美術館・博物館などの収蔵品をデジタル保存するデジタルアーカイブが活発化し,博物館や美術館における実際の運用も進んでいる。
(株)日立製作所と(株)日立情報ネットワークでは,デジタル絵画システム「カレイドアート」を開発した。同製品は,高精細なプラズマディスプレイを使用して,世界の名画やCG作品を専用CD-ROMで表示する。
12月10日に開催された通信&メディア研究会のミーティングでは,開発センタの入交隆彦氏よりカレイドアートの開発の背景やその概要について説明していただいた。
デジタルアーカイブの世界はまだ創生期の段階であり、その使い方についてはこれからの課題である。
デジタルアーカイブの効果の第1に,文化資源の保存があげられる。これには、伝統文化の振興、伝承人材の育成と確保も含まれる。これらを映像で記録しておけば、将来的に人材を育成したいときに、データを見ての再現が可能になる。
第2は、新しい産業が生まれる可能性がある。デジタル技術によって,経験できないことが実現できる。公共的なものとしては仮想博物館や景観シミュレーションなど、企業でもシミュレーション、個人では,ゲームの世界などマルチメディアの利点は,実物がなくてもそれと同じことが体験できる点である。また,遠隔地でも教育や診療が受けられたりとかである。
カレイドアートもデジタルアーカイブの応用システムとして位置づけられるだろう。
アイディア力で生まれたカレイドアート
従来から,新製品開発のキーワードとして言われているのは、まずマーケティング力である。その裏付けとして,技術力と企画力、販売力などが言われてきた。ところが、昨今これが少し変わってきつつあるのではないか。マーケティング力は当然であるが、それよりもアイディア力(売り方もしかり)が必要である。
もう1つはシステム力、ものをまとめていく力であり、これからさらに重要になるものがコンテンツ力である。これらがそろえば、あとは熱意と実行力だけである。
今までのプラズマディスプレイは,精細度がVGA仕様であったため,絵画コンテンツの表示には不満があった。その中で、非常に精細度の高いXGA仕様のディスプレイが出てきたこともきっかけとなっている。
ただし、日立情報ネットワークではコンテンツは持っていなかったため、コンテンツを提供してくれる協力者が必要だった。デジタルアーカイブ事業を展開しているイメージモールジャパンから声がかかり,コンテンツ供給の目処がついたことで,カレイドアートはできあがったと言えるであろう。
カレイドアートの特徴は、2点あげられる。
まず第1に,本物の絵画らしく見えることである。プラズマディスプレイに額縁を付けたらどのように見えるのかと実験をした。額縁なしで表示するとプラズマディスプレイ自体に,モネの絵が映っているだけであるが額縁を付けると突然本物の絵画らしく見えてきた。
第2は,意匠、雰囲気である。額縁付きプラズマディスプレイをイーゼルに載せた。これは、正直なところ多少苦しまぎれである。カレイドアートで映されている絵を見た10人中8人は,壁掛けでない理由を尋ねる。プラズマディスプレイは壁掛けが1つの売りになっているが,非常に重いので,壁の補強が必要になる。また、どうしても信号ケーブルや電源ケーブルが表面に出てくるので、それをどのように隠したらいいのかなどの悩みが増えてくる。それなら、イーゼルという絵画制作時の道具に乗せてしまって、道具箱風に見せているものの中にパソコンなどをしまおうと考えた。これによって壁掛けとは異なった絵画鑑賞の雰囲気が作れたのではないか。
また,額付きプラズマディスプレイは回転機構によって縦でも横でも使用できる。普通、プラズマの使用方法としては横置きである。最初は横のみの予定だったが、絵画を調べていくうちに、縦向きの絵もかなり存在したためである。
開発時の考え方
第1は,システム製品にありがちな操作性の複雑さを廃し、家電製品のような容易な使い勝手の実現である。
システムは、41インチのプラズマディスプレイ,パソコン,パワーコントローラ,操作パネルの4点で構成されている。システムの中にパソコンが使用されているために,電源切断時に終了処理が必要となる。これはパワーコントローラの電源を切ったときにシャットダウン信号がパソコンに対して出ていく機能によりユーザが終了処理を意識しなくてもメイン電源をOFFするだけで良いようにして解決した。
次に操作性の簡易性である。パソコンを使うがためにややこしい部分があるが、簡単な操作にするところに知恵を使った。操作には、キーボードを使わないようにしている。システムの立ち上げやオフのときに1つずつ電源を入れる作業はわずらわしいので、メイン電源は1つにした。またシステム操作は6個のキーで全て行えるようにした。
第2が著作権保護である。デジタルコンテンツはダビングが容易なことから著作権保護が非常に重要な問題になる。そのために、セキュリティの二重化を実施した。まず,電子透かしを採用し,イメージモールジャパンが作っているコンテンツ側に入れた。また,システムの媒体であるCD-ROMに暗号を記録してある。ハードウェアに入っているソフトで、カレイドアートシステムでは暗号が解かれて絵が表示される。カレイドアート専用のCD-ROMを自分のパソコンに入れて見ようとしても、映像を開くことができない。
さらに,信頼性と安全性に力を注いでいる。安全性については、大きくて重いため転倒防止策をとった。また,額縁の高さはある程度調整できるが,調整のためにネジを緩めると、40数キロの重量が一気にかかって落下する危険性があるので,後ろにガスダンパーを付けた。
その他の機能として、オリジナルコンテンツ設定を組み込んだ。CD-ROM以外にフロッピーベースでユーザが作った静止画データ5枚を取り込める。
映像ソフト
イメージモールジャパンと大日本印刷から,カレイドアート用のコンテンツを提供されている。現在,国内外の絵画,国宝・名園・文化財などの写真、CGアートがある。イメージモールジャパンから8タイトル、大日本印刷から3タイトルを提供されている。
CGアートはオリジナルで制作した。絵画は当然ながら静止画である。一方,CGアートは静止画ではつまらないし、動画ではテレビの世界になってしまうのでおもしろくないため、多少遊び心も含めてその中間となる動く静止画を作ることを考えて作った。これは画面が変化していくが、ずっと見ていないとどこが変化したか気がつかない程度に変化させた。いつの間にか絵が変わっているという意外性を狙っている。音も入れてあり,1作品は3分程度である。当然、印刷物では動きのあるものは表現できないので、印刷物でできない表現方法の場の提供は新ジャンルのCGアートの出現のきっかけになればと思っている。(通信&メディア研究会)
2000/03/18 00:00:00