PAGE2001カンファレンスのC6セッション「画像入稿の電子化」は,モデレータに青山電子倶楽部(株)の新宮武彦氏,スピーカーに松下電子工業(株)の松長誠之氏,(株)マガジンハウスの茂手木秀行氏,大日本スクリーン製造(株)の郡司秀明氏,(株)プロ・バンクの庄司正幸氏の合計5人で展開された。
デジタルカメラの高品質化と低価格化が急速に進み,プロの仕事でも使えるという認識がユーザ側にも定着しつつある。本セッションでは,現在市販されている35ミリ一眼レフタイプの各社のミドルからハイエンドのデジタルカメラ(300万画素クラス)4機種(キヤノン EOS D30、コダック DCS560/660、ニコン D1、富士写真フイルム FinePixS1 Pro)を対象に,各社の入力センサーの技術解説やワークフローの問題点を中心としたユーザ事例について,そしてフィルムレス時代はいつ頃到来するか将来展望が話合われた。
まず,松下電子工業の松長氏から,CCD/CMOSセンサ技術の動向について報告があった。 CCDとフィルムの特性の違いを比較すると,CCDはダイナミックレンジが狭く,特にハイライト特性が弱いという特徴がある。また,高感度化すると,アンプ雑音や光ショット雑音も増えてしまい,画質がざらつくという傾向がある。また,デジタルカメラの高画素化が急ピッチに進んできたが,1画素あたりの面積が小さくなるとダイナミックレンジが狭まり,ノイズが増えてしまうため,今後は,センサを大判化して,一個一個の画素サイズは小さくしないで,画素数だけ増やす方向に行くだろう。また,こうしたCCDの特性を克服して高画質化を図るために,デジタルカメラの各メーカーはさまざまなセンサ方式を採用している。松長氏からは,4種類のセンサ方式(インターラインCCD,フレームトランスファーCCD,ハニカムCCD,CMOS)について解説があった。CMOSセンサは,消費電力が少なく,多機能化・高速化がしやすいという特徴があるが,画質に関しては,飽和電子量(1画素あたりで得られる最大電荷量)が高くハイライトの再現性が高い一方で,シャドー部のノイズがCCDよりかなり多いという欠点がある。キヤノンのEOS D30はCMOSセンサを採用しているが,ノイズの低減等画質面でもかなり評価できるという。
マガジンハウスの茂手木氏からは,カメラマンの立場からデジタルカメラの使い勝手やワークフローの課題についての報告があった。銀塩カメラとデジタルカメラ(ニコン D1)とはケースバイケースで使い分けているのが現状である。デジカメが使えるのは,
(1)最終的な画像の使用サイズがA4の1/2以下であること(解像度の問題)。こうして条件を書き出してみるとかなり限定されるという印象があるが,実際はデジカメを使っているケースはかなり多い。
(2)デジカメに不向きな長時間露光の撮影や雨に濡れたりカメラを壊す危険性がないこと(カメラが高価なので)。
(3)十分な撮影時間があること(デジカメはある枚数までは連写ができるが,その後書き込み時間が生じるので瞬発力が必要な撮影には向かない)。
(4)撮影カット数が少ないこと(デジカメでは多くの撮影カット数から1カット選ぶのに作業効率が悪い。ただし,適切なブラウザソフトがあれば解決)。
(5)入稿まで十分な時間があること(カラーマネジメント環境が整っていないのでレタッチ作業をした場合,1回ポジ出力しているので)。
次に,マガジンハウスの代表的なワークフロー2タイプの紹介があった。ひとつは,入稿形式は,ポジ,紙焼き,イラストで,デジタルには全く対応していないものである。デジカメの画像もポジ出力してから入稿している。レイアウト段階では粗画像を使っており,色の確認は,印刷会社から提出される色校のみで,それまでは色の確認はできない。色校は校了の直前なので,この段階で大きく手直しするのは難しい。
もうひとつは,デジタル入稿のケースである。ある雑誌では撮影のほとんどがデジタルカメラであり,ポジ入稿は基本的に認めていない。カメラはニコンのD1で統一している。入稿形式は,印刷会社との取り決めでJPEGモードの撮影データを一切加工しないでRGBのままで渡すというルールになっている。これは,印刷会社でCMYK変換するときにプロファイルを単純化して,エラーを防ぎ,自動処理できるようにということであろう。しかし,このやり方ではカメラマンのイメージ通りに印刷物が仕上がらないと不評である。カメラマンは,記憶色を含めた自分のイメージを再現したいと思ってもレタッチが一切できないワークフローになっている。
そこで,将来的な構想として,カラーマネジメント技術を導入して,これらの課題を解決したいと考えている。導入にあたっては,自社ですべて行うのではなく,アウトソーシングを考えている。カラーマネジメントを担当する会社は,まず編集部のすべてのモニタをキャリブレーションし,プロファイルを利用することでモニタの色を統一する。次に,モニタ上で印刷(色校)シミュレーションできる環境を整える。そして,印刷条件にあった適切なCMYKデータに変換するまでを担当してもらいたい。印刷会社は,入稿データを基準通りに印刷するという役割分担になる。これにより,カラーの品質に対する責任範囲が明確になる。カラーマネジメント会社が採算ベースで成り立つかどうかという点だが,システムの保守・管理やデータの管理・バックアップ,データの二次利用のハンドリングまで含めて,まとめて委託することでビジネスモデルとして成立するのではないかと考えている。
パネルディスカッションでは,今回のセッションのターゲットとした4機種のデジタルカメラについての画質評価やカメラの使い勝手やライティングについて,あるいは今後のCCDの開発の方向性やワークフローの問題など多岐にわたって活発な議論が繰りひろげられたが,まとめとして,デジカメによる画像入稿の電子化が今の銀塩のワークフローと入れ替わるのはいつ頃か,という議論で締めくくられた。
カメラマンの立場では,カラーマネジメントの問題をクリアする必要はあるが,D1クラスの価格で,画素数がもう少し増えてA4サイズの原稿にも使えるようになれば,明日からでもすぐ使いたい。それくらいカメラマンはデジタルカメラに興味を持っている。
半導体メーカーの立場では,大判のイメージセンサの値段が2万円になれば事件が起きると言われている。これは現行の3分の1から4分の1の値段である。2002年の春がその時期らしいというもっぱらの噂である。そうなれば一眼レフタイプのカメラのデジタル化が急速に進むのではないかと思っている。
デジカメのデータを受け取る立場では,カラーマネジメント技術はかなり成熟しつつあり,DTPアプリケーションやプリンタやモニタといったデバイスの対応はかなり進んでいる。デジタル入稿においてのカメラマンと印刷会社をつなぐ役割を担う立場として,ラボ業界の対応準備が進んでいる。ただし,CMYKのノウハウについては弱い部分があるので,製版会社のスキルを活かせる余地は十分ある。測色値的には正しい色でも,記憶色や期待色のような要素があるので,画像レタッチのニーズは残るだろう。
2001/03/27 00:00:00