2000年3月14日、デジタルアーカイブ推進協議会(JDAA)は、青山TEPIA(東京)において、デジタルアーカイブ権利問題ワークショップを開催した。講演者に、デジタルアーカイブに関係の深い文化庁、大学、印刷会社、美術館関係者などを招き、100名以上の参加者をむかえた。会場からの発言も活発に行われ、盛況のうちに閉会した。
最初にJDAAの事務局次長の笠羽晴夫氏が、今回のワークショップの主旨とJDAAの活動の概観を紹介した。デジタルアーカイブにおいて、美術館・博物館が特に重要な問題だと考えていたのが権利問題であった。これを背景に、JDAAでは加盟している企業メンバー、美術館・博物館を含めた有識者を集めて権利問題研究委員会(委員長:早稲田大学 相澤英孝)を設置し、1998年10月に『デジタルアーカイブ権利問題ガイドライン(案)』をまとめた。作成後に寄せられた意見などを反映させ、1999年12月には、図版も入り、よりわかりやすくなった『デジタルアーカイブ権利問題ガイドライン(案)』の簡易版が作成された。今回のワークショップは、現状の動向をふまえながら、権利問題についてさらに議論を深める場として開催された。
文化庁の尾崎史郎氏は、著作権関連の国の動きについて解説した。平成9年と平成11年に著作権法の一部改正が行われ、今国会でも改正などの検討が進められているという。
平成9年の改正では、データをサーバにアップロードするなど自動公衆送信権に関する4項目が整理された。平成11年の改正では、コピープロテクト関連の規制や上映権の拡大など主に5項目が改正された。今年度(平成11年度)の国会では、著作権に関する世界知的所有権機関条約の締結と、著作権法などの一部改正が検討され、3月10日に国会に提出された。
さらに現在、著作権に関する仲介業務、つまり著作権管理団体やその事業に関する前面的な見直しなどに関する項目が、国会で作成中だという。
JDAA権利問題委員会委員長でもある早稲田大学の相澤英孝氏は、「マルチメディア分野の著作権」について解説した。広く社会に共有財産を残していくことを目的としたアーカイブと、著作者に収入が入るというインセンティブを約束する著作権法は、基本的に衝突するとして、デジタルアーカイブの権利問題の難しさを指摘した。
NHKエンタープライズ21の寺田一教氏は、1999年9月に取材したコービス社(アメリカ)の取材ビデオを上映しながら、デジタル化の現場などを紹介した。一時期、世界中の芸術品のデジタル化権を独占するのでは、と言われたコービスだが、現在、美術館関係とは非独占契約を結んでいるという。例えば、すでにコービスでデジタル化して商品化した画像でも、他社がデジタル化して同様に商品として販売してもよいというオープンなスタンスになりつつあるという。
ワークショップの最後に、コーディネーターを相澤英孝氏にむかえ、静岡県立美術館の越智裕次郎氏、凸版印刷の萩原恒昭氏、JDAAの笠羽晴夫氏をパネリストとして、パネルディスカッションが行われた。
萩原氏は、デジタルアーカイブ権利問題ガイドライン(案) 簡易版を資料に、デジタルアーカイブに関わる権利をはじめ、素材を利用するに際に必要な契約について解説した。特に契約文書については、現在JDAAで契約の文例を作成中だという。
越智氏からは美術館の立場として、デジタルアーカイブの現状を紹介した。現在は比較的著作権の問題にならない美術品・文化財を中心にデジタルアーカイブが進められているが、著作権の処理・コストが大変な現代美術などへの取り組みも今後大きな課題だと語った。
デジタルアーカイブ推進協議会 http://www.jdaa.gr.jp/
2000/03/16 00:00:00