本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

DP3.0 日本がリードする?コミュニティ連動型デジタルプリンティングの可能性

デジタル印刷ビジネスで確立する新たな市場[第6回]

富士ゼロックス株式会社
プロダクションサービス事業本部
エグゼクティブカストマーソリューション部長
杉田晴紀氏

素人が専門誌に連載を持つということの大変さ、身のほど知らずを痛感している今日このごろです。 という言い訳はさておき、前回までは企業のマーケティングプロセスそのものを支えるデジタルプリンティングを順を追って書いてきました。必ずしもそのとおりにやればいいというわけではありませんが、「受注型営業からの脱却」「ワンストップ」といった業態変革キーワードに対する私どもなりの実践プログラムです。できましたら、 第1回から通読いただけましたら幸いですし、ぜひ一緒に実践したいと思われる方は、弊社品川epicenterまで足をお運びください。

DP3.0の世界とは?

今回は全く違う切り口で、ますます市場拡大を続けるネットコミュニティ市場(バーチャル)とデジタルプリンティング(リアル)の関係性の話です。大上段に構えると、Web2.0と連携するDP3.0デジタルプリンティングビジネスとも言えます。

DP2.0は「マーケティングIN」です。市場を消費者(顧客)として捉える世界であり、AIDMA法則がベースです(これはWeb2.0全盛の現在、前世紀の遺物のように扱われていますが、やはり基本です)。AIDMAプロセスをいかに効果的/効率的に進め、最終的に購買→要求充足→満足にまで到達させるかが、重要であり、そのためのプロモーションがセットされ、それぞれの販促策・販促物は、AIDMAへの貢献度でアセスされます(=活用価値)。

これに対して、DP3.0は「コミュニティIN」です。社会を生活者・コミュニティメンバーのネットワークとして捉える世界です。タイトルに「日本がリードする?コミュニティ連動型……」と書きましたが、実はニフティ株式会社様から教えていただいた面白いデータがあります。というのは、世界のブログが何語で書かれているかというデータですが、驚くことに、昨年日本語が英語を抜いてNO.1になりました。なぜか? 理由は、皆様が想像されるとおりだと思います。第1回目に、「日本は、私(わたくし)の文化で、私小説好きで、土足で私の領域に踏み込むような1対1DMに威圧感・嫌悪感を持つ人が欧米に比べて多い」と書きましたが、その逆の現象で、「私」の世界を保ちながら、「公」の世界に自己表現できて、ひょっとすると人気者になったりできるブログの世界は、格好の自己実現の世界というわけです。

こういう日本のユニークな文化・社会を踏まえてのお題は、「肥大化する日本のネットコミュニティは、バーチャルの世界で完結していくのか? 日本文化はバーチャル型になるのか?」ということになります。この話を進めていくととても誌面が足りないので、結論から言います。今後肥大化していくネットコミュニティは、コミュニティ自体の求心力と、メンバーの満足度拡大のためにリアルの世界との接点をむしろ拡大していく方向にあります。これは、ネットコミュニティを企画・運営している方々とのコラボレーションの中で、実感していることです。その中で、デジタルプリンティングの新たな市場が見えつつあるというのがDP3.0の世界です。

コミュニティIN スナップショット

前述のコミュニティINにおける代表的なコミュニティは「シニア」「子供」「ペット」「趣味」「ファン」などになります。ほかにもいろいろあるのですが、これらは、epicenterで実際にコラボレーションを進めているコミュニティ代表とお考えください。

共通点は、コミュニティ運営側は、会員のVOCに対するきめ細かいサービスを絶えず向上させ、コミュニティのブランド価値と求心力を高めていくことに注力されていることです。私どもは、デジタルプリンティング屋ですから、当然いろいろなパーソナル商材や、ノベルティグッズの活用事例・サンプルをご紹介するのですが、ほとんど異口同音に言われるのは「こんなことができるんだったら、会員向けのXXX企画ですぐ検討したい」というありがたいお言葉です。確かにありがたいのですが、冷静に考えると、いかにこのマーケットに対してわれわれがコミュニケーションを取ってこなかったかということも深く反省している次第です。

いろいろなコミュニティ連動型のデジタルプリンティングの企画を進めていますが、さすがに弊社がそれを書くわけにはいきません。急きょご了解をいただいた『woof woof』と『はっぴーママ』のコミュニティ企画・運営の話を少し紹介させてください。

『はっぴーママ』子育てライフを楽しむコミュニティ
これは、福岡の出版会社コマップ株式会社様と株式会社ブロックライン様の共同事業である(「はっぴーママ.com」PCサイトの運営は株式会社ブロックライン様)リアル・バーチャル連携コミュニティです。『はっぴーママ』Webサイトが中核となり、さまざまな企画・情報発信が行われています。ユニークなのは、『はっぴーママ』という出版物は、ブランドや表紙のロゴは統一されているのですが、実は各地域によって、異なる出版会社や代理店が異なるコンテンツで出版しており、地域密着型のリアリティを追及している点です。

一方で雑誌の共通企画は、キッズモデルオーディション。各地域のイベント会場でプロのカメラマンが子供の写真撮影・審査を行い、選ばれた1名がその地域の『はっぴーママ』の表紙を飾る企画ですが、これが各会場でものすごく盛り上がるそうです(ちなみに一番かわいいお顔立ちの子ではなく、皆がなるほどこういう子供を選んだのかと納得するお子様を選ぶのがプロのノウハウだそうです)。もちろん、雑誌の中には、すべての子供の写真が小さいながらも掲載されるので、広告収入に支えられた1冊400円の雑誌が売れていくわけですし、多分、親類縁者を考えると数冊買われる方も多いのではと思います。

参加する親子連れの傾向として、お父さんの登場が顕著だそうです。仕事に疲れ、家庭に戻ってきたパパの新たな楽しみというところでしょうか(これは私か!)。面白いのは、「うちの子の写真が表紙になったものが欲しい」という強い要望があることです。もちろん、オフセット印刷では無理ですが、コマップ様では、実際にイベントで、6つ切りの写真タイプに雑誌ロゴのみを入れた形で2200円で販売されておりこれが、けっこう買っていかれるお客様がいらっしゃるのだそうです。コマップ様サイドでも「こういうニーズがあるんだったら、一人ひとりが表紙になった雑誌を作りたいけど印刷じゃできないね」という議論もあったとのこと。もちろん、今年どこかの会場でデジタルプリンティングを使って一人ひとりのお子様の写真が表紙になった雑誌を企画・販売して反響を見たいと検討中です(既に購買アンケート調査も実施し、3000円でも買うという会員が一定率いらっしゃいます)。そういう会員が望む企画をタイムリーに実践し、会員が体感した内容がネットで広がり「自分の地域でも」と連鎖すれば面白いですし、そうなれば次の企画は会員側から出てくるでしょう。『はっぴーママ』コミュニティの求心力が高まっていくことに貢献できるのではと思っています。

『woof woof』愛犬家の30〜50代女性へ向けたライフスタイル提案コミュニティ
これは株式会社ワンオンワン様が企画運営されているコミュニティです。働く女性、自立する女性の方には愛犬家も多いと思いますが、『woof woof』は、そういう女性層に対し、愛犬と暮らすライフスタイル提案型のコミュニティという非常に興味深い企画・運営を行っておられます。

コミュニティの基本構成は、(1)月間200万ページビューを誇り100名以上の公認ブロガーが「集う」ネットコミュニティの企画・運営 (2)愛犬と暮らすライフスタイル提案型フリーマガジン(季刊30万部発行)(3)会員が実際に集う場としてのwon on one表参道(東京)です。 『woof woof』会員の飼われている、あるいはこれから飼いたい犬種は異なり、なぜペットと暮らしたいかといった目的や、暮らし方に関する考え方も違うわけで、会員のニーズ対応や分析・深堀から「独自のマーケティングノウハウを駆使し」、『woof woof』ならではのライフスタイル提案を展開されています。また、「企業と愛犬家をつなぐインターフェイスとして、さまざまな事業活動のサービスを行う」ことを掲げ、愛犬家に対する事業機会・市場開拓を考える企業とのコラボレーションや、会員への情報・サービス提供に結び付けていらっしゃいます。これらの活動が、『woof woof』のブランド価値とコミュニティとしての求心力を高める源泉だと思います。

デジタルプリンティング連携としては、まず当然最初に考えられるのが、愛犬のフォトアルバムやカードなど、『woof woof』ブランドと相乗効果を高めるような愛犬ノベルティ企画・商材です。また、企業と会員とを結ぶマーケットプレイスとしての『woof woof』を考えると、会員の属性マイニングに基づくカスタマイズカタログや、パーソナルDM送付といった切り口も考えられます(この切り口は次回の最終号に)。

なぜ、ネットコミュニティが紙媒体なのか?

『はっぴーママ』『woof woof』のコミュニティ展開を踏まえ、今なぜ紙媒体なのかをまとめます。 まず、会員への情報発信と会員同士のコミュニケーションを行うコミュニティサイトの運営。次にネットだけでは得られない、体感・実感を創出するリアルな接点としてのイベントやショップ展開(そこでの体験などは、またブログなどでネットが活性化し、参画意識が増す構図)。そして会員に対する情報提供型出版や各種ノベルティです。ここで重要なのは、紙媒体だけがマス媒体となっている点ではないでしょうか。では、ネットコミュニティが拡大すると、このマス媒体(印刷)は、駆逐されるのでしょうか? 実は逆で、紙媒体はネットでは得られない「所有する価値」「可搬性・手触り感」という価値でコミュニティの求心力を上げる効果があると思います。実際、いろいろなネットコミュニティ運営サイドとのコラボレーションを通じ、ネットコミュニティが肥大化すると、バーチャルだけでは、求心力が弱まり(エントロピー増大の法則!)、運営側が、何とかリアルな実感・共感が得られるリアル媒体との連動を模索しているというニーズも分かってきました。これからのネットコミュニティの成功の秘けつをひと言で言えば、「五感に響く会員サービス」だということです。

具体的には、会員向けの情報誌やフリーマガジンは、共通コンテンツとカスタマイズもしくはパーソナルコンテンツのハイブリッド化をしていく可能性が高いと思いますし、会員限定のノベルティ関係もしかり。問題はコストですが、カスタマイズに対する所有価値がどれくらい上がるかどうかがキーで、『はっぴーママ』の場合、400円で販売している雑誌が、表紙を変えるだけで2000円から3000円の所有価値に転換されるということですし、イメージバリアブルの号でご紹介したコンサドーレ札幌のプレミアムスケジュール(カレンダータイプ)が会員の名前が溶け込むだけで、3000円で5000部完売するという所有価値レベルの話となってきます。

DP3.0コミュニティINはあだ花か?

これまで、商業印刷ビジネス自体、マスマーケティングの発想でしたから、こんな話を書いても、「ネタとしては面白いけどビジネスとしてはあまりにもニッチでもうからない」という意見が大半だと思います。確かに今はそうかもしれませんが、これら新たなコミュニティの内部にたまっている会員の情報や、ニーズ分析などのデータ自体、企業(マーケティングIN側)にとっては、垂涎(すいえん)の的というのも事実です。

例えば、「愛犬と楽しく暮らす家」を住宅メーカーが企画・開発した場合、「大型犬と長時間ドライブが楽しめる車」を自動車メーカーが企画・開発した場合、いずれも『woof woof』のマーケティングノウハウや、会員とのコミュニケーション力はものすごく魅力的です。また、このネットコミュニティ自体、まだインターネットやモバイルといった媒体がベースですから、ニッチに見えるだけで、完全地上波デジタルの時代となったら、テレビの画面がコミュニティへの入り口であり、テレビのコンテンツ自体が、パーソナル化してしまう時代です。さて、そうなった場合、デジタルプリンティングニーズはどうなるのでしょうか? 果たしてニッチかあだ花か? 次回特別延長・最終号へ!

(「プリンターズサークル」2008年7月号より抜粋)


連載一覧:
デジタル印刷ビジネスで確立する新たな市場

◇Print-Betterでは、デジタルプリント関連情報をまとめて紹介しています。
ALPS協議会・デジタルプリント情報ポータルサイト

2008/09/05 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会