力を利用しながら「広告」を取る事で地域ガイドや転入案 内等の発行費用を大幅に削減している。アナログであれデジタルであれ、単に「刷る」 という事から離れ、情報の流れ、これに伴うコストを適正にする事、またこれを企画す る力が結果的に利益を生む事につながる。情報発信の目的は何か、目的に対し投じる費 用は適切か?他のメディアを活用した場合の費用、効果はどうか、他のメディアででき ない事は何か等、印刷だけではない視野の広がりが今後とも必要となってこよう。

以上、本来は枚数ベースの分析も併せて実施すべきであるが、データ入手が困難である ため、重量ベースの検討のみ実施した。中国市場の急速な拡大、また原油価格の高騰を 考えると薄紙化は必然的な流れであり、枚数ベースで考えると、上記の数字自体は若干 変化するはずであるが、傾向については大きく変わらないと考える。なお本稿をまとめ るに際し日本製紙連合会に大変お世話になりました。この場を借りて謝意を表します。

(2008年4月 文責 松縄 正彦)

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