本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

ISOの考え方と取得のポイント

高橋 登志男 氏
(元・日立印刷株式会社 取締役)


 当社がISO9000sの認証を取得するにあたって経験したことをもとに,取得にあたってのポイントをいくつか述べます。

■ISO9000sと印刷業界
なぜ印刷業界でISO9000sへの取り組みが少ないか
 印刷業界のISO9000s認証取得は150件を越え急速に増えているが,他業種に比較して数は多くありません。それは,印刷物の製作工程の特徴にひとつの原因があると思われます。印刷物をひとつの工業製品と見ると,汎用製品と注文製品の2つの性格があると言うことができます。工業製品でありながら,注文者の意向を入れたうえで仕様が決まる注文製品。これがISO9000sに取り組むうえで,ポイントになってくると考えられます。
 一般に,汎用製品の消費財としての自動車や各種家電品などは,設計図や生産方法が決まっていて,図面と材料を支給すれば,海外生産や外国企業が日本に進出して作ることもできます。
 一方,注文製品であるほとんどの印刷物は,前工程と後工程とで性格が非常に違います。前工程は一品注文品で,印刷用の版をひとつ作ればよいと言えます。ところが後工程の印刷・製本では,消費財の生産と似ていて,同一のものを大量に作ります。したがって,後工程は海外生産も可能です。日本語を知らなくても,その折り丁が何番目か分かるように色分けでもしておけば,製本の作業で不良を作らずにできます。

日本語印刷物の非国際性
 ISO9000s認証取得が少ない原因の2つ目は,前工程に高度な言語と文化の理解や処理能力が必要になることです。これは,言わば言語・文化の国際障壁と言えます。印刷業界には例えば,外国企業が進出して,「米国の印刷会社が日本に工場を作って,日本の印刷物をどんどん作るそうだ」といった話がいままでありません。一方,日本人は英語や他の外国語のカタログを制作しています。それは,米国人が日本語を理解して日本語の印刷物を作ることができないからです。日本国内向け印刷物の仕事中心であれば,ISO9000sの取得が本当に必要かどうかのポイントになると思います。

■ISO9000sと在来の品質管理活動の違い
 昭和30年代に日科技連や日本規格協会が中心になって,「トータルQC」(TQC)が提案され,それが非常に普及して,各産業が取り入れました。印刷業界も多くの企業がQCに取り組んでいました。こうしたこれまでの品質管理活動とISOは矛盾するのか,それともうまく取り込めるかについてふれます。
 「プラン・ドゥ・チェック・アクション」のサイクルがISOでも重要になってきます。TQCも同じことを言っていました。
 ISO9000sでの「プラン」では,方針や目標を立てることをまず求めています。方針とは品質方針のことです。この品質方針を立てることが,TQCでは明確に示されなかったことです。ISOでは,社長が品質方針を決め,それを従業員はもちろん,パートタイマーやアルバイトの従業員にまで到達させなければなりません。さらに,この方針を実行に移し,不都合が出たときは改善することを要求しています。
 「ドゥ」はシステム全体を作り上げて実行,運用することで,基本的にはTQCと変わるところはありません。「チェック」では,内部監査と経営者によるシステムの見直しを求めていることが大きな相違点です。「アクション」はTQCと同じに,見直しして改良したシステムをまた運用し,螺旋状にシステム全体を向上させていく考え方です。

文書と記録の管理の重要さ
 システム全体の運用において,文書の管理はISOでは非常に重要です。品質記録でも,日常の作業指示を伝票に記入したデータ,追記した結果の記録,審査を受けたときの記録,内部監査をした記録を残すことが重要です。データとは,例えばカタログを3000部受注した場合,その部数,製品の仕様や納期などのことです。データと記録の違いをしっかりと理解しなければなりません。

品質要求事項を満たすという考え方
 品質に関しては,従来のものはプロセスおよび仕事のアウトプットの質を問うことでした。しかし,ISOでは明確にされた購入者の要求事項が第一です。購入者である顧客の要求事項とは,例えば,「この赤字通りやってくれ」とか「赤の色はこういう色調であげてくれ」といったことです。
 次に,規定要求事項という自分の会社の中で決めていることがあります。TQCではこれが大きな比重をしめており,自社内の規格で良否を決めていた例は多いでしょう。その他,印刷物では例は少ないですが,法的な規制を満たさなければならないPL法などに関連するような問題もあります。これらの要求事項を満たす製品を作り出すという考え方が,自社の決めた品質規格に満足すればよいと考えた従来の品質管理とは違う点です。

会社内での実際の活動
 活動については,どちらかと言えばTQCは自主的活動で,品質を担当するスタッフや社内の小集団などが中心になって行うという考え方でした。しかしISOは,命令系統を明確にして行うトップダウン型です。ただ,トップダウンでも,社長1人の命令だけでうまくいくわけではないので,特に事務局の担当者がスムーズな活動のためにサポートする必要があります。

従来のTQCのよさを生かすこと
 ISO9000sを上層,TQCを下の層と位置付けて,重層構造でISOを進めるのがよいと考えています。従来の品質管理の小集団活動やQC手法など,いいものは大いに役に立ちます。その上にISO9000sを位置付け,うまくミックスさせるとよいでしょう。ただ,ISO9000sが要求していることを満たさないと,いくら「私どもでは品質管理をやっている」と言っても,審査は通りません。


■ISO9000sの認証取得のねらいと効果
 ISO取得については,絶対必要なものとは言いきれません。例えば,日本製の外国向け印刷物を家電品やカメラと同梱して海外に輸出する場合に,認証を取っていないと輸出できないといったことは,すぐには起こらないでしょう。また,日本国内の地方公共団体が,認証がなければ印刷物の入札をさせないことも,しばらくはないでしょう。それでは,ISOが必要ないのかと言うと,やはり取得したほうがよいと考えます。経営のひとつの手段として,取得するほうがいろいろな意味でよいからです。

ISO認証取得の理由
 日刊工業新聞社発行『工場管理』1997年第4号の中に,「中小企業がISO9000sを取得したい理由」が出ています。そこには,「品質の向上」「社員の意識の改革」「会社のイメージアップ」「社内組織文書整備をしていきたい」「トップの意向」「取引先の意向」「PL対策」「同業他社との対抗上」などがあげられています。これらの中には,印刷会社にも該当するものがいくつもあると考えられます。
 当社は日立製作所の子会社で,日立グループの仕事をしていますが,ISO9000s認証取得をしなければ仕事を発注しないということはなかったので,「顧客の意向」により取得したわけではありません。しかし,日立製作所の各工場などから,当社の品質管理について調査するために,購買担当者が来ます。その調査内容は,ISO9000sの要求事項にそった内容で構成されています。ISO9000sには下請負先の評価という項目があるので,ISO9000sを取得している会社は,当然ISOにそって協力会社の調査をしているわけです。当社も日立製作所の工場から見ると,下請負契約者なので,品質管理の方法が問われます。この意味では,「取引先の意向」もある程度はあったことになります。この他,できるだけ経営の質を上げていこうとの社長方針もあり,そのツールとして取得したのが,いちばんの理由です。また,「顧客満足度(CS)の向上」や「信用向上」の他,内部要因としては不良低減,業務効率向上も理由にありました。

■認証範囲は企業の方針で決める
 認証取得の範囲の問題もあります。当社の場合は,生産管理の範囲までとして,営業は含めていません。ISOの要求項目の中に,4.3項「契約内容の確認」があります。例えば,営業から工務に仕事が流れ,工務で仕様があいまいなまま製造現場に流れて,製品不良になるケースがあります。入稿時の印刷物の仕様確認,最終校了紙の確定は,ISOで言う「契約内容の確認」に相当します。しかし,営業マンと工務マンの力量にも依存し,明確な線が引けずにいるのが実態です。
 この点が当社でも悩みで,認証の対象範囲をどこにするかということとも関係します。当初は,営業を含めることも考えましたが,前記のような例の場合に営業を含めると,「契約内容の確認」については複雑になってしまいます。そこで,まず営業は除いて,「契約内容の確認」は工務の仕事と定義付け,生産管理以降を認証取得の範囲にしました。

費用対効果も考える
 認証取得にかかる費用について述べます。
 前述の『工場管理』のVol.40−No.1では,64%の企業が200〜400万円の費用をかけているというデータが出ています。当社の場合も,準備段階から外部に支払ったものを含めて,審査登録に要した費用はこのデータとほぼ一致します。コンサルタントを使っているケースでは,この範囲以上となるでしょう。200円以下の企業も12%ありますが,そうすると担当するスタッフの負荷は大きくなります。努力をすれば,会社にとっても費用対効果は十分上げることができるでしょう。

■認証取得における管掌役員担当を明確にする
どの役員が担当するか
 認証取得にあたっての,経営者の役割について述べます。
 ISOの要求では,4.1.1に「執行責任を持つ供給側の経営者は……」とあり,管掌役員を決める必要があります。当社の場合,ISO9000s取得にからむ部署の役員は,品質保証・環境・研究開発部門の1人の取締役の他,製造部門を担当する取締役製造本部長,取締役総務部長の3人でした。
 企業により,社長が自ら担当する場合もあります。当社では品質担当の役員があたることにしました。直接,製造部門へ指揮命令ができる点では,製造本部長のほうがより適当であるかもしれません。
 また,ISO9000sの認証取得を検討することの一環として,取締役会の場で勉強会を行う必要もあるでしょう。当社でも,品質保証部統括部長が取締役会の席上で,ISO9000sの全体像について,資料を用いて説明しました。社内全体がISO9000sに取り組む姿勢がないと,途中で不協和音が出る原因にもなります。
 当社でもISOの取得の話が出たときに,日常の品質管理を担当するわれわれの間では,まず製品不良をなくすことが,ISOを取るよりも先ではないかという論議がありました。言うまでもありませんが,ISO9000sを取得すれば不良がなくなるわけではないので,事務局は取得目的と取得姿勢を社内に徹底することが求められます。
 当然,取締役会で会社としての取り組み姿勢を明確化し,取得へ向けて社内の空気を作り出しておかなければなりません。また,取得までの主要実施事項,予算,いつ本審査を受けるかなど,予定の概略を取締役会にかけておくことが必要です。

品質方針と管理責任者の決定
 品質方針の決定では,当社の場合は社長の承認を得て,社長の品質方針ということにしました。役員会で決めたうえで,社内に展開しています。
 当社では,名刺サイズほどの用紙に,品質方針を社長名で作成しました。用紙を3つ折りにして,内側に「私たちの使命」の他,「当社の品質システムの文書体系」「私の役割」「私の職場の品質目標」を書けるようにしたうえ,パートタイマーを含む全社員に配っています。第三者機関による審査のときに,パートタイマーが審査員から当社の品質方針について尋ねられても,このカードを見て,「われわれは,こういう品質方針で日常作業をしています」と答えられます。このように,末端の社員にまで,会社の方針・目標を徹底させやすくしました。
 品質方針を答えられない場合,そのパートタイマーの責任ではなく,管掌役員が何もしていないことになります。審査のときに,いくら社長や役員が説明できても,経営者の役を果たしてないことになります。
 この品質方針とあわせて,管理責任者も決めなければなりません。管理責任者の候補者たちと事務局を中心に,管掌役員はこうしたカードなどを事前に,あるいは平行して準備し,取締役会の承認をもらうとよいでしょう。

認証機関の得意,不得意を見て選定
 認証機関の選定にあたっては,認証機関によって,ある程度得意な分野と不得意な分野があるようなので,配慮する必要があります。

コンサルタントの活用の可否も重要な問題
 当社では,コンサルタントを使わずに認証を取得しましたが,管理責任者と事務局の担当者がその分,余計に苦労したと言えます。コンサルタントの活用については,経営者や事務局の担当者で,よく論議したうえで,費用・効果も含めて検討したほうがよいでしょう。
 相対的に言えば,コンサルタントを利用したほうが事務局,管掌取締役の悩みなどは解消できるでしょうし,第三者機関の審査を受ける際の自信もつくでしょう。ただし,あまりコンサルタントに頼ってしまうと,本当に自社の力で取れたことにならないため,後々苦労することにもなります。
 取得までのスケジュールを社内で明確にしておくことも,管掌取締役の役割です。全体の進行予定がはっきりしないと,管理責任者も苦労しますし,その下のラインの課長クラスも,現在,全体スケジュールのどの時点にいるのか分からなくなることがあります。

ISOの責任と権限は職制との関係調整が重要
 本審査を受ける前に内部監査を終えます。本監査のときは内部監査の結果を提示する必要があるので,早めに内部監査員を養成し,選定を行っておく必要があります。内部監査員の対象は課長クラスが中心になるでしょう。内部監査員は自分の職場を監査できないので,例えば製版担当の課長は印刷職場や製本職場など,異なる職場を監査することになります。これによって,社内もオープンな形になるというメリットがあります。
 次に,ISOのシステムにおける責任と権限については,ISO体制と会社職制との関係が問題になります。ISOでは,他の責務とは全く独立して,このシステムを運用していく責任を,その管理責任者に全部まかせることを求めています。当社の場合,管理責任者は品質保証を担当している役員の下の職制としました。製造管掌取締役の下にある職制ではありません。
 しかし,ISO9000sを運用していくうえでは,この管理責任者に,例えば製造各職場に対して下命する権限を与えます。ですから,会社の職制とISOを運用していく推進体制が必ずしも一致しないこともあります。このことを社内で明確にして運用しないと,問題を起こす可能性があります。ISOの項目の中でも,命令・責任・権限を明確にしておくことを要求しています。そのためには,自社のISOの推進組織図,職制の組織図を作成しておくことが求められます。

■経営者に求められる執行責任
 ISO9000sの項目に,4.1項「経営者の責任」があります。そして,具体的に4.1.1「品質方針」,4.1.2「組織」,4.1.3「マネジメントレビュー,経営者による見直し」があります。この点が従来の品質管理と大きく違う点でもあります。「マネジメントレビュー,経営者による見直し」については,最後に説明をします。
 JIS規格では何を見ても,「経営者の責任」などの項目はありません。また,製品の寸法精度を決めるときにも,経営者が果たす役割は全く求められていまん。しかし,ISO9000sでは経営者がすべきことを要求しており,この点は重要なポイントです。
 4.1.1「品質方針」では,4つのポイントがあげられます。まず,「執行責任を持つ供給側の経営者は品質方針を定め,文書にしなければならない」。供給側とは,自分の会社であり,経営者とは管掌役員のことです。当社におけるこの具体例が,前述した3つ折りのカードです。ISO9000sの審査では,管掌役員が面談するので,この方針はきちんと押さえておくことが重要です。
 2番目に,品質方針には「品質に関する目標および品質についての責務を含むこと」があります。当社の品質方針では,目標および品質の責務とは,顧客の信頼を得ることと,満足してもらう製品を提供することです。ここから作られる目標は,項目によっては,必ずしもすべてが数値化できるものではありません。品質方針はあまり細かく書かなくても,次のレベルの目標や,下位文書で具体化すればいいわけです。
 3番目に「品質方針は組織の到達目標および顧客の期待ニーズに対応するものであること」とあります。この「対応するものであること」は,直接それを方針中に記述しなくてもいいでしょう。当社の場合,「お客様の信頼と満足をいただける」に関しては,品質第一に徹することで,顧客の期待やニーズに応えられることになると考えています。
 4番目に「組織のすべての階層によって理解され,実行され,維持されることを確実にすること」とあります。「すべての階層」とは,社長からパートタイマー,アルバイトまでも含みます。「実行され」については,これを会得して日常生産活動をきちんと行っていれば,実行されていると解釈してよいでしょう。「維持される」とは,例えば,数年経って品質方針に不都合が出てくる可能性もあるわけですが,その場合に品質方針の改訂・メンテナンスを行い,新しいものに変えることです。
組織について
 4.1.2「組織」があります。さらに,4.1.2.1「責任および権限」が出てきます。日本では,どの組織も「責任と権限」がはっきりしていないとよく言われます。
 「組織上の自由および権限を必要とする人々の責任,権限および相互関係を明確にし,文書化すること」とあります。これは,特に次の事項に関しての要求です。
 a)「製品,プロセスおよび品質システムに関するすべての不適合が発生することを予防する行動を始める」。この内容は,日常の仕事で製品不良が出ないように,製造部門の課長クラスも,担当者クラスも全員で,それを防止することを行っているので,全社員にあてはまる項目です。
 そして,b)はこの活動を記録することの項目です。例えば,発注担当者が協力会社先に立ち会って,「これで刷り出しOKなので作業を進めよ」と指示を出したとします。このことを,発注伝票の発行元(控)の備考欄に担当者名,日付印などを押して記入しておくと,それがISOの求めている記録になります。何か特別のことを行うのではなく,日常の伝票類をうまく活用することで記録になります。
 外注先に「部数は何部で納期はいつまでに,こちらから立ち会いに行く」と書いた発注書の内容は,ISOで言う品質データであると理解できれば,データと記録の違いも分かりやすいでしょう。また,全体のシステムに関するデータ・記録と,日常の個々の受注品のものと切り分けることが大事です。
 次に,c)「所定の経路を通じて解決策を開始し勧告し,または提供する」があります。これも,課長が自分の部署で不良が起きれば問題解決にあたるし,また,他部門が原因で不良があったら,そこに解決を要望することになるので,課長クラスはみな,あてはまります。「次の事項に関して,組織上の自由および権限を必要とする人々」の「人々」には,課長クラス,担当クラスの人はすべて入ると考えて対応することが求められます。

■経営資源についての要求
 それから経営資源,つまり人・物・設備・製造環境などを全部含めて供給者(わが社)が「管理,業務の実行および内部品質監査を含む,検証活動に対して……それを提供すること」があります。
 検証活動も分かりにくい言葉です。物を検査すること,内部品質監査をすること,業務が計画通り行われているかを検証することも,日常確認するという言葉を使用します。安易に置き換えることをしてはいけないのですが,それも検証になります。
 4.1.2.3管理責任者について,「執行責任を持つ供給側の経営者は,自社の組織内の管理者の中から責任者を選任し,他の責任と関係なく次の事項について明確な権限を持たせること」とあります。次の事項とは,a)品質システムをISO9000sに従って確立し,実行し,維持するにあたり,ISO9000sのシステム全体についての権限を管理責任者に持たせること。そして,b)品質システムの見直しおよび改善の根拠とするため,品質システムの実施状況を経営者に報告する権限を持たせることです。

経営者による見直し
 最後に,4.1.3「マネジメント・レビュー,経営者による見直し」についてふれます。これも,実質は行っていたとしても,いままでの品質管理の概念にはないものでしょう。執行責任を持つ供給側の経営者は,「ISO9000sの要求事項,および供給者が定めた品質方針,目標を達成するために,品質システムが引き続き適切かつ効果的に運営されることを確実にするのに十分な,あらかじめ定められた間隔で,これを行う」ということです。
 当社の場合は,半年に1回ずつマネジメント・レビューをすることにしています。これを行うための機関で品質システムを見直し,この見直しの記録は保管することにしています。この記録が審査のときにチェックされて,その結果,この会社の品質システムは経営者による見直しをISOの要求どおり行っていると判断されます。これをしていないと不適合になります。
 当社では認証取得後の定期審査を受けたとき,この4.1.3項で1件の不適合が出ました。認証取得時には,経営者によるシステムの見直すべき項目として,10項目ほど最近の技術動向や顧客動向をあげていました。見直しの際,この部分は審議を初めからやめました。例えば,顧客動向が変わっていれば見直す必要があるが,現在は問題ないだろうということになり,審議しなかったのです。また,見直しをしていないので記録にも残さぬままでした。それを指摘され,1件の「不適合」になっています。10項目をあげていたら,10項目の全部を見ることが求められています。つまり,「顧客動向はこのところ特に大きな変化がないので,見直しの結果,対応は要しない」ということを記録しておかなければならなかったのです。このような進め方がISOのシステムであり,また審査ポイントです。

以上,ISO取得への取り組みにあたっての経営者の役割を中心に述べてきました。今後の参考にしていただければ幸いです。(プリンターズサークル1999年3月号掲載より)
※高橋氏は2000年6月に日立印刷株式会社を退任されました。

[注意]
ISO9000sは、今年(2000年)改訂作業が進められている。本記事で述べられている規格は94年版である。2000版についての情報や環境ISOについては9月中旬ごろに掲載予定。


このコーナーのトップに戻る

2000/08/29 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会