テープ式自動モノタイプが開発され、1950年代中頃に新聞社や大手印刷企業に導入され 文選作業の機械化に寄与したことは前回述べた。しかしその構造上の欠陥から意外な問題 が発生した。
すべての機種が同じとはいえないが、初期の自動モノタイプについての共通の弱点は、 文字品質の問題である。つまり文字の「寄り引き」不良である。寄り引きとは文字の並び のことをいい、寄り引き不良とは縦組み・横組みにおける文字の並びが悪いことを意味している。寄り引きの詳細については、当サイト「玉手箱」のバックナンバー2000年3月5日/3月19日号の「和文フォントデザインの基本(2)/(3)」の解説を参照されたい。
キャスタ(鋳植機)の機構は、母型庫が油圧式で機械的に左右移動および回転するメカ ニズムのため、母型庫が停止して鋳造する瞬間に母型が鋳型に接する位置が安定しないと いう問題がある。開発コンセプトはユニークであったが、母型が特殊形状であることや、 母型を母型庫シリンダにセットする装置の問題などが、文字の位置不良の原因となり、寄り引き不良を起こすわけである。
このような寄り引き不良の状態で初校ゲラを出校したため、出版社などからモノタイプ 組版は反発を受けた。また別な理由として、漢字キーボードの盤面文字数に制約があるた め、ゲタ(欠字)が多いことであった。これらの問題は基本的な問題であり、メーカーと しても解決策がなかなか見出せなかった。
といって手拾いに戻ることはできない。そこで対策として、内校正をして寄り引き不良 の活字やゲタに赤字を入れ、文選で活字を拾い差替えて初校ゲラを出校するという姑息な 手段を講じた。
したがって自動モノタイプにより文選工程の機械化、自動化を図ったものの、かえって 手間と時間がかかるという状態が続いた。しかし効用もあった。つまり内校正をするので 誤字・脱字などの誤植がないことである。
旧体質の組版部門では、新技術の自動モノタイプに反感をもち冷ややかに見ていたので、 内校正の赤字を文選で拾うことに対して非協力的であざ笑うなど、社内と得意先からの反 発という内憂外患の苦難の道が続いた。
しかし自動モノタイプが安定した1962年頃に、自動モノタイプ・システムと通信回線を使った画期的な組版システムが開発された。東洋経済新報社と大日本印刷が共同開発した「リモート・コントロール(遠隔操作)組版システム」であり、週刊東洋経済の組版に用いられた。
漢字キーボードは東洋経済新報社に設置し、そこで入力した鑽孔テープをテープ送信装 置にかけると、大日本印刷側に設置してあるテープ受信装置に鑽孔テープが受信される。 このテープをキャスタにかけると鋳植した棒組みができ、これを植字工程に送り組版がで き上がる。
この漢字キーボードはインパクトプリンタつきで、入力した文字をプリントアウトできる機構になっている。これをゲラ刷りとして、東洋経済の編集者が文字校正を行う。この赤字が入ったゲラ刷りと組版指定書をFAXで大日本印刷の工場側に送信する。この赤字は手拾いで差替えるが、これは現代のパソコン通信で文字データを送り、組版処理を行う方法の始まりといえる(つづく)。
他記事参照:DTP玉手箱
2001/05/12 00:00:00