本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

デジタルカメラに求められる特性

「プロフェッショナルデジタルフォトへの誘い」 その3

 解像力には,レンズの解像力と感光材料の解像力がある。銀塩写真では,白黒の等間隔パターンが1mmの中に何本識別できるかを解像力として表すが,これはデジタルカメラでは解像度に相当する。最終的に得られる画像の解像度は,撮影レンズと受光部の解像度で決まってくる。

レンズの解像力

 レンズの解像力は理論値がわかっていて,有効fナンバー(絞り値)に反比例している。下表は理想レンズの解像力であるが,これからわかるように,絞りを開けたほうがレンズの解像力は高くなる。レンズを絞ったほうがシャープに撮れるように見えるが,これは焦点深度が深くなる(ピントの合う範囲が拡大する)ために,奥行きのある画面でも広い範囲にわたってピントが合うためであり,間違えやすい。

理想レンズの解像力(本/mm)
有効 f ナンバー 光の波長(nm)
 450(Bv)   550(G)   650(R) 
1.0 1821 1490 1261
1.4 1301 1065 901
2.0 911 745 631
2.8 651 532 450
4 455 373 315
5.6 325 266 225
8 228 186 158
11 166 135 115
16 114 93 79
22 83 68 57
32 57 47 39
45 40 33 28
64 28 23 20
90 20 17 14
128 14 12 10

 しかし実際のレンズでは,理想解像力に近い画像が得られるのはレンズ光軸付近であり,周辺部はレンズの5収差(球面収差,コマ収差,非点収差,歪曲収差,ディストーション)と色収差のために,多少のビンボケ状態が起きる。この欠点を減少させるため,絞りを開放から2〜3段階絞って使用することで,レンズは性能を最大限発揮できる。
 また,レンズを2〜3段絞ることは,もうひとつ,ケラレの防止効果がある。実際のレンズは,複数のレンズをある長さの鏡胴に組み込んであるため,画角の周辺部は鏡胴の前後の縁で光が遮られて(ケラレ),光量が低下する。2〜3段階絞ることで,周辺光量の低下を軽減できる。

 カメラバックタイプのデジタルカメラでは,銀塩フィルム用のカメラのフィルム位置にCCDを置いて,デジタルカメラとして使用する。しかし,一般的にフィルムサイズよりCCD受光面がかなり小さくなるので,銀塩フィルム撮影に比べて,同じ焦点距離のレンズでは,フィルムより画角が狭くなり,望遠効果が出てしまう。通常,フィルム用の広角レンズがCCDでは標準レンズになるので,CCD撮影で広角撮影したくても,使用できるレンズがないという事態が起きることがある。

 さらに細かい点に注目すると,カラーフィルムはCMYの発色層が積層されているので,フィルム用レンズのピント面はRGBが同一面にはなっておらず,フィルムの各積層面にピントが合うように設計されている。しかしCCDの受光面は同一面なので,デジタルカメラ用のレンズとフィルム撮影用レンズでは,ピント面の設計が違う。テレビカメラ用のTV仕様レンズのように,専用レンズが普及することが求められる。

CCDの解像度

 デジタルカメラは,フィルムの解像力と比較してどの程度になっているのだろうか。35mmカメラの標準レンズで,コダクロームに撮影した時の解像力は90本/mm程度といわれている。これは1mm幅の90本の黒線と91本の白線,つまり181個の画素を区別できるということである。35mmのコダクローム1コマに2830万画素が記録されることになり,これをCCDで実現するには,6516×4344画素が必要になる。
 従って,600万画素クラスのデジタルカメラといっても,昔あった110型ポケットカメラの画像記録密度と変わらない。

階調

 デジタルカメラは実際の被写体を撮影するので,スキャナと同じくデンシティレンジが重要である。スキャナでは,リバーサルフィルムの画像記録領域である3.0以上のレンジが必要であったが,デジタルカメラでは通常の被写体輝度域,LogE=2.4(輝度比250:1)以上を記録できれば良い。スキャナより値が小さくて済むのは,リバーサルフィルムはγ=1.3程度で使用されるためであり,大き目のデンシティレンジが必要になる。デンシティレンジ=2.4という数字は,デジタルカメラの仕様からみると十分カバーできるように思える。しかし,個々のカメラでは,CCDの特性である暗電流によるシャドーのノイズ領域に入り込んで,広めのデンシティレンジ値を発表している製品も多いので,実写で確認する必要がある。

ホワイトバランス

 リバーサルカラーフィルムでは撮影光源に合わせて,デイライトタイプ(照明の色温度6000K)と,タングステンタイプ(照明の色温度3200K)の2タイプがある。デジタルカメラでは,カメラ自体で照明光の色温度を計測するセンサをもっていて,照明の色温度が変化しても,白い物は白く撮影できるようになっている。しかし,ホワイトバランスを自動セットする機能では,朝日や夕日のシーンでも空が赤くならないので,いくつかの固定モードをもつことが多い。さらに細かくホワイトバランスをとるために,白紙を撮影してホワイトバランスをセットする,白セット機能をもつカメラもある。

35mm判換算値

 フィルム用小型カメラで主流の35mmカメラの交換レンズは,標準レンズが40〜50mm近辺,広角レンズが28〜35mm,準望遠レンズは85〜135mm,望遠レンズは200mm以上など,一般的に理解されている。しかし,デジタルカメラのCCDセンササイズにはいろいろなサイズがあるため,レンズの焦点距離を聞いただけではどの程度の画角のレンズか,ピンとこない。従って,小型のデジタルカメラでは,実際のレンズの焦点距離とともに,35mm判換算値を表示している。

撮影/利用分野

 デジタルカメラはこのようにプロ用,アマチュア用ともに大幅に性能が向上しており,今後は各種のデジタルカメラで撮影されたデータが製版工程にもち込まれることになる。こうなるとCMS(カラーマネジメントシステム)が重要になる。
 スキャナと違って,撮影時の照明条件(色温度や演色性)を一定に保つのが難しいデジタルカメラでは,撮影時の照明条件を正確に把握してICCプロファイルを作成するため,IT8のようなカラーチャートを同時に撮影してくる必要がある。しかし,これが困難な撮影済みのデジタルカメラデータの場合は,カメラ自体の自動ホワイトバランス機能の充実に期待するしかない。
 いずれにしても,印刷側では早く受け入れ態勢を準備しておくことが必要だろう。

この記事のシリーズ

その1 プロ用とアマ用デジカメの違い

その2 プロ用デジカメの機構/方式

その3 デジタルカメラに求められる特性

2000/05/03 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会