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ISO9002取得とAPIS運動で増収増益を展開

能登原 圭一 氏
(日宝綜合製本株式会社 代表取締役会長)


■増収増益は5つの要因に集約される
創業は1951年で,日本の宝と呼ばれる製本会社になりたいという願いから,社名を「日宝綜合製本」とした。1974年に岡山市内の4つの製本会社が合併して,西日本の製本業界でトップの規模となり,現在の会社の基礎が作られた。1998年9月28日付でISO9002認証を,関連会社である発送代行の(株)ジップとともに取得した。
1993年,94年と経常利益が対前年を下回ったが,以降は5年連続で増収増益を達成している。主な成功要因は,次の5つに集約される。@経営即品質を最大のテーマに取り組んできたことがISO9002の認証取得につながり,既存客の信頼は増進し新規客が増えた。A中期5カ年計画を策定し,推進担当者,推進責任者,担当役員を決め,予実管理を徹底している。B自社内に開発部門,VINEXを設け,新しい機械や糊の開発などの新商品,新技術の開発をしている。C独自開発の新商品,新技術を売る提案型の営業力によって,24種類の新商品,新技術が売り上げ全体の40%を占めている。DAPIS(小グループ化)によるコストダウンの達成がある。

■ISO導入のきっかけは顧客対応
ISO導入の直接のきっかけは,「これからは外注先を採点して,点が悪ければ仕事を減らし良ければ増やす」と顧客に言われたことによる。経営理念の第1項にも「お客様から,信頼され,期待され,なくてはならない会社になる」とあるように,創業以来品質第一できたことが,ISO認証の取得にもつながった。
ISOを導入すれば,品質保証体制が構築できると判断して取り組んだ。ISOの長所は,ベテランであろうと新人であろうと,作業のやり方を手順書できちんと決め,工程内で検査をする箇所を検査手順書で決めている点だ。ISOを通して,これまでは不可能だったが,クレームが発生した時マックス何冊出るかを知りたいという顧客ニーズに対応して,30分以内に不良冊数を限定できるようになった。
事業計画も,「年間事業計画を立てる→推進者を決める→推進責任者を決める→計画通り推進されているかチェックする担当役員を置く」のチェック体制で守られている。ISOでは,「できませんでした」では済まない。
ISO9002認証を受けるために行った主なことを列挙すると,

 ・作業のやり方を決める→作業手順書作成→チェックポイントをグループ全員が理解
 ・工程内で検査する箇所を決める→検査手順書→検査員を指導,検査資格を与える
 ・記録を残す→クレーム発生時にマックスで何冊不良本が出るか判定できる
 ・他工場で発生したクレーム→全社に水平展開→予防処置
 ・教育・訓練→記録→やらざるを得ない仕組み
 ・担当者→責任者→登録
 ・決めた通り行っているか→内部品質監査→資格者28名

社内造語だが,売上高を「信頼高」,利益は「努力高」と呼び,試算表など会社書類にも表示している。

■ISOで従業員の品質への考え方が変わる
ISOの取得で一番変わったのは,社員の品質に対する考え方である。毎朝朝礼で品質方針を唱和させたり,給料袋に社長コメントで品質方針を謳って理解を求めたり,品質方針に関する理解度調査やアンケートを行ったりと,パート社員に至るまで,品質に対する意識を高めるために手を尽くしているが,確実にその成果が出てきている。
エンドユーザからの要望で,製本はISOの認証企業に外注する印刷会社が増えている。取引が全くなかったところからも問い合わせがくるし,印刷会社がエンドユーザにISOの取得企業として紹介してくれている。新規の顧客に品質システムを説明して,工場を実際に見てもらうと,安心するのか,大体受注につながる。認証取得以来,8カ月で新規顧客が50社くらい増加した。
たいていの印刷会社は,数社の製本会社と取引があるが,認証取得後は難しい仕事の場合,指名されることが増えている。従来の製本会社が何かの問題を起こしたとか,怖くて現在発注している製本会社に出せないので頼む,というような依頼が多い。

■工程内異常は宝の山
作業記録を残すと,さまざまな問題点が出てくるので,社内の改善活動も活発になってきた。1998年8月1日から1999年1月31日までの6カ月のデータを見ると,クレーム(破れ・汚れ,傷が半分,ズレ)193件,工程内異常(丁合ののせ違い,折りの不良,断裁ミス)293件,印刷不具合報告書が1300件あった。この内容を全部つかんで,是正処置を行った。履歴を取ることでデータが集計され,原因がわかるし,対策が打てる。工程内異常は宝の山といえる。
今までは記録がないので,データも何もなかった。ISOと取り組むことで,データは出るし,金額も明らかになる。この金額たるや何億円になる。工程内異常とは検査部署が検査によって発見したもので,手直し,あるいは一から印刷してもらわないとだめな場合もある。そうすれば印刷代が掛かるし,さらに加工するので手間と時間がかかる。これを3カ月で半分,あるいは3分の1にしようと,各工場で目標を立てて,減少に取り組む。
このようなクレームの把握には「率」を使わない。全部を冊数でつかむ。1冊悪い本があっても,それを買ったお客さんには100%悪い本ということになるから,クレームは「率」で表すものではないと考える。定数が20万冊で不良本が1冊,2冊と表示をする。

■ISOとAPISが並行して相乗効果
ISOと並行して,APIS運動を実施することで相乗効果を上げている。APISは10工場における10人以下のグループによる内部独立採算制度で,既に20年のキャリアがある。現在67グループが活動している。
今期経常利益の目標額を決めたら,各工場の利益目標が決められ,さらにグループごとの目標額が割り振られる。各グループはグループ長を中心に,いかにしてクレームと工程内異常を減らして,利益を出すか努力する。
例えば,これまで8人で1日5万冊の本を作っていたグループが,6人で同じ仕事を処理できるようにして,残りの2人を忙しいグループに出向させて,基本料金分を稼ぐ。1人1人の従業員がどれだけ利益に貢献したかも明らかになるし,利益目標を達成してプラスが出た場合,3カ月ごとに集計して,その10%を成果配分している。
APISは当初いかにして仕事のやりがいを見出すか,50%のコストダウンをするにはどうすればいいかを追究するところから始まった。現在では成果配分を受けるグループが増え,それにつれてクレームや工程内異常をいかになくすかの工夫が進み,いかに機械を止めないか,そのために機械のメンテナンスもしっかりするようになった。定時間内に機械が止まらないようになり,耐用年数もこれまでの10年程度から15年以上使えるように改善され,生産の効率化につながっている。 ISOとAPISが両輪となり,当社の増収増益が続いている。(本稿は6月2日のセミナー「ISOでわが社はどう変わったか」における日宝綜合製本(株)能登原圭一会長の講演の要約である。文責:JAGAT/JAGATinfo1999年9月号掲載)。



2000/08/29 00:00:00


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