IT時代にはデータ運用能力を充実させることが,情報を扱う企業にとって最も重要なことになる。そのために,現実的な問題として何が存在し,何に取り組むべきなのかを考える場として、 2月4日の「コンテンツ管理」セッションを行った。モデレータは静岡大学の合庭惇氏があたり、コンテンツを所有する,コンテンツを利用する,コンテンツを管理するという異なった立場のパネラのプレゼンとディスカッションを行った。
コンテンツの利用権を提供
富士ゼロックスの軒野仁孝氏は,富士ゼロックスが取り組んでいるコンテンツ事業について紹介した。従来の印刷して配布するという流通経路や管理の体系が変わっている。制作する環境とマネジメントする環境、利用する環境という3つの立場から,コンテンツ管理を考える必要があり,今後は利用する環境での電子化が急速に進むと予測した。
富士ゼロックスでは,オンデマンドで本を作って届けるBookPark,DDSA(著作権管理技術)を使ったデジタルコンテンツ配信サービス「まんがの国」を提供している。デジタルコンテンツは,所有するという考え方から、利用するという考え方に移っている。従来は,制作の視点からコンテンツ管理が議論されてきたが、使う側の視点で組み換えなければいけないだろう。使う側はあらゆるメディアでコンテンツを利用したいと考えているが、メディアを選ぶのはユーザという視点を持つことが必要になるだろうと述べた。
論文単位でコンテンツ管理
シュプリンガー・フェアラーク東京の平野正氏は,インターネットでオンラインジャーナルを配信するリンクというシステムについて主に紹介した。シュプリンガー・フェアラーク社は,本社をドイツにおく科学系の出版社で,ノーベル賞クラスの研究から、ポピュラーサイエンスまで広い分野を手がけている。リンクでは,12万本の論文と442種類のジャーナル、5つのブックシリーズと3つのエクスパートシステムが掲載されている。
医学の臨床支援システムであるエクスパートシステムでは,5人の医者が、腎臓、内科、整形外科などの診断と治療方法などをインターネットで配信している。
また,競争力を高め,不公平がないように,論文が発表されたと同時に,英文を修正し、ページメイキング前にオンラインに掲載するオンラインファーストのサービスも行っている。
本体はPDFファイルにして、タグをつけてSGMLデータにして、さらにアブストラクトはHTMLにしている。
論文を識別するために,デジタルデータの著作権を保護、管理する技術であるDOI(デジタル・オブジェクト・アイデンティファイアー)を使っている。非常に出版部数が少ない先端分野の情報は,在庫を抱えられないので,オンライン出版とオンデマンドで出版を想定した管理方法に向かっているようだ。
知的財産権管理
凸版印刷の萩原恒昭氏は,コンテンツ管理に関わる著作権問題を,既存の著作物を利用する場合と、新たに著作物を制作する場について解説した。著作物を利用する場合には、著作権者からの利用許諾と著作者との合意を得ることを考えておかなければいけない。特に,デジタルデータを改変して利用するときは,著作権者からの翻案権についての利用許諾と、著作者から同一性保持権について行使しないという合意をとる必要がある。
新たにコンテンツを制作する場合の注意点として,実際に作った人が著作権者になるために,著作権の帰属についての取り決めが非常に重要になると述べた。著作権が得意先に帰属する場合は,対価等の条件を変えたりすることも検討した方がよいと述べた。顧客と共同でデザインを決める場合は,共同著作物にあたるので,もう一方の著作権者や共有者から合意を得る必要がある。
また,ホームページでコンテンツを配信すると、無断複製の問題が出てくる。著作権法もそれを考慮して、電子透かしが入っている場合に電子透かしの内容を勝手に変えてはいけないという規制をかけた。
さらに、技術的保護手段の回避についての規制として、コピープロテクトがかかっている著作物のコピープロテクトを外して利用する行為は私的利用でも許されない。さらに、プロテクトを外せる機械や装置、プログラムを製造販売している者に対しては罰則が設けられた。このように著作権法も技術の進展に合わせて改正が進んでいると結んだ。
ディスカッション
ディスカッションでは,著作権問題,データベースの活用,電子商取引をテーマとしたディスカッションが行われた。平野氏がDOIの紹介と,シュプリンガー・フェアラーク東京での利用について説明したのに対して,萩原氏からDOIが権利管理情報にあたるだろうという発言があった。
また,データベースの活用については,軒野氏から中身をオブジェクトとして捉えるとの話があった。つまり,1つのコンテンツに多数のフォーマットを作って,いろいろなパターンで表示できるようにしている。
平野氏は,レントゲンの写真など高精細な画像が求められる場合は,インターネットと冊子体の両方で対応していると話した。
2000/03/14 00:00:00