eBookのセッション(2/3 A1)では、ボイジャー 萩野正昭氏、アスキー 松本吉彦氏、イースト 下川氏という電子出版・PCのフロンティアの方々を招いて、紙の本、デジタルメディアなど広い範囲における出版について活発な議論が行われた。
ボイジャー
ボイジャーの萩野正昭氏は、1992年に日本でボイジャーを設立し、日本における電子出版の普及に取り組んできた。アメリカのボイジャーから、エキスパンドブックを単にローカライズして日本の市場に流すだけではなく、縦書きやルビなど日本の編集者の要望を取り入れた電子出版のオーサリングソフトとして改良してきた。
ボイジャーのT-Timeというテキストビューアのプラグインは、PCにインストールすると、テキストやHTMLなどのテキストデータを、縦書き・横書き、フォントサイズの変更などを自由に設定して、自分の好みの表示で読むことができる。このプラグインは、2000年1月1日から、読売新聞社のWebサイト『ヨミウリ・オンライン』の「縦書きNews」コーナーで利用されている。【講演資料】
萩野氏は、これまでの電子メディアの議論において「メディアはどうあるべきか」、「どうすれば人の役に立つのか」という点が欠けていたと指摘する。特に、電気メーカーなどが提案した電子メディアは脆弱で、出てきては消えてしまう。ボイジャーは、このような消費を前提とした金儲主義のに走らず、情報を必要としている人に手軽に情報を提供するという方向で電子出版の活用をすすめてきた。
ボイジャーは、青空文庫というインターネット上の一種の電子図書館を始めた。現在は、アスキーに移り、基本的にはボランティアで構築されている。ここでは、著作権が消滅した文学作品をインターネットから無料でダウンロードできる。
社会的な共有財産を享受して、いかに活用するかという点に、ビジネスチャンスがあるのではないか、と萩野氏は語る。
アスキー
the end of the startというタイトルで、eBookは死んだということから、松本氏は話を切り出した。それでは何が始まるのか。【講演資料】
松本氏は電子ブックは必要悪だと表現した。紙メディアは、自分が情報を得る場合も、次の世代に伝える場合にも非常に優れたメディアである。しかし、環境や資源の問題を考えると、中国やインドの人が欧米並みに紙を消費するようになると、地球が丸裸になってしまう。そこで、デジタルの情報で共有する必要がでてくる。
現在、電子ブックの世界において著作権保護の議論ばかりが先行して、金儲けの話に終始している。松本氏は、複製もコンテンツもフリーにして、サービスでビジネスをするべきだと語る。
江戸時代は、著作人格権は非常に大切にされていたが、複製権という概念はなかったという。江戸の粋として、自分の書いたもの、考えた技は減るものじゃないからまねしてくれ、というのが格好良かった。日本はこの西欧とは違う文化を大切にすべきである、と語る。
そして、松本氏は、電子ブックは単体のものではなく、すべてがインターネットにつながり、iBookという情報を共有するツールとして成長していくのではないかと予測した。
イースト
イーストの下川氏は、パソコン関連の開発をはじめ、出版社に電子出版関係でサポートするビジネスをしている。セッションでは、電子出版における標準化やアメリカの動向などについて紹介した。【講演資料】
コンテンツを読むコンピュータが大きく変わろうとしている。デスクトップかノートブックかという状況が、シャープのザウルスやIBMなどのキーボードのない液晶端末が選択肢に入ってくるだろう。コンテンツがあふれている今、キーボードがない端末でも十分用が足りるからである。一方、マイクロソフトはマイクロソフトリーダーというパソコン用の読書用ソフトを開発している。
アメリカで開発されたロケットイーブックはペーパーバックサイズの携帯端末で、1500以上のタイトルがバーンズ&ノーブルのWebサイトkら購入できる。これは、一度PCにダウンロードして、そこからロケットイーブックの端末にダウンロードする。日本でも電子書籍コンソーシアムが、同様の携帯端末を利用して、電子ブックの実証実験を行っている。この場合は、書店やコンビニに設置してある情報端末からコンテンツをダウンロードする。ただし、どちらも使い勝手や購入方法などまだ課題は多いという。さらに、著作権保護の機能も端末レベルやデバイスレベルで開発が進められている。
下川氏は、本当のコンテンツは、著作権でがっちりと保護された環境からはでてこないだろうと指摘する。新しいメディアには、開かれた世界の中で魅力的なコンテンツが登場する。
10年後の雑誌・書籍の未来
最後に質疑の中で、10年後の雑誌・書籍の未来について3名の方に予測していただいた。萩野氏は、印刷出版物の点数6万5千点というのは確実に減るだろうと予測する。しかし、紙の出版物が10%になるという予測はしない。電子的な形でものが読まれることの比率は高くなるが、意外と小さいと考えるからである。電子的なメディアは自分から向かっていかないという性質がある。つまり、自分から情報を持ってくるという作業がどうしてもともなう。その意味では紙は非常に優れていると語る。
松本氏も印刷メディアはすばらしいと話す。今後の出版は、インターネットと紙メディアをつなぐことが鍵だという。テレビとインターネットをつなぐ話は多いが、紙はまだそのような話がでてこない。そして、ジャーナルの世界は9割は印刷物が無くなり、本は9割紙が残ると予測する。
下川氏は、2010年には本も雑誌も9割の紙がなくなっているだろうと語る。インターネットにつながる媒体をほとんどの人が所有するようになり、情報の個人所有もなくなる。パチンと指をならせば、自分の欲しい情報を得るという、インフォメーション・アット・ユア・フィンガーチップという世界が実現するようになるだろうと語った。
2000/02/08 00:00:00