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演色性は照明環境の指標として頼りになるか?

モノの色は、それを照らす光源によって見え方が決まる。色の見えを云々するときには光源の条件を決める必要がある。しかし白熱電灯しかなかった時代と違って、科学的にいろんな方法で光を出すものが開発されてきたので、異なる光源の特徴をデータ化することは次第に難しくなっている。
最も基本の要素は色温度であるが、これは光源そのものの色味の指標ではあっても、照らされたモノの色にはあまり参考にはならない。それは発光原理が自然光のような黒体放射に基づいていることを前提にした指標なので、可視光のすべての波長のエネルギーが連続して存在するもののみうまく適合する。

蛍光灯やLEDは特定の波長にエネルギーが偏っていて、可視光域の波長ごとのエネルギーをグラフ化すると、大変大きな凹凸のあるものとなる。このために色によっては鮮やかに見えない光源となってしまう。この色の見えの良し悪しの評価指標として演色性はある。 これは比較的色差が均等な色空間CIELuvの中心からだいたい円周上に8つの基本となる評価色を決め、さらにまたCIEでは6つ、JISではさらに「肌色」を追加した7つの評価色を決めて、「基準光源」で照らした時の色と、調べようとしている光源で照らした時の色の色差を求め、それが「基準光源」とどれだけ離れているかを「基準光源」をRa=100として、光源の良し悪しを数値化しようというものである。
基本の8試験色の平均を計算したものが平均演色評価数(Ra)、西洋人の肌色 木の葉の色 日本人の肌色などを含んだ9番目以降の試験色で計算したものが特殊演色評価数である。演色性は100に近い方が基準光源との差が少ない。ちなみに太陽光とか白熱電球は100で、普通の蛍光灯=Ra60〜74、RGB蛍光灯=Ra88、メタルハライドランプ=Ra70〜96、水銀ランプ=Ra40〜50である。演色性はある意味ではその光源がどれだけ自然かを指標化したものともいえる。

しかし照明として求められているのは必ずしも自然さではない。ヘッドライトでは明るいこととか、トンネルの中では眩しくないことなど、演色性よりも優先する要素もある。むしろ利用者にとって照明器具の選択においては演色性は最重要課題ではなかったように思える。それは前述のようにRGB蛍光灯の方が演色性が優れているに決まっているのに、見た目に明るく見える蛍光灯の方が支配的だからだ。
印刷現場でも印刷機の色見台には色評価用の蛍光灯が用いられているが、それと同じ蛍光灯で、しかもその明るさで印刷物を見ることは、一般の生活者には有り得ないわけで、印刷工程の品質管理としてはそれでいいとしても、別の視点での印刷物の色評価・設計も必要になる。

一方ディスプレイは、CRTであれ液晶であれ蛍光灯のようなもので、その分光分布が少々いびつであっても、蛍光灯下の生活とは割合マッチしている。人々の目の慣れは自然光よりも人工光に移行していった感がある。標準光源で物の「正しい色彩」を見よう、というのは社会的には通用しないだろう。そもそも「正しい色彩」というのは定義できるのだろうか。これは相当疑問に思えてきた。
それはさておき、人工的な今日の照明環境による不自由は一般の人は感じていないだろうが、実は蛍光灯は赤のような長波長成分が少ないので、赤の微妙な色の変化を見るには適していない。よく食肉用として赤がきれいに見える蛍光灯が売られているが、色の見分けがつきやすい光源を考えるなら、まだ人工照明には改善の余地はある。

平均演色評価数(Ra)は、光源の色温度には差があることから、評価すべき光源と同じように見える色温度の「基準光源」を使って評価するので、色温度の高低差により基準光が異なるため、色温度の異なる光源間で比較するのには向いていない。蛍光灯の昼光色、昼白色、白色、温白色、電球色はそれぞれ色温度が異なるために、平均演色評価数(Ra)では良し悪しは比べ難い。
人間の眼には色順応が働くのでいずれの照明の下でも同じように色が見てしまう。自然界でも朝、午前、白昼、午後、夕方と空の色は一定せずに変化し続けているが、それが困ることはないのは色順応が働いているからだ。だから蛍光灯の差は上記の赤のシビアな見分けでもなければ現実的にはそれほど問題はない。しかし写真や印刷物の見えはモロに光源の影響を受ける。これはなぜだろうか? 色順応する場合とそうでないものの差も、眼のメカニズムにヒントがありそうだ。

人の眼を測色器のように考えて厳密に照明環境を考える必要はないが、CIECAM02のように環境も含めた色の見えもモデルかされているので、色評価の環境も新たな基準を考えるべき時にさしかかっているのだろう。

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2008/09/08 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会