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印刷ビジネスでのE-Commerce

日本のE-commerceは,BtoBを中心にビジネスが立ち上がっていくと予想されている。それを証明するかのように、今年に入り商社を中心にBtoBへの出資や参入が積極的に始まっている。  印刷におけるE-commerceは、1998年頃アメリカの印刷制作オークション他の出現で始まった。今彼らの多くが日本市場への参入を模索しているようだ。
 一口に印刷におけるE-Commerceと言っても、彼らの提供するサービス・ビジネスモデル・事業戦略は千差万別で、どこが最終的に生き残るか分からない。恐らく数年後には3社程度に絞られていくであろう。

E-Commerceの必要性

 なぜ印刷業におけるE-Commerceが注目を集めているのだろうか。
 まず,長引く不況により印刷関連企業間の競争の激化があげられる。他社に抜きん出た新たなサービス展開としてE-Commerceへの期待が高まっている。
 次に、今後起こりうる印刷制作工程の変化への布石である。CTPやオンプレスが普及してきたことで、出力(印刷)工程がいよいよオンライン工程の一部に組み込まれてくる。また校正機の供給が終わりに近付き、印刷制作工程のオンライン化の妨げになってきた校正の電子化(リモートプルーフ含む)に、本気で取り組む時期にきた。このことで制作工程全般のオンライン化、E-Commerceの導入が身近なものとなってきたのである。
 また、クライアントの要求がより厳しいくなってきたこともE-commerceが注目を集めている理由の一つであろう。今まで以上のコストダウン・オンデマンド性・One to One Publishingへの対応が求められている。品質を落とさずにこれらを実現するには、クライアントとのコミュニケーションの更なる合理化、E-commerceの導入が不可欠なのである。
 もちろん全ての印刷物がE-commerceに乗るわけではない。しかし何割かの印刷物・あるジャンルの印刷物は、確実にE-commerce化を、つまり今まで以上のコストダウン・オンデマンド性・One to One Publishingへの対応が求められているのである。
 これらに対応することは多大なリソース投入を要する。しかし時代はそれを求めている。それを後押しする様に経営革新支援法が施行された。企業努力へ、E-commerceへの対応を支援する環境はできつつある。

パートナー選びが重要

 E-commerceは、業務をアンバンドリングすることから始まる。業務内容を徹底的に分析し、自社のコアコンピテンシーを明確にしていく。コンピテンシーのない業務は極力それを得意とするアウトソーサーから調達する。現実世界のアウトソーシングでは、外部と自社内の業務を有機的につなげるために、必ずインタラクションコストが発生する。したがって、外部に頼んだ方が良くても、そのコストを考えるとアウトソーシングできないことが多い。しかし,インタラクションコストが最小化するE-commerceはアウトソーシングをいかに活用するかが重要になるのである。言い方を変えればコアコンピテンシーにリソースを集中させなければE-commerceでは勝ち残れない。
 例えば、A社、B社、C社がそれぞれ得意分野を持ち,インターネット上で横に連携していった結果、A社は開発、B社は販売、C社はインフラだけを提供することになっていく。すると、ここに最強のバーチャル企業が誕生するのである。
 E-Businessに参入する企業は、自社のコンピテンシーを見極め、最適なアウトソーシングパートナーをどのように選ぶのかが非常に重要になってくる。

最終形はe−コミュニティー

 E-commerceは1(購入者)対n(供給者)から1(供給者)対n(購入者)、そしてn(購入者)対n(供給者)へと発展していくと考えられている。n対nになる過程で吸収・統合が進み、規模が拡大するにつれその傾向は強まっていく。
 そこで勝ち残っていくには,Navigation機能が重要だと言われている。優良なNavigationはReach、Richness、Affiliationの3つの要素全てに優れる必要がある。
 Reachとはどれだけ多くのクライアントにアクセスできるかということである。マスマーケティングの考え方だ。Richnessは、どれだけクライアントにとって価値のある内容、密度の濃い情報を提供できるかということである。価値のある情報を提供するには、クライアント個々を理解している必要がある。これはOne to Oneマーケティングの考え方だ。E-commerceではマスマーケティングとOne to Oneマーケティングを同時に実現することを要求される。現実世界ではコスト面で両立しえない2つのマーケティングを一度に満足させることがE-commerceである。Affiliationは、誰の利益を代弁するかということである。現実世界では、供給者は自分の売りたいものをプロモーションする。当然といえば当然なのであるが、E-commerceでこの理屈はとおらない。
 E-commerceはその出発点がインターネットにあり、インターネットが商業ベースではない「善意の第三者の口コミネットワーク」であったことに起因している。商業インフラとなった今でもこの精神は生き続け、結果Affiliationは購入者の利益代弁であるべきとされているのである。実際、大手書籍販売サイトが、バナー広告順位を売買して、批判を受けたことがある。現実世界では当たり前の行為でもE-commerceでは許されない。
 以上を良く理解し、優良なNavigationを提供したサイトが勝ち残っていくであろう。
 勝ち残ったサイトもそのままでは存在意義を失っていくと考えられている。E-commerceサイトは何れ統一的なルールで運用、または統一的ルールを中間媒体として統合されていくと考えられているからだ。そうなると世界中の購買者と供給者はネットで結ばれ、仲介業者が入る余地が無くなるのである。
 その時、存在意義を失わない為に、コミュニティーモデルへと進化するしていかなくてはならない。コミュニティーモデルとは、あるプロセスを実現するに必要とされるものすべて手に入れられる「場」を提供するモデルである。印刷業におけるコミュニティーを例に取れば、クライアント(発注者)と印刷会社に留まらず、DTPメーカー・物流・情報提供者等が集う「場」に発展したサイトのみが、その存在意義を持ち続けるのである。
 ここで述べた統一的ルールはXMLにより実現されると言われている。この事はCRMに置きかえると理解しやすい。各企業・サイトのルールがRGB/CMYKでXMLがCIE色空間である。XMLは単に文章管理だけではなく、ルールの統合に大きな役割を持っていくのである。
 さてE-commerceの基本的な考え方について述べてきた。われわれ印刷関係者にとってE-commerceは対岸の火事ではない。また恐れるものでもない。今まで進めてきたオンデマンド印刷・ワントゥーワンプリントと言ったサービスを完成させる最後のステップなのである。自社のコアコンピテンシーの見極めとベストパートナーの選定を間違わなければ必ずや強力な武器となる。

通信&メディア研究会:Techセミナー「急進する印刷のEC」富士ゼロックス株式会社 星名勧氏の講演より)

2000/08/30 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会