本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

画像入稿の電子化:デジカメ比較編

PAGE2001カンファレンスのC6セッション「画像入稿の電子化」のパネルディスカッションでは,青山電子倶楽部(株)新宮武彦氏,松下電子工業(株)松長誠之氏,(株)マガジンハウス茂手木秀行氏,大日本スクリーン製造(株)郡司秀明氏,(株)プロ・バンク庄司正幸氏の5人により、代表的な4機種のデジタルカメラについての画質評価やカメラの使い勝手やライティングなど多岐にわたって活発な議論が繰りひろげられた。その時ために事前にメーカー各社にお願いしたアンケートの結果資料を以下に示す。

機種名

EOS D30

DCS560/DCS660

D1

FinePixS1

メーカー名

キヤノン(株)

コダック(株)

(株)ニコン

富士写真フイルム(株)

価格

358,000円

1,800,000円/1,800,000円

650,000円

375,000円

撮像方式

CMOS

フレームトランスファーCCD

インターラインCCD

スーパーCCDハニカム

総画素数

325万画素(2,226×1,460)有効画素311万画素

600万画素 3,040×2,008

274万画素(2,000×1,312),有効画素266万

ハニカム配列340万画素(記録画素613万)

センサーサイズ

22.7×15.1mm

27.6×18.4mm

23.7×15.6mm

23.3mm×15.6mm

画素サイズ

10.5μm

9μm

11.8μm

10.7μm

記録方式

JPEG,12bitRAW

TIFFカスタム(12bit RAW)

JPEG,TIFF,12bitRAW

JPEG,TIFF

開発コンセプト

ハイアマをユーザーターゲットとして開発。「手軽に撮影して、そのまま使える画像が撮れるカメラ」と「メーカーのお仕着せの画作りではなく,素材としての画像を撮れるカメラ」の両面を目指した。

撮影した画像データが、印刷等を含む様々な業務で利用されることを想定したプロカメラマン用のデジタルカメラ。

報道等の高速性を重視するユーザ向けの用途と、高速性は必要ないが、高品質な画像を必要とするユーザー向けの用途との両面に対応。

撮影の段階で満足な画質が得られることを目指し、パソコンでの画像処理が不得手なユーザーにも扱いやすいことが特長。

●カラーのポリシー

キヤノン(株)EOS D30
「素直で腰の強い画質」=「手軽に撮影して、そのまま使えて、さらに手を加えるとブラッシュアップが可能」なカメラとなっている。
・色再現(色づくり)
数値データ(Lab)に忠実に+メーカー独自味付け
・解像度
限界解像度は追求。解像感を増すための輪郭補正は控えめに
・階調
輝度情報を失わないような表現・Dレンジレタッチによる暗部の多少の持ち上げにも耐えうるSN感。

コダック(株)DCS560/DCS660
・色再現
忠実な色再現を基本とし、撮影時の照明環境に対応したカラーバランス設定を搭載しているが、基本的にはCCDが受光した光情報を「12bit RAW」のまま画像データとして格納するのみで、最終的な色の再現についてはそのデータを扱うユーザーの主観や表現意図、作業環境などに対して柔軟に対応できるようになっている。JPEGやTIFFで記録するタイプのデジタルカメラのように、8bitのサンプリング後にメーカー独自の味付けを加えるような工程を排除しているため、トーンジャンプ等の発生を最低限に押さえつつ、出力デバイスに応じた色再現を無理なく実現できるようなシステム設計になっている。
・解像度
現存の一眼レフタイプデジタルカメラとしては最高の、実データで3040×2008ピクセルの出力解像度を有している。・階調撮像素子が出力する12bitの画像情報を、カメラが勝手に8bitに変換して様々な演算処理を加えてしまっては、せっかくの豊富な階調再現性をユーザーから奪う結果になる。DCSはこの点においても12bit RAWのままデータを保管し、その後の処理をユーザーに委ねることで柔軟性のある画像データの提供を実現している。
・Dレンジ
単位画素面積当たりの受光面積と開口率が最も大きく、飽和電荷量の最も高いフルフレーム方式のCCDを採用することで、広いダイナミックレンジを実現している。しかも単位画素の大きさは実サイズで9μmという、同200万画素DCSシリーズの13μmに次いで大きなCCDセンサーを採用している。

(株)ニコン D1
・色再現(色づくり)
フィールドカメラであることを基本として屋外撮影を重視し、被写体の測色的な色を再現する様な色処理を行っている。また,後処理の加工性を考慮した素材を提供する事をポイントとした。・解像度光学解像度と出力解像度のバランスを取り、比較的コンパクトなファイルサイズに対して解像感を高めている。解像度を高めることだけに着目すればモアレが発生するので、その抑圧と解像度維持のバランス点を絞り込んだ。
・階調
ノイズを目立たなくする為にシャドー部を圧縮、またはつぶすカメラが多いが、D1は十分にシャドー部を表現する能力があるため、暗い部分の階調を再現するγカーブを用いている。被写体によってはγカーブを切り替え、撮像素子から出力される12bit精度の情報を適切な8bit階調へ変換する機能を搭載している。
・Dレンジ
半導体撮像素子を用いるデジタルカメラでは複合的なノイズが画質劣化の原因となる。暗電流ノイズやアンプノイズ等は技術革新により改善されてきており,現状の主たるノイズの原因は,撮像素子の画素の微細化により発生する光ショットノイズと呼ばれる光そのものの揺らぎ成分であると考えられている。そのノイズの影響を受けないようにするには多くの光を取り込む必要がある。そこでD1は11.8μmの単位画素という大型センサーを採用することで光ショットノイズの影響を低減し、SN向上を行い、更に高輝度物体への飽和余裕をとることで広いダイナミックレンジを確保している。

富士写真フイルム(株)FinePixS1
・色再現
(色づくり)FinePixシリーズ全般として人肌がきれいな色に再現されることをはじめ、記憶色重視の設計。一方で、ユーザーの用途や好みに合わせて、カラー(色の濃さ)、階調、シャープネスの3つのパラメータをカメラ本体で簡単に設定を変えることが可能なので、コンシューマユーザーのみならず、よりクオリティーの高い画像を求めるユーザーや印刷用途など画像加工を必要とする業務向けユーザーまで幅広い層のユーザーに対応できるよう設計されている。
・解像度
当社独自技術のスーパーCCDハニカム(総画素数ハニカム配列340万)を採用し、ハニカム信号処理により記録画素613万画素を実現。水平、垂直の解像度を従来型CCDに比べ大幅にアップしている。
・階調
12ビットA/D変換された信号をRGB各色8ビットで記録。
・Dレンジ
大サイズのスーパーCCDハニカム採用により受光部の開口率がアップし、S/N、感度が大幅に向上。

●技術的なポイント

キヤノン(株)EOS D30
SN感の向上を図るため以下の技術を導入
(1)CMOSセンサー:CMOSセンサー内部にノイズ低減機構を持つ
(2)長秒時のNRモード:長秒時にも驚くほどノイズの少ない画像を撮影可能
(3)ノイズ感:高感度時の固定パターンノイズや暗電流ムラ低減により良好なノイズ感の画像を撮影できる

コダック(株)DCS560/DCS660
・9ミクロン正方画素フレームトランスファー方式の600万画素CCDセンサ画質を決定する要素には、ダイナミックレンジやS/N、色飽和度や感度などがあるが、これらはいずれも受光素子のひとつひとつの画素の受光面積および開口率に依存する。そこで,DCSシリーズでは、開口率が高く最も大きな受光面積を得られる設計方式である、フレームトランスファー方式のCCDセンサを採用している。
・ブループラステクノロジーフルフレーム/フレームトランスファー方式のCCDは、電極が受光部分にかぶさる構造になっているため、従来型の電極(ポリシリコン素材)では短波長域の光成分がそこで吸収されてしまい、青色の感度が低下するという特性を持っていた。「DCS560/DCS660」では、電極素材に酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide)を採用することによって電極部分の無色化を実現し(ブループラステクノロジー)従来品よりも青色の感度を約2.5倍に向上することに成功した。この技術によって、後処理による大幅な色補正処理を施すことなく、オリジナルの画像データの状態でも非常に優れた色再現性を得られるようになった。

(株)ニコン D1
ボディへ搭載している信号処理回路は報道カメラ等の早い撮影間隔に適用するように高速処理を重視し、画素補間処理や色処理は演算時間の短縮を狙い、簡易版処理を行っている。高精度を要求される用途には画像処理ソフトの「Nikon Capture」(別売)にて対応。

富士写真フイルム(株)FinePixS1
@上述のとおり、当社独自のスーパーCCDハニカムを採用し、ハニカム信号処理と合わせて解像度・S/N・感度を大幅に向上させ、総合的な高画質を達成。
Aまた、以下の画質に関する3つのパラメータをユーザーの用途や好みに応じて設定することが可能。Color(カラー):B/W、ORG、STD(標準)、HIGHの4段階Tone(階調):ORG、STD(標準)、HIGHの3段階S(シャープネス):OFF、STD(標準)、HIGHの3段階
・デフォルトは各々「STD」に設定されており、後処理不要でパソコンのモニタや各種プリンタでの利用に適している。
・「ORG」はCCDから得られたデータをカメラ側での処理を掛けずに画像を記録。このままプリントした場合、見栄えは良くないが階調など情報量が豊富であるため、パソコンに画像を取り込んだ後に画像加工を行うことに適している。画像加工を得意としたプロカメラマン向けで、印刷を目的とした絵作りのための設定となっている。
・「HIGH」はフラットな被写体や彩度の低い被写体を撮影する際に、できるだけメリハリのある画像にしたいときに効果的である。

●印刷用途に向けた工夫

キヤノン(株)EOS D30
「素直で腰の強い画質」により様々な画像操作にも耐えうる画像を目指している。

コダック(株)DCS560/DCS660
「Raw Data」記録方式を採用しているため、撮影した画像データは最終の利用目的に応じた自由な補正処理に耐えるだけでなく、理想的な最終画像ファイルにもっとも効率的に近づけることが可能。また、このコダック「DCS Raw」を16bitの「CIE LAB」空間で扱えるカラーマネジメントソフトウェア、「LinoColor DCam」等も商品化されている。RGBの画像データを印刷の再現領域で表現するためには、必ずコンピュータ上での画像処理作業が伴う。したがって、カメラ自体だけでなくソフトウェアを含めたワークフロー全体の最適化を考えて設計している。

(株)ニコン D1
「Nikon Capture」にて高度な補間処理を行い、斜め線に対するジャギー低減を実現。また、印刷インキの色の再現域をカバーする為に色空間はNTSCを採用し、レタッチが可能なデータの作り込みを行っている。

富士写真フイルム(株)FinePixS1
@印刷分野での要望が強い非圧縮(TIFF)モードを選定可能。
A上述のとおり、印刷を目的とした絵作りのために、階調、カラー(色の濃さ)、シャープネスについてカメラで処理を掛けていない「ORG」モードを設けており、階調補正、色補正、シャープネス処理がしやすいデータが得られる。

●ベースとなるRGBカラースペース

キヤノン(株)EOS D30
sRGB:D30はDCFを採用しているため同規格の標準カラースペースであるsRGBを採用。

コダック(株)DCS560/DCS660
「Raw Data」記録方式であるため、データ取り込み時に使用する画像アプリケーションソフトウェアに依存。

(株)ニコン D1
NTSCを採用。sRGBではCMYKの表現域をカバーすることはできない。また、NTSCは1953年の規格化以降、撮像系の分光感度や評価機材等を含めて環境が整備されている。現在はAdobeRGBなどメーカーから独自の色空間や新しい方向性を示す色空間の提案があり、今後は、環境に合わせて色空間の対応をアプリケーション等にて対応していきたいと考えている。

富士写真フイルム(株)FinePixS1
sRGBを採用。sRGBカラースペースは一般的なDOS/Vパソコンに採用されており、多くのパソコンで親和性が良い。FinePixS1Proで撮影した画像をパソコンに取りこんだ際に余計な手間を極力掛けずに済むことを考慮している。

●今後の方向性

キヤノン(株)EOS D30
D30はハイアマ向け製品ではあるが、後継機種ではより製版・印刷業界のワークフロー中の操作に耐えうる画質を目指していきたい。

コダック(株)DCS560/DCS660
・今後も継続してプロフェッショナルユースにこだわった、ワンショットタイプのデジタルカメラ開発を継続していく。
・一眼レフタイプのみならず、中判カメラ用のカメラバックなど豊富なラインナップを追加していく。
・基本的には更なる高画素化と更に高度な画像編集が可能なアプリケーションの開発に注力している。

富士写真フイルム(株)FinePixS1
撮像素子の大型化、さらなる多画素化、ダイナミックレンジの拡大、ハニカム信号処理のブラッシュアップにより総合画質の向上を目指す。
その他:印刷向けユーザーにより使い易い環境を提供するために、色補正とCMYK変換が可能なソフトウェアとしてPICTUNE21(ピクチューン21)を提供。PICTUNE21は自動処理からプロの処理まで幅広い用途に対応する機能を持ち、入力プロファイルとしてFinePixS1Proが用意されており、FinePixS1Proで撮影した画像データの印刷用データとして処理するための作業効率を向上させることが可能となっている。

PAGE2001 報告

2001/03/29 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会