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印刷物の作り方から,印刷のトラブル,印刷関連団体・企業に関連して頻繁にJAGATにお問い合わせをいただく質問とその回答を紹介しています.
■ 知的財産権 Qある作家の小説を独占的に出版したい。他の出版社から同じ小説を出させないためにはどうしたらいいでしょうか。 A作家が、自己の著作物を複製・販売させることを一社の出版社に許諾すれば、他社はもはや同じ小説を出版できないということはないです。一つの小説が、同時に複数の出版社から販売されることもあり得るということです。 そこで、出版社としてどうしても独占的に出版したいならば、その作家と特別な契約を交わす必要があります。通常は、作家から排他独占的に出版する権利を付与してもらう契約を結びます。これを「出版権の設定」といっています。具体的には、「甲(著作権者)は、表記の著作物の出版権を乙(出版者)に設定する」といった契約になります。 この契約は、あくまで当事者間での特約であって、第三者に対抗するためには文化庁に登録しなければなりません。 文化庁への登録は、出版権者である出版社が登録権者となり、複製権者である著作者が登録義務者となっての共同申請になります。存続期間に特約がなければ、その出版権は3年で消滅します。 登録の効果として、出版社には@原稿の引渡しを受けた日から6ヶ月以内に出版しなければならない、A継続して出版する、B重版の際には著者へ告知する、などの義務が生じます。また、著作者には、出版社が改めて複製するときには、正当な範囲内でその著作物に修正・増減を加えることができる、などの権利が留保されています。 Q繁華街や駅構内などの公開の場所で往来する群集を撮影した場合、この写真を自由に使っていいのでしょうか。新聞などの報道用に使用する場合と、広告・チラシ等に使用する場合に分けて教えてください。 A新聞などで、公園で子供が遊んでいる風景や、休み明けのサラリーマンの出勤風景など人々の肖像写真が掲載されている場合でも、「何人も、その承諾なしにみだりにその容貌・姿態を撮影されない自由を有するものというべきである」という最高裁の判例があります。ですから、たとえ「報道」でも不特定多数の人を撮影して、記事として掲載することが許されるというわけでもないということです。 もし、写真を撮られて新聞に載ってしまった人が、不利益を被る場合は、その人は新聞社へ抗議するでしょう。 しかし、人にみられたくない場面が撮影されるケース以外は、大勢の人はそれが「報道」であることを知っているので、やむを得ない思っていることが多いでしょう。 上記のように人は、自己の肖像についての人格的利益をもっているのですが、もう一方経済的利益をももっています。前者は、意に反して、自己の肖像を撮影・公表されない権利(プライバシーの権利)ですが、後者は撮影・公表はよいが、無断・無報酬は困るという権利です。 出勤風景などを広告に使う場合に、もし掲載後のクレームに対して手を打つとすると、被写体にエキストラを使うか、事前に許諾を得たり相応の報酬を払うなどするのがよいでしょう。これは、広告が報道と違って「営利性」を直截的に標榜していることと、こうした営利的メッセージに関与した人に対して報酬が支払われているという事実を知っているからです。 Q市販されている有名芸能人のプロマイドを、ユーザーがパンフレットに使いたいと言い出した。無断で使ってもいいものなのでしょうか。 A市販のプロマイドを購入するとそれは自分のものになります。自分のものですから、破っても、捨てても、他人にあげても、それは個人の自由です。 しかし、プロマイドの被写体となっている芸能人の肖像を複製して他の目的に使うことは別問題です。 プロマイド自体は、買った人のものですが、その中に表現されている被写体は紙などの物と違っていわば「無体」のものです。それで、こういう著作物についての著作者の権利を「無体財産権」といっています。 たとえば、小説家が、自己の作品を公表して経済的利益を受けると同じように、芸能人も自己の「無体財産権」である肖像権が利用されて経済的利益を生むことを知っています。ですから、自己の肖像権を無断かつ無報酬で使われると、肖像権を侵害されることになります。 ユーザーが自己の営業上の利益のために芸能人の肖像を使うのは、その芸能人をして店や商品の推奨に役立てたことを意味します。芸能人の肖像は、それだけで消費者の注目を惹き、顧客吸引力をもっているからです。 したがって、広告主が契約金を払って、芸能人と専属契約を結び、コマーシャルの出演してもらっています。こうした事情を無視して第三者が芸能人の肖像を無断で使うと、その芸能人の得べかりし利益を奪うことになり、損害賠償を請求されることもありますので、気をつけましょう。 Q著作権がないものがあるそうですが、どういうものに著作権がないのでしょうか。 A著作権法では、著作権が発生しないものを明確に決めています。 第一に著作権法10条2項で、事実の伝達にすぎない雑報と時事の報道は著作物に該当しないとしています。これは、ニュースのことで5W1Hだけで書いた記者や放送局のアナウンサーの思想または感情が創作的に表現されていないものをいいます。 第二に著作権法13条で、1.憲法その他の法令、2.国または地方公共団体の機関が発する告示・訓令・通達など、3.裁判所の判決・決定・命令・審判、行政庁の裁決・決定で裁判に準ずる手続きで行われたもの、4.上記3種の翻訳物・編集物で国または地方公共団体の機関がつくったものは、著作権の目的とすることができないとしています。 したがって、上記以外の物には著作権が発生しておりますので、イラスト、写真、文章そのほか、他人が創作的に表現したと思われるものを流用する場合は、必ず関係者の許諾・確認をする必要があります。 但し、著作権は無期限に保護されるものではなく、文化的所産を開放し、文化の発展を期待する趣旨から保護期間が定められています。(法51〜58条) 保護期間は原則として著作物を創作した時から始まり、著作者の生存間およびその死後50年間です。(法51条) Q1万円札を2倍の大きさにスキャニングして、ポスターの中に印刷したいが、許されることなのでしょうか。 A大蔵省は、通貨のデザインを広告物に使用することについて「一切使用を慎むよう」指導しています。 『大蔵省理財局国庫課長通達 「通貨の写真版、模写を広告に使用することについて」S51.10.2 標記のことについて、最近通貨の写真版、模写を広告に使用する事例が多発しております。当課では紙幣の写真版、模写をそのままの形または変形した形で広告に使用することは、通貨及証券模造取締法に触れることとなるおそれがあり、また通貨尊厳の観点から好ましくないとの考えから一切それを慎むように指導しております。 また、臨時補助貨幣についても使い方によって問題が生ずるおそれがあるので、その使用を差し控えるよう指導しております。 最近の事例の多発はコピー等複写機の発達にも原因があると思われますが、この種の広告は業者に依頼される場合が多いと考えられますので、前記の趣旨をご理解の上、業界に対する周知徹底の方宜しくお取り計らい願います。』 場合によっては、刑法の通貨偽造罪・通貨及証券模造取締法違反になります。 以上のことから、たとえ通貨をスキャニングしてポスター用に印刷したり、偽造・変造等と誤解されるような、紛らわしい行為はしてはいけないということです。 Qいろいろな人の著作物の全部若しくは一部を利用して印刷物の企画提案や商品企画する場合、法律上の確認事項としてどのようなものがありますか。 A他人の著作物を利用して、企画提案や商品企画を行う場合には、その著作物についての著作権チェックと必要な著作権処理を事前におこなわなければなりません。 著作権処理には、著作権者からの著作権の譲り受け、著作権者からの著作権利用許諾、著作権者不明等の場合の文化庁長官の裁定による利用があります。 1. 著作権者からの著作権の譲り受けの場合 著作権は、その全部または一部を譲渡することができます(61条1項)。したがって、利用しようと思っている著作物の著作権を、著作権者から譲り受けることによって著作権処理をすることができます。 もっとも、著作権者が著作権を譲渡するか否かは条件次第です。当事者の話し合いで決めるべきでしょう。 2. 著作権者からの著作権利用許諾の場合 著作権者は他人に対し、その著作物の利用を許諾することができ(63条1項)、利用方法条件等について、その許諾に関わる利用方法及び条件の範囲内において、その許諾に係る著作物を利用することができる(63条2項)としています。 ここで最低限確認しておくべきことは、契約上の責任を法的に負える者を契約当事者と定めること、契約上の権利義務関係を明確にしておく必要があること。著作物の一部分が利用許可の対象である場合には、どの部分であるか明確に特定すべきであること、使用媒体・使用期間を明確にしておくこと等です。 3. 著作権者不明等の場合の文化庁長官の裁定による利用の場合 著作権者の不明その他の理由により相当な努力を払ってもその著作権者と連絡することができないときは、文化庁長官の裁定を受け、かつ、通常の使用料の額に相当するものとして文化庁長官が定める額の補償金を著作権者のために供託して、その裁定にかかる利用方法により利用することができる(67条1項)としています。 著作権処理のためには著作物の種類・保護期間を確認して、著作権・著作者人格権・著作隣接権の関係を把握し、事前に対処することが必要です。 Q写真を撮影し,デジタルデータとして保存する時そのデータの所有権は印刷会社にあるのですか。 A 印刷物の受発注形態は民法632条の請負契約に該当します。この請負契約とは,ある物を製造することを発注者が請負人に依頼し,請負人がその物を完成させその完成品に対して発注者が請負人に報酬を支払うことを約束した契約であり,当事者間の意思表示により成立する諾成契約です。 印刷物制作にあたっては,写真・フィルム・PS版等中間生成物が発生します。請負契約における取引の対象は,特約がない限り印刷物のみであり中間生成物の所有権は原則として印刷会社に帰属します。 ところで印刷物に使用される素材である写真などをその印刷物のために制作した場合,その写真の権利の帰属はどうなるのあろうか。 まず,著作権であるが,これについては得意先,印刷会社およびデザインを外注した場合の外注先のいずれが著作行為をおこなったかにより,著作権の帰属が決定します。もし,印刷会社の従業員であるカメラマンにより撮影されていれば,写真の著作権はカメラマン若しくは印刷会社に帰属すると解釈できます。一方,写真の所有権は,その写真が取引の対象となっていない限り印刷会社に帰属すると考えられます。 また,民法は物権の客体となるものは有体物に限られ,それも有体物の一部であってはならず,必ず独立した固体でなければならないとされています。したがって,デジタルデータは所有権の対象とはならず,そのデジタルデータの入った媒体が所有権の対象となります。それゆえ,この場合,当該媒体が取引の目的となっていないのであれば,印刷会社にその所有権が帰属することから,デジタルデータの入った媒体を返却する義務はない。 しかし,現実には印刷会社は画像データを保存しても他に使い用途が無く,多くの場合は得意先に売却するケースが多いでしょう。売却する値段については,当事者の話し合いで決定されています。 |
2000/07/11 00:00:00