一般でのカラープリンタの凄まじい普及と平行して、キャリブレーションモニタやプルーフ要各種プリンタなど、印刷物制作の過程におけるカラーのデバイスが多様化したため、従来の「CMYK」のベテランにとっても「濃度や網点」だけで色管理方法をしていくことは不可能になり、インフラとしてのカラーマネジメントが必須になった。
PAGE2000では2番目の基調講演として、「デジタル時代の色の標準とは?」というセッションを行ない、その中でいくつか面白いトピックスがあったので、かいつまんで説明する。まずなぜ基調講演にカラーの話がでたのかという理由だが、カラーというのは科学と職人芸が交差する不思議な領域であり、一般的にいって「人の持っていたスキルをコンピュータ技術に代行させる」ことの影響を大きく受けるだろうとと思ったからである。
つまり、Bill Davisonの基調講演では、人のスキルを知識化してシステム的に利用して価値を高める話があったが、それのわかりやすい例がカラーの分野にありそうだ。過去においてもスキャナの自動(AI)セットアップという方法が進み、その絵柄の特徴情報を指定すると誰でもそこそこ立派な画像入力ができるようになった。これもスキルの知識化であるが、この先に何があるのか予測してみたかったのである。
また、マルチメディアになってしかも通信の利用で離れたところでも画像データを使うことが増えることで、従来のカラーマネジメントがクローズドな特定の作業環境で使うことを考えたものであったのが、今後どのような方向に行くのか、というのもおおきなテーマであった。
まず富士通研究所の臼井信昭氏は、今まで測色器を使っている人は、その値を正しいと思っているだろうが、市販の測色器そのものの校正基準が実は曖昧で、メーカーや製品による計測値の差がありえるものであり、今まさに測色器の校正基準となる「白」の標準が制定されつつあることを説明した。
また、一時カラーマネジメントが不要になるかという議論を巻き起こしたsRGBについて、これがモニタを基準に考えたもので、CMYKの世界では受けが良くなく、これに対してKodakがsRGBの色域に、アメリカの印刷インキのSWOPの色域を加えた、ROMM RGB, RIMM RGB を提唱していて、これはCIE色度図よりも広いものとなるという話があった。色域が広がるのは蛍光色を含むためで、実はインキジェットプリンタになって蛍光色が多く使われて、レーザプリンタよりも鮮やかな色を出すようになったのである。しかし、この鮮やかさは日が経つにつれて変るので、いつ測るかで値が異なるという指摘もあった。
色の見えかたというのは環境によっても変り、光源をD50にするかD65にするかでも絵柄の印象が異なってしまう。モニタはD65基準なので、そこで調整した絵を、プリントのD50基準でだすと、背景が青ぽいものにある絵柄を背景が赤ぽいところに置いたような効果になり、見る人の印象は変る。これは心理量の差であるが、それを補正するCIECAM97sという規格があり、この補正の数式を組み込んだプリンタもすでに発売されている。これはスキルの知識化を応用した例といえよう。
またX-RiteのIain(イアン) Pike氏は、色計測のトピックスを話し、今まで濃度計、色彩計、分光光度計と3種あった色の計測方法が、分光光度ベースのものに向かって収束しつつあることを語った。すでに色彩計もセンサ/エンジンは分光ベースになりつつあり、それで濃度も出せる。ただし分光の計測は万能ではなく、モニタのように特定波長の輝線のあるものは色彩計の方が誤差が少ないという。分光光度計のダウンサイジングが進んでおり、色彩計に代わるものなりそうだ。
色の問題は、アメリカではトレードマークが色まで含んだものになり、デザインの範疇に色の同異が入って、いろいろな裁判が起きているとか、その訴訟の結果もまださまざまであるという報告があった。今後は「似てる、似ていない」論争にも色の計測が指標になるのだろう。
最後に質疑の中で、インターネットでのショッピングにおける商品の色の問題で顧客とのトラブルがあることについて、臼井氏は安く売ることが目的のモニタに厳密な色を求めるのは無理であり、技術の問題で解決するのではなく、法的な整備が必要だといった。つまりTVのショッピングと同じように、コンピュータのモニタの色の限界をもっと一般に啓蒙し、色の差の責任を誰かが負わなくてもよいような法律が必要であるということだ。臼井氏は色にこだわる人はカラーマネージメントされたプリンタで確認するというルールができればよいと提唱した。
2000/02/04 00:00:00