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21世紀の色再現をリードする

色に関しては、ここ数年JAGATでは単なるカラーマネジメントの範囲を超えて、「分光色再現」や「色覚の科学」について研究会のテーマとして取り上げてきた。というのもデバイス技術が近年著しく進歩し、それにも増してCGを始めとしたアプリケーションの色に関するアプローチが関連産業に大きな影響を与えようとしている。今までのCMYKでは再現できなかった派手な色を再現する広色域印刷というものではない、単なるRGBデータを印刷することではない、総合的な色のディレクションが望まれているからだ。 そのような事情、時代背景から、DTPエキスパート試験の上位資格としての位置付けで、まず最初に「色評価士検定」を設けることとしたのである。具体的にはDTPエキスパートの5分野の中の「色/デバイスカラー」を基礎として、その専門性をより掘り下げたものだ。

CMYKやRGBで再現できない色の世界

しかし、掘り下げるといってもCMYKだけより深く追求するわけではなく、ましてやRGBだけ追求することでもない。 色に関係した産業は数多い。例えば自動車産業にしても、車体色などに使われるパールホワイトマイカのような構造色(光の波長またそれ以下の微細構造による発色現象)的な色がある。貝殻の(内側の)色やモルフォ蝶(アマゾンに生息する青い蝶)など、色再現のメカニズム自体からして印刷とは異なるのだが、DTPの現状はその構造色をCMYK顔料で近似しているに過ぎなかった。

印刷やDTP従事者はCMYKとRGBの世界だけに生きており、そこからはみ出そうな色と言えば、従来は蛍光色と金銀くらいのものだったが、最新の色彩科学を勉強してみると、今まで知らなかった色の世界が広がっているのを思い知らされる。そして、今までどうしてもCMYKやRGBで再現できなかった理由が分かってくる。このように工業製品や自然界の色がどのように色を作っているかを知ることが、これからの色再現ビジネスには非常に大切になっている。CG技術は印刷と比較すれば色再現を根源的に見つめ直しているとも言える。従ってCG技術やその他の最新技術を知ることは色をディレクションするためには不可欠なのだ。

色評価士検定を念頭に置いて、現在の最新技術を集大成した本がJAGAT刊『眼・色・光』である。色評価士検定委員会の矢口博久委員長を始め委員会メンバーが専門分野を担当して書き下ろした貴重な専門書でもあり、大学の教科書としても使用されている。光によって人間は色を知覚できるのだが、その光の反射してくる波長がどれくらいで、吸収される波長がどれくらいかということだけでも奥が深いものなのだ。

例えばローズウッドの家具を撮影する場合、強いストロボをたくと色が変色してしまう現象は、一部のデジタルカメラマンには知られていた。本当に家具が変色してしまうわけではなく、光がローズウッドに潜り込んで、木の内部で選択吸収が行われるために起こる現象なのだが、このようなことは経験的に覚えるより科学的に勉強すればより深く理解できる。もっと分かりやすい例が皮膚、例えば静脈の色だ。赤い血(血管)が青や緑に見えるのは不思議なことではないだろうか。これもヘモグロビンの周りで起きている光の選択吸収の結果である。

このように撮影デバイスで独特の色シフトが起こるのだが、受け手の人間のほうでも多分に心理学的な要素で色は変化してくる。もちろん人間の個体差も存在する。このようなことを体系的に記した書物が『眼・色・光』である。そして色評価士検定の試験範囲は同書に書かれていることを前提としている。

印刷業界(DTP)では「CMYKだ」「RGBだ」と騒いでいるが、本家本元のCIEでは、RGB説から反対色説を元にしたLabのほうに(人知れず)シフトし始めている。このようにわれわれが唯一絶対と思っていた3原色説もクエスチョンマークが付きだしたということだ。 しかし、普通の色再現にはシンプルで便利なので、これはこれで応用し続けていけばよいのだが、医療や工業製品のような正確な色再現を求められるものには、分光スペクトル自体を近似させてやれば、人間の個体差や環境などのファクターを超越できるはずだ。つまりリンゴの色を再現する場合、実際のリンゴと再現物の分光反射率曲線を同じ形状にしてやれば、RGB量がたまたま一致する条件等色(メタメリズム)ということもない色再現一致が見られるはずである。環境光が異なれば、本物と再現物は同様のシフトをするということであり、色の一致は得られる。

考えてみればカラー印刷技術というのは5000Kでのメタメリズムを利用したフェイクとも言えなくもない。こんなことを根源から理解して、CG、工業製品、デジカメ、テレビ、Web、印刷物、インクジェットなどをコーディネイトできる人材を育成する目的で作られたのが「色評価士」である。

(『Jagat Info』2008年8月号より抜粋 テキスト&グラフィックス研究会)


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2008/08/21 00:00:00


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