出版社や書店、取次ぎ、メーカーなど150以上で組織する電子書籍コンソーシアムが電子書籍配信の実用実験「ブックオンデマンドシステム総合実証実験」を1月に終え、3月末で解散した。本来ならこの実験は事業化を前提としているのだが、事業化はならなかった。むしろ事業化されたならば驚くべきで、実験前も実験中も事業化はまだ遠いと思われていた。だから今さら通信インフラの不足や携帯ブラウザの問題などを云々してみても始まらない。
電子書籍コンソーシアムは通産省から平成10年度の第1次補正予算の援助を受け、電子書籍の配信を1999年11月から開始した。電子化したコンテンツを通信衛星を利用して、書店やコンビニエンスストアの店頭の店売端末に配信した。ユーザはこれを購入して、専用携帯端末やパソコンのブラウザを使って読むという試みであった。書籍を画像データとしてデジタル化するため、マンガ本や写真集、実用書も配信できるという特徴があった。結果は合計3467のコンテンツが電子化されたのだから、これはこれで成果であろう。
電子書籍コンソーシアムのコンテンツと販売結果
ジャンル | 販売対象点数/うち受注した点数 |
小説・読み物 | 1481 / 475 |
エッセイ・評論 | 434 / 280 |
趣味・実用書 | 375 / 127 |
ビジネス書 | 97 / 90 |
参考書・地図 | 200 / 35 |
専門書・辞典 | 82 / 10 |
児童書 | 17 / 6 |
コミック | 758 / 383 |
合計 | 3467 / 1404 |
実際に販売されたコンテンツは半分にも満たないが、それが多いのか少ないのかの判断は、限られた実験期間や、操作のやり難さを加味しなければならないので、コンテンツに問題があったかどうかを考える上のモノサシにはならない。では一体この実験で何が分かったのだろうか?
日本の主だった出版社からコンテンツが3467件も提供されたのだから、人気の高いものもあったはずだ。しかし、紙に代わって電子の本を提供すると人々は飛びつくかどうかについては、そうではないことが分かった。パソコンの創世記などでは、いかに貧弱なパソコンであっても、人々が飛びついたのとは比べ物にならない。単純な紙の置き換えでは魅力は少ないと思われる。
また漠然とした電子出版コンソーシアムは成り立ち難いことも分かった。電子出版に積極的であったが故に、このコンソーシアムには参加しなかった出版社がいくつもあった。当然出版社各社の思惑はそれぞれの分野やコンテンツに応じて異なる。文字中心のところもあれば、画像中心のところもある。電子コンテンツの面白さを引出そうとすると、皆の意見を足して割ったような合意では不満が残ろう。
すでに青空文庫のように定着した電子出版もある。このことから電子出版は従来の書店や取次を通した一枚岩(実際は二枚岩か?)のシステムではなく、内容に応じて多様化しながら進んでいくのではないかと思わせられる。特にインターネットを使った受注や配信や決済は、出版社自身のコントロールを容易にし、読者の側からも検索が容易になるという点で、駅前の書店などでは手に入り難い情報には向いていると考えられる。
ただ個々の出版社がこの方式に乗り出すときの最大の問題は著作権処理と決済システムである。本来通産省がこのコンソーシアム対象に補助金を出した理由は、電子商取引の実証実験をするためではなかったのか。実は商取引のプロトコルや著作権処理については実験を行わなかったので、この問題は先延ばしにされてしまった。
しかし時代は通産省に補助金をだしてもらわなくても、出版業界が著作権や決済で困っているならば、その機能を提供する民間業者がでてくる方向にある。新聞の論調では電子書籍配信は「まだ遠い」「課題山積み」という書き方が多い。それは悲観的すぎる。まだ電子配信が始まるきっかけが何になるかわからないが、killerアプリケーションさえ出れば、一挙にさまざまなコンテンツが噴き出すように時代が近づいているように感じる。
2000/04/17 00:00:00