動向・経過
コンシューマ用デジタルカメラの画素数が急速に増大している。25万画素から始まったデジタルカメラは38〜85万画素になったと思ったら,1999年に100〜150万画素のメガピクセルになり,2000年はついに数メガピクセル(300〜600万)での競争になった。
ソニーは対角線8.93mmの334万画素CCDを開発し,デジタルカメラ各社が採用し始めた。1月31日に富士フイルムから発表されたFinePix4700Zは,スーパーCCDハニカムという8角形セルにより(図1),423万画素(2400×1800画素)を実現し,12万8000円で発売された。同じくS1 Proという613万画素(3024×2016画素)のカメラは,ISO1600相当と高い感度を持つニコンFマウント対応の一眼レフタイプとして6月に発売される。
プロ向けのデジタルカメラとしては,主に報道写真用途としてニコンやキヤノンの35mm一眼レフにカメラバック式CCDユニットを組み込んだ,コダックのDCSシリーズが有名である。スタジオ用途では,3ショットタイプのサイテックス/リーフのDigital Camera backやメガビジョンT2が,初期ユーザによって意欲的に使われてきた。
プロ用とアマチュア用の違いとは
アマチュア用途でも,334万画素や423万画素のデジタルカメラが10万円前後で売り出されてきた。画素数でみるとプロ用を凌駕しはじめていて,しかも大幅に安い。では,プロ用カメラの存在意義はどこにあるのだろう。
そこで35mmタイプのコダック「DCSシリーズ」と,中型カメラ用のダイコメッド「ビッグショット4000」などで,プロ仕様カメラをみてみよう。
35ミリタイプ コダック「DCSシリーズ」
コダックが一眼レフをプラットフォームに開発した,プロ仕様のデジタルカメラである。最上位モデルのDCS660はニコンF5をベースに,600万画素(3040×2008画素),受光エリア27.6×18.4mm(短辺長は35ミリフィルム相当)の大サイズCCDを採用することによって,レンズの焦点距離が35ミリ換算でわずか1.3倍に収まっている。新たに開発されたCCDは,表面素材をポリシリコンからITO(Indium Tin Oxide)に変更することで,短波長域(青)感度を従来比2.5倍と大幅に改善している。キヤノンEOS-1Nに同じ600万画素CCDを搭載したモデルがDCS560であり,感度はともにISO80〜200相当である。
200万画素クラスも同様に,ニコンF5ベースのDCS620と,キヤノンEOS-1NベースのDCS520があり,受光エリアは22.8×15.5mm(1728×1152画素),感度はISO200〜1600相当である。
また,300万画素クラスのDCSには,ニコンFマウントに対応するDCS330があり,受光エリアは18.1×13.5mm(2008×1504画素)である。
昨今は低価格の300万画素クラスデジタルカメラが各種発売されているが,ほとんどがJPEGなどの非可逆圧縮方式であるのに対し,DCSシリーズはすべてRAWデータ(CCDが受光した生データ)で記録される。この方式はカメラ内のプログラムで勝手な演算処理をしないため,様々な印刷環境や表現意図に応じた最適なCMYKデータを導きやすく,画像処理工程での画質の劣化を抑えられ,高品位印刷のためのには最適なファイル形式と言える。
また,DCSシリーズは脱着式のアンチエイリアスフィルタの採用で,偽色やモアレを効果的に防止でき,後処理工程の生産性を大幅に向上できる。
中判以上のカメラバックタイプ「ビッグショット・4000」など
ダイコメッド社の BigShot4000はロッキード社が開発した1670万画素(4096×4096),60×60mmの超ビッグサイズCCDを持つ,カメラバック方式のデジタルカメラだ。1ショットでフルカラー撮影ができ,RGB各色12ビットモードでファイルサイズは96MBになるが,カメラバックからメモリへの転送時間は10秒程度と速い。
サイテックス社のリーフ・ボナーレカメラは,フィリップス製の629万画素(2048×3072),受光エリア36×24mmのビルディングブロック構成によるFT方式CCDを採用したワンショット型で,ビューカメラから中判のハッセルブラッドなどに,カメラバック方式で使用される。ペルチェ素子でCCD冷却を行い,シャドーノイズの原因である暗電流抑制を行っているのはリーフの伝統である。また,オプションの液晶シャッタでライブプレビューも可能で,背面のレボルビングレバーで縦横切り替えられる。Jonoptic Laser Optic社のeyelikeMFも,ペルチェ素子冷却の24×36mm(2048×3072)CCDを持ち,毎秒9フレームのライブプレビュー機能を持つカメラバック型である。
機構/方式
画像センサに利用されるCCDは,平面型のエリアセンサ方式と,小型スキャナのように走査するラインセンサ方式がある。また,色分解フィルタの使い方によって,単板式,3板式,ワンショット,3ショットなどの各方式がある。
コンシューマ用途のデジタルカメラはすべて単板式で,CCDの表面に3色の色分解フィルタをもっている。一方,プロ用のデジタルカメラは用途によって,方式が使い分けられている。ワンショット型は単板式と3板式の2方式がある。
特徴
@単板CCD式
1枚のCCD受光部をもつカメラで,ワンショット撮影による動きのある被写体でも撮影ができる(図2)。しかしエリアセンサであるため,実用カメラでは最大画素数はCCD方式で600万画素,フィリップス社のFT方式で1000万画素程度である(天体望遠鏡用では同社が6600万画素のCCDを製作)。解像度を得るためにRGBやCMYGの各画像を演算に利用するので,特に宝石などの撮影では,拡大すると細かなキャッチライトに疑色やモアレが見える。
A3板CCD方式
RGBおのおのに専用のCCDを用いており,ワンショット撮影ができる。しかし,CCD前面に色分解を行うダイクロックミラーのブロックを置くので,長いカメラバックを必要とし,短焦点レンズは一眼レフ用広角レンズと同じく,レトロフォーカス設計が必要になる。また,CCD前面が幅の狭い光路になるため,ビューカメラ(蛇腹方式のカメラ)などで行うアオリ撮影ができないなど,使用に制約がある。しかし疑色は原理的に起こらない(図3)。オリンパスが開発している420万画素のCMDを3枚用いたSHD-S2が,これに当たる。
Bマルチショットタイプ
1枚のモノクロCCDと,外付けのRGBフィルタで,RGB各1回ずつ,時間間隔をおいて撮影するタイプである(図4)。リーフ・ボラーレやジナーバックのように,大きなフィルタターレットを撮影レンズの前で回転させるものと,メガビジョンT2のように,カメラバックメカの中で切り換える方式がある。動く被写体の撮影はできないが,単版式のように疑色の心配がなくCCD直前までレンズが近づけるので,中判以上のカメラバックとして利用される。
Cスキャニングタイプ
ラインセンサ型のCCDを用いて,カメラバック内でスキャニングする方式である(図5)。長露光時間が必要で,動く被写体の撮影はできない。床面がしっかりして振動を伝えないスタジオ向きではあるが,中判以上のスタジオカメラバックに使用して,最も高解像度を得ることができる。4×5インチカメラ用のPhaseOne製PowerPhaseFXは,実に1億3230万画素(1万500×1万2600)でキャプチャできる。
デジタルカメラに求められる特性
解像力には,レンズの解像力と感光材料の解像力がある。銀塩写真では,白黒の等間隔パターンが1mmの中に何本識別できるかを解像力として表すが,これはデジタルカメラでは解像度に相当する。最終的に得られる画像の解像度は,撮影レンズと受光部の解像力で決まってくる。
レンズの解像力
レンズの解像力は理論値がわかっていて,有効fナンバー(絞り値)に反比例している。下の表は理想レンズの解像力であるが,これから理解できるように,絞りを開けたほうがレンズの解像力は高くなる。レンズを絞ったほうがシャープに撮れるように見えるが,これは焦点深度が深くなる(ピントの合う範囲が前後方向に拡大する)ことによって,奥行きのある画面でも広い範囲にわたってピントが合うためであり,解像力は低下しているのだ。
しかし実際のレンズでは,理想解像力に近い画像が得られるのはレンズ光軸付近であり,周辺部はレンズの5収差(球面収差,コマ収差,非点収差,歪曲収差,ディストーション)と色収差のために,多少のビンボケ状態が起きる。この欠点を減少させるため,実用上は絞りを開放から2〜3段階絞って使用することで,レンズ性能を最大限発揮できる。
また,レンズを2〜3段絞ることは,もうひとつ,ケラレの防止効果がある。実際のレンズは,複数のレンズをある長さの鏡胴に組み込んであるため,画角の周辺部は鏡胴の前後の縁で光が遮られて(ケラレ),光量が低下する。2〜3段階絞ることで,周辺光量の低下を軽減できる。
カメラバックタイプのデジタルカメラでは,銀塩フィルム用のカメラのフィルム位置にCCDを置いて,デジタルカメラとして使用する。しかし,一般的にフィルムサイズよりCCD受光面がかなり小さくなるので,銀塩フィルム撮影に比べて,同じ焦点距離のレンズではフィルム撮影より画角が狭くなり,望遠効果が出てしまう。通常,フィルム用の広角レンズがCCDでは標準レンズになるので,CCD撮影で広角撮影したくても,使用できるレンズがないという事態が起きることがある。
さらに細かい点に注目すると,カラーフィルムはCMYの発色層が積層されているので,フィルム用レンズのピント面はRGBが同一面にはなっておらず,フィルムの各積層面にピントが合うように設計されている。しかしCCDの受光面は同一面なので,デジタルカメラ用のレンズとフィルム撮影用レンズでは,ピント面の設計が違う。テレビカメラ用のTV仕様レンズのように,デジタルカメラには専用レンズが普及することが求められる。
フィルムとCCDの解像度
デジタルカメラは,フィルムの解像力と比較してどの程度になっているのだろうか。35mmカメラの標準レンズで,コダクロームに撮影した時の解像力は90本/mm程度といわれている。これは1mm幅に90本の黒線と91本の白線,つまり181個の画素を区別できるということである。35mmのコダクローム1コマ(36×24mm)に2830万画素が記録されることになり,これをCCDで実現するには,6516×4344画素が必要になる。
従って,600万画素のデジタルカメラといっても,昔あった110型ポケットカメラにコダクロームを組み合わせた画像記録密度と同等となる。
階調とシャドーノイズ
デジタルカメラは実際の被写体を撮影するので,スキャナと同じくデンシティレンジが重要である。スキャナでは,リバーサルフィルムの画像記録領域である3.0以上のレンジが必要であったが,デジタルカメラでは通常の被写体輝度域,LogE=2.4(輝度比250:1)以上を記録できれば良い。リバーサルフィルムはγ=1.3程度で使用されるため,スキャナでは大き目のデンシティレンジが必要になる。デンシティレンジ=2.4という数字は,デジタルカメラの仕様書からみると十分カバーできるカメラが多いように思える。しかし,個々のカメラでは,CCDの特性である暗電流によるシャドーのノイズ領域に入り込んで,広めのデンシティレンジ値を発表する製品も多い。スローシャターも暗電流を増加させるので,ぜひとも実写で確認したい。
暗電流の発生は半導体の宿命であり,フィルムには無いCCD独特の特性である。症状はシャドー部の荒れになるので,カメラマンははじめは戸惑う。最も有効な対策は,CCDの裏面にペルチェ素子を置いて冷却することで,リーフでは0℃に冷やしているが,特殊な用途としては,天体望遠鏡用のCCDではマイナス60℃にまで冷却して,ノイズを極限まで減少させる対策が取られている。
ホワイトバランス
リバーサルカラーフィルムでは撮影光源に合わせて,デイライトタイプ(照明の色温度6000K)と,タングステンタイプ(照明の色温度3200K)の2タイプがある。デジタルカメラでは,カメラ自体で照明光の色温度を計測するセンサをもっていて,照明の色温度が変化しても,白い物は白く撮影できるようになっている。このホワイトバランス機能の自動セットだけでは,朝日や夕日のシーンで空が赤くならないことがあるので,いくつかの固定モードをもつ機種が多い。さらに細かくホワイトバランスをとるために,白紙を撮影してホワイトバランスをセットする,白セット機能をもつカメラもある。
35mm判換算値
フィルム用小型カメラで主流の35mmカメラ用交換レンズの焦点距離は,標準レンズが40〜60mm近辺,広角レンズが28〜35mm,準望遠レンズは85〜135mm,望遠レンズは200mm以上などが一般的な理解であろう。しかし,デジタルカメラのCCDセンサにはいろいろなサイズがあるため,レンズの焦点距離を聞いただけではどの程度の画角のレンズか,ピンとこない。従って,小型デジタルカメラでは,実際のレンズの焦点距離とともに,35mm判換算値を表示している。
撮影/利用分野
デジタルカメラはこのようにプロ用,アマチュア用ともに大幅に性能が向上しており,今後は各種のデジタルカメラで撮影されたデータが製版工程にもち込まれることになる。こうなるとCMS(カラーマネジメントシステム)が重要になる。
スキャナと違って,撮影時の照明条件(色温度や演色性)を一定に保つのが難しいデジタルカメラでは,照明条件を正確に把握してICCプロファイルを作成するため,IT8のようなカラーチャートを同時に撮影してくる必要がある。しかし,これが困難な撮影済みのデジタルカメラデータの場合は,カメラ自体の自動ホワイトバランス機能の充実に期待するしかない。
いずれにしても,印刷側では早く受け入れ態勢を準備しておくことが必要だろう。
月刊プリンターズサークル 2000年4月号より
2000/05/19 00:00:00