PDFワークフローは期待の割には環境が整わなかった時代が続き、まだユーザの不信感がぬぐえない感がある。PAGE2000のC3「PDFワークフロー ユーザの対応」セッションは,Adobeおよびメーカーのプレゼンのあとで、恒陽社印刷所の石塚晃,図書印刷の久富隆洋,日本写真印刷の田邊忠の3氏が,PDFワークフローに関するプレゼンとディスカッションを行った。3氏とも会社を代表してではなく個人の立場で自由に話していただいたこと,また多岐に渡った話題はこのスペースではとてもカバーしきれないことをあらかじめおことわりしておく。
石塚氏は,今のところPrinergyが一番理想に近いExtremeシステムだが,一方,印刷を前提とした生産性/安定性を優先すればBrisque Extremeのような形もメーカーの選択としては当然あるだろうということ。それから,フォントの問題,とくに日本語フォントエンベッドやPostScript 3 RIPにまつわる問題点を指摘した。また,日本の印刷のワークフローという観点からは,そもそもPDFをどこでどう使うのか考える必要がある。ユーザとしては,これからいきなりPDFワークフローシステムを導入するのではなく,いろいろな要素を見ながらもう少し待つことになるだろう。またMacOS XからOSレベルでPDFをサポートするようになれば状況も変わるかもしれないということだった。
久富氏は,まずはフォントの問題,とくに,ユーザにとってCIDフォントにする必然性はないのではないかと指摘した。また,PDFは圧縮形式にJPEGを使っているが,はたしてそれでよいのかどうか。それから,PDFを使うならフォントを搭載しないRIPもあり得るということ。またRIPのバージョン3011以降でないと日本語をエンベッドしたPDFは扱えないなどの指摘は石塚氏と同様である。ワークフローの問題では,だれがPDFを作るのか,クライアントはPDFで校正するだろうか,という得意先とのやりとりも含めた問題点を指摘した。結局,今は従来工程の中で,PDFを使ったほうが有効な場合だけPDFを使えばよいのではないか。低価格の各種ツールでも,うまく組み合わせれば結構うまくハンドリングできるということだった。
田邊氏は,アメリカのPDF利用の動向についてレポートしていただいた。インターネットの広がりによってe-mailがPDFに代わりつつあること,新聞広告業界などではPDFが標準になりつつあること。各社のExtremeシステムがそれなりに評価されていることなどなど。
問題はワークフローそのものをどうするかである。アメリカでも従来の処理手順や資産を引き継ぐシステムが相応に評価されているのを見ると,必ずしも日本の業態や商習慣などの特殊性だけがワークフロー構築の妨げというわけでもないようである。各メーカーの提案を見てもすっきりしたPDFワークフローはなかなか見えてこないし,果たしてPDFがプリプレスの標準フォーマットとして使えるのかという指摘もある。
しかし,これはPDFがどうこうというよりも,そもそも根本的にワークフローそのものを見直す時期なのだと考えたほうがよいのではないか。PDFだけでなく,ネットワーク,データベース,CTPなど道具立ては整ってきた。Extremeが唯一のソリューションではないにしても,少なくともひとつのモデルと捉えて,あるべきワークフローの姿を早めに考えておく必要がある。
2000/03/15 00:00:00