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デジタル印刷機とオフセット印刷機のコストを比べるときに

・質問です。1台の菊全4色オフセット印刷機を10年間、全て4色物の仕事で回すとして、刷版(CTP版)の購買コストはいくらぐらいになるでしょう?

・答えは、平均ロット10,000枚(両面)、1日に4台(Job)として、必要な版数は8万版、仮に1版1,250円で買うと10年間で1億円の版を購買することになる。平均ロットが1/10の1,000枚(両面)であれば、80万版、10億円となる。

・「わが社のオフセット印刷の通し料金は1色1円(4色でも4円)なのに、最近導入したデジタル印刷のカウンター料金の10円は高すぎる」、などという言い方をよく耳にする。

・しかし大きな落とし穴がある。デジタル印刷機は無版であるから、刷版は不要である。このことは誰でも知っているが、「わが社では刷版に掛かるコストは、カウンター料に換算するといくらになる」などという話はほとんど聞いたことが無い。印刷ロットが小さくなる一方の昨今、オフセット印刷1枚当たりの刷版コスト比率を無視して、オフセットとデジタル印刷のコストを比べても意味が無い。

・そこで、オフセットとデジタル印刷の単純な比較計算モデルを作ってみた。

・デジタル印刷について、もう少し正確に表現してみよう。通常、A3判カット紙タイプのデジタル印刷機における仕様は「A4基準」で示される。速度のPPMとはA4横通1分当たりの出力枚数であるし、カウンター料金もA4判でカラー出力の場合は4色当たりの料金である。従って、A全判のオフセットと比べる場合にはデジタル印刷のカウンター料を面付け数分の8倍すると同時に、1色分にするために1/4にもしなければならない。 つまり、オフセットの1色1円(ここではA全判とする)に対しては、デジタル印刷のカウンター料は20円=10円×8面÷4色という計算になる。単純に通し料とカウンターを比べるとデジタルはオフセットの20倍となる。

・しかし、刷版コストを差し引けば、この差はずっと小さくなるだろう。

・上記のオフセット印刷機の計算モデルを説明する。通常、オフセット機は10年間で2億枚(両面で1億枚)、つまりトータルカウンター2回転は通すだろう。平均ロット10,000枚(両面)とすると、1万台(Job)の仕事である。そして、平均ロット1,000枚(両面)になると、10万台(Job)の仕事となる。

・機械は年間300万円ほど掛けてローラ巻き替えや定期的なブランケット交換などのメンテナンスをきちんと行なっていれば、10年回しても良い印刷物が生産できるだろう。メンテ費を含めて印刷機への投資を仮に2億円としよう。 ・刷版出力のためにCTPも必要で、実用年数と5年とすると10年間で2セット、ワークフローまで含めて仮に1億円の投資となる。

・インキ代はロットと関係ないので10年間2億枚分では画像面積が30%としても約9ton、1億円ほどである。

・人件費の年間500万円は全印工連の数字であるが、10年で1万台(Job)、1日4台のモデルは、直接人員は3人(CTP、オフセット)+間接人員(営業2名、工務1名)の計6人で計算している。そして、10年で10万台(Job)、1日40台のモデルは、直接人員は3人(CTP、オフセット)+間接人員(営業20名、工務10名)の計33人と単純計算している。

・小ロット化に伴って増加する間接人員の削減策は、IT化である。Web to Printや自動化の進んだシステムの導入、MIS/JDFによる郡管理など、「入稿から配送まで、できるだけ人手を掛けないITによる仕組みづくり」に投資していくしかない。

・さらに、モデルには入っていないが、損紙分も大きい。印刷機にとっては損紙も本紙も刷りは刷りである。そこで、歩留まりということを考える。つまり、1台(Job)当たりの刷り出し損紙を仮に100枚とすると、1万台(Job:平均ロット10,000枚)分の損紙は100万枚(1,000連)、1億枚刷って「売れる枚数」は9,900万枚、歩留まりは99%である。これが、10万台(Job:平均ロット1,000枚)になると、なんと損紙は1,000万枚(10,000連)、歩留まりは90%、「売れる枚数」は9,000万枚である。

・進む小ロット化への対策として間接コストまで含めて、デジタル印刷機、End to endソリューション、MIS/JDF導入などは検討される必要がある。ここに提示した単純モデルをヒントにしていただき、自社のケーススタディを試算して頂ければ幸いである。

2008/08/22 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会