DTP豆知識(20003)
本コーナーでは,DTPエキスパートを目指すうえで理解しておきたいことを模擬試験形式で解説します。JAGAT認証DTPエキスパート
福原節寿氏に,問題のポイントや重要点を解説していただきます。試験勉強のご参考に,またはDTPに必要な知識の確認にご活用ください。
次回,第14期DTPエキスパート認証試験は2000年8月20日に行われます。詳細はDTPエキスパートのページをご覧ください。
さて今回は,前回に引き続き課題作成のテーマに沿って,「制作ガイド」について解説していきたい。多分,実務上における工程のなかでは,このようなものはあまり存在しないので,具体的に想像しにくいであろう。
制作ガイドの目的である,自分の意図したことを他人に伝達するということは,あらゆる仕事の上で必須かつ重要なことであり,このことは誰もが認識している。しかし,実際行ってみるとなかなか難しい。この機会に,その難しさを認識するのも重要なことであると筆者は考える(とはいっても,合格することが第一目標であるが)。
制作ガイドとは
課題作成全体概要および作品制作におけるポイントについては,前号で解説したので理解していただいたと思う。
さて,今回解説する制作ガイドとはどのようなものであろうか。課題作成の趣旨にもあるように,「正しい作り方を第三者に指示できるか」を念頭に話を進めていきたい。
もの作りを第三者に依頼する場合,必ず設計図(書)の類が必要になる。この課題作成においても,制作ガイドは作品の制作を第三者に依頼するための指示書であることは理解できる。ただし単なる指示書ではなく,手引きにあるような要件(例えば,複数の人が同じ情報を共有化して,大量のページを効率良く処理していくなど)の条件設定も満たされていなければならない。
こうした背景を踏まえて,制作ガイドの意味合いを理解してもらいたい。
制作ガイドの留意点・項目概要
1. 手引きの要件も満たすこと
制作した作品のみの制作手順だけにとどまらず,手引きにある要件(例えば分業化,毎回の改訂用,複数ページの効率の良い処理)を満たしていること。
どのように作業をするのか明確にすること。
2. 整合性・再現性
実際に作品との整合性がとれて,必ず同じ作品が再現できなければならない。
配置,サイズ,使用フォントなど,再現に必要項目が明記されていることはもとより,整合性がとれていること。
コンセプトにも同様のことがいえる(作品と制作ガイドを照らし合わせてチェックが行われる)。
3. 読みやすさ
ビジネス文書であることを前提に図や表を活用し,読みやすく理解しやすい内容で,相手にわかりやすくすることが重要(チェックするのも人間)。また,制作ガイドの意味合いから,詳細に渡り,細かいオペレーションが必要なのかどうか考えること。
以上を踏まえた上で,制作ガイド上での必要最低限の項目には何があるかを,下記に参考項目として挙げてみる。
●制作の基本方針
手引書の要件を満たす制作の仕組み,コンセプト,制作意図は,何か。自分の作品・フローの特長は何か。
例えば,シリーズ化と分業のための標準化と効率化を図るとしたら,どのような方針,仕組みあるいはデザインを提案すればよいか。
●制作手順
どのように作業をするのか。データの受け渡しから納期,制作最終納品の仕様などの実際に基づくスケジュール
●制作環境
ハード,ソフト,ネットワーク,制作のフローチャート
●作業上の設定の詳細
当然,この項目がないと実際の制作ができないし,さらには必ず作品が再現できることが必要となる。ただし,解説書,マニュアルなどとは異なるので,単なるコマンドレベルの記述などが必要であるかは判断してもらいたい。
チェック項目詳細(一例)
おおよそのチェック項目を挙げるので,意識しながら作品を制作し,最後の照らし合わせにでも活用してもらえれば幸いである。
ただし以下の項目は,必要十分条件ではないので,各自の課題の状況に応じて,必要であるかどうかは適時考えてほしい。
●制作ガイドとしての読みやすさ(ビジネス文書として)
□手書きは避ける □項目の妥当性,順序立て □だらだら長い説明文は避ける □作品の再現性の確実さ □図表の活用 □作品,コンセプトとの整合性
●制作の意図(あるいは手引きの要件)を他人に伝える記述はあるか
□制作の意図(あるいは手引きの要件) □仕事の位置づけ □コンセプト,デザインの条件
●入稿から納品に至るワークフローの記述
□スケジュール □データの受け渡し □支給データの管理 □画像データの入力管理方法 □レイアウト作業方法 □校正 □出力条件 □印刷条件
●作業環境
□機種(必要なスペック) □OS □その他機材(必要に応じてモニタ,MOドライブなど) □アプリケーション □フォント
□作業向上のための仕組み(例:ネットワーク環境,データベース,OPIなど)
●製版,印刷に関わる指示
□版型 □色指示 □トンボ □塗り足し
●レイアウトに関わる指示
□マスターページの記述 □レイヤーの活用 □ボックス,パーツの配置位置,サイズ,
□貼り込み画像名,イラスト名,倍率
●文字組みに関わる指示
□スタイル定義 □スタイルのあてはめ □使用フォント □サイズ □行そろえ □行送り □詰め □文字色(ノセ)□約物の処理 □欧文の処理
●図版に関する指示
・チント・罫線
□位置,サイズ,幅,網%など
・画像
□ボックスの位置,サイズ,トリミング
□ファイルフォーマット □画像モード □解像度
・地図・ロゴ・表組み
□指示による再現の可,不可(色指示,文字関連,サイズなど)
□可読性
□ファイルフォーマット
●その他
□自分の作品での特記事項,PRポイント
ワンポイントアドバイス
●手引き書の熟読
制作物同様,趣旨,要件をよく理解しないと思わぬ減点に。書き足らないことはないか。
●第三者が再現できるのか
制作ガイドだけを渡して,ほんとうに作品と同じものができるのか。
他人に見せてみるとともに,受け取り手の立場になって考えてみる。
●正解はいくつでもある。
表記方法はいくつでもある。あくまでも自分のオリジナリティを出すように心がけること。
●指定講座を受講
お金と時間に余裕のある人には,お勧め。必ずそれなりの指導は受けられる。
他人の作品・考え方などと比較することができる。ただし,コピーは厳禁。
配置での表現方法例
下図は,課題Bの素材をもとに,A4の紙面(想定)に画像を配置してみたものである。さて,これを第三者に同じように再現させるためには,どのような表現の方法があるか考えてみよう。なお,罫線はアタリ罫で,版型と画像ボックスを表している。
表現方法例
配置・サイズ
・レイアウト図を表記し,座標・サイズで表記する。
・文章で表記(例 左上仕上り原点を(0,0)として,サイズX,Yの画像ボックスを紙面中央に配置し……。)
・アプリケーションのキャプチャーを利用(例 メジャーパレットで示す)
・トリミング
・オリジナルのサイズ,画像ボックスサイズ,画像オフセットの数値を表記v
・ラフでアタリを表記
・文章で表記(例:市庁舎を中央に配置し全体が切れないようにし,噴水は……。)
・キャプチャーを利用(例:オリジナル全体の上に画像ボックスを白枠などで示す。)
図1
以上,画像の配置ひとつとっても,いろいろな表記方法が考えられる。どのような表記方法が最も第三者に伝えやすいか,各人で考えてもらいたい。
これまでの提出された課題では,とかく安易な方法をとるのものが多々見受けられた。自己本位な表現にならないように気をつけたい。
(出典:
月刊プリンターズサークル連載 2000年3月号記事より)
2000/07/10 00:00:00