Print Ecology(印刷業の生態学) href=http://www.jagat.or.jp/column/comentry/index.htm>
6章までの掲載分のindex
7.カオスからの脱出
有機生物においては成長プロセスは細胞内のゲノムによって決定されているが、そのプロセスにおける形質変化が人間のように小さいものもあるし、両棲類の「かえる」や昆虫のように全く変化するものもある。大小の違いがあっても成長のプロセスにおいては何らかの形質変化がある。この形質変化のことを変態(メタモルフォーシス)という。昆虫の変態は顕著である。例えば蝶なら、卵、いも虫、蛹、蝶というように全く形質の変わった姿が成長の各段階で現われる。しかし、その変態もすべてゲノム(Book of Life)に書かれているものだ。どうやら私たちのメタモルフォーシスというものは、無機物にしろ有機物にしろ、「種」によって形質はいろいろだが、ルールは三相の相転換とか、Book of Life によって決っているように見える。
・変態のプロセスと環境は不可分
勿論、その変態のルールに作用するものは温度、圧力、湿度、時間、各種薬物などという環境因子である。環境によって変態が早まったり、遅れたり、場合によっては変態できない場合だって生ずる。従って環境は生物の成長プロセスにおいても重大な役割をするということを認識すべきである。私たちが科学を学ぶ時、常に目にする文句がある。「一定の条件の下では」とか「所与の条件」というものだ。すべての事象の研究活動において、ある種の事象の発現は必ず、ある種の条件の下で起るのであるから、その条件すなわち環境を明記しておかなくては研究活動は前へ進まない。その意味でも成長プロセス、変態のプロセスと環境は不可分の関係だということを理解しておこう。
・外部環境の情報を交換
前述した通り、変態は一定のルールに基づいて行われると述べた。生物の変態と物質の「ゆらぎ」とを同一に論じてはいけないのかも知れないが、変態の前後において細胞は自分が属する「全体」の変態後の形質を自己暗示し、新しい形質に対応して、同形質化するように自己組織化を行う。簡便にいえば、「ゆらぎ」の時と同じように細胞は「全体」の変態を予知し、ゲノムの指示に従って新しい細胞を作っていくということだ。ここで大切なことは全体と細胞または全体と下部組織の関係だ。全体は外部の環境変化に関する情報を感知し、それを細胞や下部組織に伝達する。一方、細胞は温度、湿度、時間の経過などの環境変化についての情報を与えられ、それに合せて変態の時期を探っていく。そして、沢山の細胞が同時に全体の次の形質を作る努力をする。こうして全体と細胞または下部組織は外部環境の情報を交換しながらメタモルフォーズを行うことになる。
もう一つ大切なことは学習効果だ。外部環境の情報は多様で変化し易いし、その情報を感知する能力もいろいろだ。進化した高等動物ならその情報をフィードバックし、学習し、新しい変態情報に変えるだろう。進化の遅い生物なら、外部環境の変化に対応できず死滅するか、その変化が弱く、しかも繰り返し発生する場合なら、長い時間の中でゲノムそのものを書きかえることにより変態をして生存することになる。
・外部情報に対する学習
すなわち外部環境の情報とゲノムのルールに従って変態をするだけではなく、自分に不都合な外部情報なら、DNAの組合せを変えて、環境に適応した個体に変態したり、またはその環境から逃げる行動をとることになる。そのように外部情報に対する学習をしながら、自分の生存形質や生存領域を決める、換言すれば変態と学習の中で自分のニッチを作っていくものだ。
2001/03/17 00:00:00